第22話 仁義なき戦い 第二戦
「ちょっと? 盛り上がってるところ悪いけど次はボクの番。早くコートに来て」
安心もつかの間、次は凛の番。
正直将人の実力はよく知ってるからブラドと戦っても引き分ける可能性は高いと予想できた。
しかし凛の今の実力は未知数。大きな実力差は無いと思っているが結果はわからない。
とはいえ一応将人との勝負でブラドは疲れている。状況としては凛に有利なはず。これで凛が2連勝してしまうのも喜ばしくはないが、ブラドに2連勝されるよりはマシだろう。
とりあえずブラドの2連勝だけは避けてほしい。俺にはもう祈ることしかできない。
「まあそう急かすなよ。てかお前なんで息切らしてんだ?」
ブラドの言葉を聞いて凛を見てみると確かに少し息を切らしているようだ。
「あぁ、今走ってたの。当然でしょ? あんたは今勝負したばかり。疲れてたから、なんて言い訳聞きたくないしね。これで対等。さあ、いざ勝負!」
おい!!! 俺は心の中でツッコミを入れる。
あくまでも対等に。その心がけは立派だけども!
できれば相手の疲れまで利用する選手でいてほしかった。
……いや、これが中園凛なのか。
当人がこんなに立派なのに俺がじたばたしてたら悪いな、頭を切り替えてこの勝負を見届けよう。
「2人とも準備はできたか? 始めるぞ!
よーい……スタート!」
合図と同時に飛び出したのは凛。
そして待ち構えるブラド。
ここまでは1戦目と同じ。
一瞬の静寂。
先に仕掛けたのは……凛!
「……すげぇ」
隣で見ていた将人が思わず声を漏らす。
もちろん俺も同じ感想だ。ブラドと相対した凛は、かなり高い難易度のフェイントを連続して繰り広げている。
技の幅広さに正確さ。かなり練習したのだろう。
ブラドは翻弄されて迂闊に動けない。
「どう? あんたみたいなパワーは無くても戦えるだけの武器がボクにはある!」
その後もキレを増すフェイントにブラドが一瞬怯んだ。その瞬間を見逃さず凛が抜け出す。
「は! 全然大したこと……」
「うぉらあ!」
「きゃっ!」
追ってきたブラドの激しいチャージに堪らず凛は倒れる。
「ガハハ! お前もフェイントの練習たくさんしたみたいだけどよお、俺様のパワーとスピードの前には無力なんだよなあ!」
「くっ」
素早く立ち上がりブラドに突っ込む凛。
体を入れてディフェンスをするもブラドのパワーの前にあえなく弾かれてしまう。
そのままブラドがゴールへ。シュートを決める。
「ゴール! 1戦目はブラドの勝利!」
マズいな。
凛の実力は高い。あのフェイントは彼女が言うように日本代表にいても余裕で通用していただろう。
特に技術でディフェンスをするタイプの相手には滅法強い選手だ。
しかし相手が悪すぎる。
ブラドにももちろん高い技術はある。しかしそれ以上に恵まれた体格から繰り出させるパワーとスピードが持ち味の選手。
どれだけフェイントをかけようともパワーで上から潰されてしまう。
「どうした? でかい口叩いてもう終わりか?」
「はぁ、まだ……やれるっ!」
凛はまだ諦めることなくコートへ向かっていく。
「なあ、龍也」
「ああ、これは……。
……けど、俺たちにはどうすることもできない……」
両選手が再びポジションに着く。
「早く合図して」
「……2戦目。よーい……スタート!」
今度も凛がボールを取ろうと飛び出す。
しかし……
「どけえ!」
今まで最初は相手にボールを取らせていたブラド。ここに来て開始直後からボールに飛びかかる。
2人の体格差は一目瞭然。当然のように凛が弾かれてしまう。
「ぐっ」
「時間の無駄だ。お前じゃ俺様に勝つことはできねえよ!」
「馬鹿に……するなっ!」
倒されても立ち上がり凛はブラドに立ち向かう。
また倒されてまた立ち上がり、何度でも何度でも。
「少し体格に恵まれただけの男なんかに……ボクは絶対に負けない……!」
声を上げて立ち向かうも現実は無常。ブラドに弾き返されるのみ。
「無理なもんは無理と諦めるのもありだと思うぜ。じゃあな」
そう言ってブラドはシュートを決めた。
「……ゴール。2戦目もブラドの勝利。
よってこの勝負……ブラドの勝利」
「ガハハ! 当然の結果よ!」
俯いたままの凛に近づきブラドは声をかける。
「じゃあ約束通りコートから出ていってもらうぜ」
「おいブラド! もう少し人の気持ちを考えてやれよ!
それに見ただろ? あのフェイント。技術力はお前より圧倒的に上だぜ? 試合には相性よく勝ったとはいえ総合力だとどっちが上かはわからねえな」
「あー? なんで俺様がわざわざ雑魚の気持ちなんか考えねえといけないんだ?
それに総合力だ? 今そんな話してたか? 負けたら出ていく。そういう話だろ。
終わった話にグチグチ言うなよめんどくせえ」
「お前……」
「別に……あんたたちなんかにフォローされたくない。
約束は約束、出て行ってやるわよ」
「お、おい凛!」
「付いて来ないで」
俺たちの制止も空しく、凛はコートから出て行ってしまう。
「やっと出て行ったか。よしお前ら、練習だ! 何からやるんだ?」
「なあブラド、お前今ので何も感じないのかよ」
将人が怒りを顕にした表情でブラドに詰め寄る。
「ああ? 雑魚がいても邪魔なだけだろ。なんであんなのチームに呼んだんだか」
「お前のそういう所がなあ!」
「やめろ!」
今にも殴りかかりそうな将人を俺は声で制止する。
「今は落ち着いてくれ。
とりあえず最初はシュート練習からだ。適当にやっておいてくれ。
俺は……少しトイレに行ってくる」
「おい! 龍也!」
後ろから将人の声が聞こえてくるが俺は構わず進む。
俺のせいだ……。
俺の見立てが甘かった。
もっと確実な手段を考えるべきだった。
負けたらどうなるか想像できたはずなのに……簡単な方法に逃げてしまった。
凛と話さなくちゃ。
何が言えるかわからないが何かしなくちゃいけないんだ。
宿舎にワープしたが凛の姿は見当たらない。もう部屋に戻ったのだろうか? それとも別の場所?
とりあえず俺は凛の部屋のインターフォンを鳴らす。
「凛!」
部屋にいるのかはわからない。だけど俺は声を張って言葉を発する。
「さっきのプレー凄かった! あのフェイントどうやって練習したんだ? 俺じゃあんなのできないよ。
よかったら教えてくれ、俺も教えたい技が――」
「うるさい!!!
今は……ほっといてよ……」
それだけを言い残し言葉が途切れる。
俺にはこれ以上声をかけることはできなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます