第30話 試合前夜の女神様
ギガデスの出迎えを終えた俺たちは宿舎へ戻り、そのまますぐに練習に移行する。
試合前日だが練習内容は一旦昨日までと同じで大丈夫と判断。ギガデスのパワープレイに対抗するために少しでも連携の質を上げてもらいたい。
そんな中俺はリーダー3人との話し合いを開始する。
「ギガデスのプレー、どう思った?」
「想像以上にマズいですね……。
身長差での力の有利は脅威ですが、上手く活かさなければ充分に力を発揮することはできません。3m近くの身長があるのなら僕たち相手に力を上手く発揮できない可能性も考えてはいたのですが……」
「"キラー"だったか。あの無駄の無く俺たち相手にも100%の力を発揮できる姿勢。
正直ここまでとは思わなかった」
「そうだな。俺たちのチームで1番のパワーを持つブラドでさえ歯が立たなかったんだ。単純なパワー勝負では勝てないと思った方がいいか……」
アラン・クレ・ヘンディ、3人とも意見は同じようだ。
有利を100%押し付けてくる。星の命運がかかった試合なんだからここまで仕上げてくるのは当然といえば当然か。
それにあの統率された動き。もしかしたら今回の件以前からチームとして何か活動をしていたのかもしれないな。
「てかそのブラドだよ! 大丈夫なのか? 今もかなり元気ないみたいだけど」
ゴザとの勝負に負けたブラド。駆け付けた俺に対して弱音を吐いたがその後すぐに撤回、強気に振舞おうとしていたが今はまた気を落としてしまっている。受けた傷は大きいか。
「彼は自分の力に絶対の自信を持っていましたからね。相手を上位互換と認識したのなら自信を失うのも理解できます」
「それにタイミングが悪かった。
みんなのことを認めさせるためにチーム一人一人に長所がある、みたいなことをブラドに言った。
あいつは自分の長所をパワーだと認識したのにそのすぐ後の出来事だからな。
俺たちの作戦が裏目に出ちまった」
「まあそんな気を落とすなって龍也! 試合前までのブラドのケアは見事だった! 今回の件が無ければいいチームになれてたはずだ、自分のやり方に自信持っていいと思うぞ!」
「確かにそこまでは見事でしたが今はそう楽観的になってもいられません、ネイトくんのこともありますし」
「仕方ないな。ネイトは元々怖がりな性格だ。直そうとはしているがギガデスの荒々しいプレーを見たら恐怖を覚えても仕方がない」
「でもさ! 凛! 凛はしっかり練習にも参加している! そんな悪いことばっかりでもないだろ!」
「凛さんが立ち直ってくれたのは本当によかったです。アリスさんたちには頭が上がりませんね」
そんな凛。将人も謝られたと言っていたしかなり安定していると言っていい。
ブラドとも対話しようとしている様子が見られたが、如何せんブラドの様子がおかしいせいで話しかけられないでいる。
「まあこんな感じか! 不安要素は多いけどそれでもサッカーを楽しむ心を忘れなければ絶対に勝てる!
ゴザの言葉覚えてるか? サッカーなんて力が強い者が勝つくだらないスポーツだって。
そんな認識のやつに負けたくない! 頑張ろう!」
「そうですね、あれのように有利な点もありますしね」
「そうだな……!
じゃあ明日の試合まで、各々全力を尽くそう!」
その後は俺たちも練習に参加する。午後からは監督に練習内容を変更してもいいと言われていたので少しだけ特殊な練習に変更した。みんなギガデスのプレーを見て焦りが生まれたのか、前日までと比べてより一層練習に力が入っているようだ。
しかし問題はブラドとネイト。
ブラドは空元気で練習に参加しているため逆に声をかけづらいし、声をかけても大丈夫と返されたら言い返せない。
ネイトは完全に恐怖に負けていて、無理やり参加させるわけにもいかないため今はどうにもできない。
それにギガデスのゴザとの勝負。
正直勝負内容はただの力比べ。ギガデスの選手の"キラー"以外のプレーの特徴は隠されているように思えた。
恐らく自分たちのプレーは見せないよう指示してあったのだろう。
キャプテンのガロ、彼なら頭もキレそうだしそういう指示を出していてもおかしくはない。まあこれに関しては悪いことばかりではないのだが。それでもあの馬鹿力に頭脳が加わるとなると……中々に厳しい戦いになりそうだ。
それだけにチームがまとまりきっていない今の状況はキツい。もっといい方法もあったはず。事実ミアたちに任せた凛は上手くいっている。
……やはり俺のキャプテンとしての実力が足りていなかったな。
色々と手を尽くしたはずなのに現実はこれ。自分の力の無さを痛感する。
不安要素が消えないまま今日の練習は終わり、晩飯を食べて俺は部屋に戻る。
明日の試合が不安で心が折れそうだ。俺は頭を抱え、うずくまる。
そんな時部屋のチャイムが鳴る。
「龍也くん、今大丈夫ー?」
突然の来訪者に驚きながらも俺は返事をする。
「あ、ああ、大丈夫だ。なんだ? 未来」
「大事な用事! 入っていい?」
まさかの展開に少し緊張する。夜に異性の部屋に行くのは禁止されていないがいいのだろうか?
まあ幼なじみの未来と今更何かあるとも思えないしそこまで気にすることでもないか。無理やりそう考え心を落ち着かせる。
「いいぞ。今開けるな」
そう応えて俺はそうボタンを押す。これで来訪者が部屋にワープされるのだ。
ワープしてきた未来は風呂上がりなのか、髪も少し濡れてて色っぽい。と、そんな邪念を振り払うように頭を振り、未来と向き合う。
「で、こんな時間に何の用だ?」
「うーん、用って程でもないんだけど、ちょっと話がしたいなーって思ったんだよね!」
「……?
今か? 明日試合だーってタイミングなんだけど……」
「今だからこそだよ! ほらほらー、座って!
でね、この前ね――」
半ば無理やり会話に参加させられる俺。しかし久しぶりの未来との会話は楽しく、オグレスの科学の発展した町についての話や監督に付いて行って会場決めのコイントスをした時の話、俺の知らないチームメイトの話から俺たちが幼い時の話まで色々な話をした。まるで昔に戻ったようで一時的にだが不安を忘れることができた。
「なんだよそれ〜、はははっ」
「……!
やったーーーっ!!!」
話している最中、突然未来が大きな声で喜ぶ。
「うわっ! びっくりした! 急にどうしたんだよ」
「だって龍也くんが笑ったんだもん!!」
未来は満面の笑みでそう答える。
「……え? 笑ったってそれがなにか……?」
「あ、やっぱり気づいてなかったでしょ! 龍也くんここ最近全然笑ってなかったんだよ?」
「え」
そんなはずはないと最近の俺を思い返してみる。
確かに笑顔になることはあった。しかし心から笑っていたかと聞かれると違う気がする。心から笑う……あの宇宙人襲来以降もしかしたら一度も心から笑えていなかったのかもしれない。
「そういえば……そうかも……」
「そうだよ! 私も心配だったんだから! でもね、龍也くんキャプテンに選ばれて必死に頑張ってたから邪魔になっちゃうかなって遠慮してたんだ。
それでも今日の龍也くん! 部屋に戻る時! 顔酷かったよ? 気づいてた?」
「え……まじ?」
「まじ! さすがにこれはダメだなーって思って部屋に来たの! どう? 元気出た?」
「元気……出た」
「ならよかった! 龍也くん昔から1人で抱え込みすぎちゃうから、キャプテンに選ばれて心配だったんだぁ」
「でも俺一応アランたちに相談してるし……」
「してない! いやしてるけどね? 本質的にはしてないんだよ。
どれだけ頼っても最後は自分でやらなくちゃって思ってる。
わかるよ、幼なじみだもん!」
「そう……なのかもな……」
「トール会長も言ってたでしょ? サッカーを楽しめって! 龍也くんにはその気持ちを忘れないでいてほしい!
だって私はそんな龍也くんが……あ! 嘘! 何でもない! 忘れて!」
突然顔を真っ赤にして否定しだした未来。何を言おうとしていたのかはわからないが俺の事を思ってくれているのは確かだ。
それに今このチームで1番俺の事を理解しているのは未来だ。その未来がこれだけ言うんだから相当だったのだろう。心配かけて、ダメだな俺は。
「心配かけてごめんな未来。
確かに頑張りすぎて、焦りすぎてもいい事なんかないもんな。
そして、サッカーを楽しむ気持ち。うん、絶対に忘れない」
「……!
その笑顔こそ龍也くんだよ!
ふぁーあ、なんか安心したら眠くなってきちゃった。明日も試合だしそろそろ寝なきゃだね。
じゃあそろそろ戻るよ。明日の試合、なんとかなるって!」
未来はガッツポーズしながらそう言い残し部屋を出て行った。
不安が無くなったわけではない。何かが解決したわけでもない。
それでも俺の心は晴れ晴れとした気分になっていた。
「サッカーを楽しむ、か」
俺はもう一度そう呟きベッドに入る。
今日は久しぶりにぐっすりと眠れそうだ。
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