第21話 仁義なき戦い 第一戦
バチバチと火花を散らしながら2人はコートに入っていく。
「なあ凛、この勝負どっちが勝つと思う?」
いい機会だと思い凛に話しかけてみる。
少しでも距離を縮めておきたいところだ。
「は? 別に興味ないし、話しかけないで」
「そうか……。
あのさ、もうちょっとだけ心開いてくれないか?
別に男だとか女だとか気にしてないしさ、チームの雰囲気悪くしたいわけじゃないだろ……?」
「……うるさい、あんたにボクのことはわからない」
そう答えると凛は俺から少し距離を取る。
これ以上は無理だと判断した俺は一旦諦めて勝負の方に向き合うことにする。
「はい、ルールはさっき言った通り。準備はできてるよな?
よーい……スタート!」
開始の合図とともにボールに飛び込んだのは将人、真っ先にボールをキープした、というより……
「あ? おいブラド! お前なんでボール取りに来ねえんだよ!」
「ボールくらいお前にやるよ。最強の俺様とやるんだからそれくらいのハンデがないとな」
「なめやがって……!」
将人がブラドに突っ込む、真っ向勝負を挑むように見える。そんな将人にも動じず立ち向かうブラド。
しかし将人の武器はスピード、つまり狙いは……
「かかったな!」
「なにっ!?」
ブラドの直前で将人が直角に曲がる。これが将人の得意技。スピードを落とさず直角に2度曲がりそのまま相手を振り切る。先手必勝の将人らしい技だ。
不意をつかれたブラドは一瞬反応が遅れるがそれでもすぐに切り替え将人を追う。
将人もかなり足の速い方だがブラドも負けていない、ゴールエリア直前で追いつくと体を入れ将人の動きを止める。
普通ならここでもう一度仕切り直しになるところだがここで光るのはブラドのパワー。
体勢を整えようとした将人が直前の接触の衝撃により少しふらつく。
その隙を見逃さながったブラドが追撃をかける。
「ぐっ……」
「ガハハ! そんなヒョロい体じゃ俺様のパワーを受け止めきれねえよ!」
ブラドの激しいチャージによって倒される将人。そのままブラドに追いつけず……
「ゴール! 1戦目はブラドの勝利!」
「見たか! 少し技に自信があるみたいだがな、俺様のパワーの前には無力なんだよ! どうだ? もう1戦やるか? 結果は見えてるがなあ!」
「は! 今の手抜きプレーに勝ったぐらいでよくそこまでイキれるもんだな。次やろうぜ、調子に乗ったお前の悔しがる顔が早く見たいからな」
口では強がっている将人だったが言動からは焦りが伝わってくる。
「おい将人……」
「うるせえ、なんだ? 俺があんなゴリラに負けるとでも思ってんのか? 見とけ! あいつ潰したら次はお前だからな!」
「……ああ、頑張れよ……!」
将人の目を見て俺は安心する。あれは諦めていない目だ。
何か策があるのだろう。だったら俺は黙って見届けるのみ。
「準備はできたか? 2戦目! ……スタート!」
今度も1戦目と同じく将人がボールに飛び込みブラドは相手を待つ動き。
「はっ! ニヤニヤしやがって気持ち悪い野郎だぜ」
「どうした? かかってこいよ雑魚」
「調子に乗ってん……じゃねえ!」
将人がまたもブラドに突っ込む。そして1戦目と同じく直角に曲がりブラドをかわす……が、流石に二度も通じない。1戦目よりも早く対応したブラドによってゴールエリアからはまだ遠い場所で追いつかれる。
しかし将人も無策ではない。今度は体を入れられないよう早めのタイミングで距離をとる。
「ガハハ! おいおい、逃げてばっかりじゃ勝てないぞ腰抜け」
「うっせえ。ここからが本番なんだよ。
随分とパワーに自信があるみたいだけどなあ、そのパワーで俺に負けた時どんな顔をするんだろうなあ」
「あ? どういうことだ?」
「簡単に言うとだな……俺がお前を吹っ飛ばすってことだよクソゴリラ!」
声を発すると同時に将人は前に走り出す。
対するブラドも負けじと走る。
「パワー勝負が望みなら乗ってやるぜ! 向かってくる雑魚を吹き飛ばす瞬間が1番気持ちいいんだよなあ!」
「吠えてろゴリラ。その雑魚に吹き飛ばされる感覚を教えてやるよ!」
将人がドリブルをしながらブラドとの距離を詰めていく。
もちろんブラドも力を込めて将人へと近づく。
「「吹っ飛べ!!」」
将人とブラドの肩が近づきぶつかる。その瞬間将人がブラドと反対側に傾く。
倒された!? ……いや、違う!
将人は倒れずそのまま前に進み。次の瞬間、ブラドが将人のいた方向に倒れる。
「あ!?」
「ふーん。あいつ、元々ブラドとのパワー勝負なんか一切する気なかったってわけね。
それにしても、直角に曲がるのの応用? あの体重移動は中々……」
凛の言う通り。将人はパワー勝負をしなかった。
ブラドにぶつかる直前、将人はブラド側に完全に体重を傾けていた。どう見てもパワー勝負をするようにしか見えなかった。それはブラドも感じていただろう。
だが、将人はその状態から正面を向いたまま左足の力だけで右側、つまりブラドのいない方向へと飛ぶ。
難しいこの行動を可能にしたのは、凛も言っている通り直角ドリブルで得た体重移動の技術だろう。
パワー勝負をすると思い込んでいたブラドはぶつかるはずだった将人がいなくなったことにより当然転ぶ、と言った流れだ。
「パワー勝負するんじゃなかったのかよ! 逃げんのか卑怯者!」
「はー? 倒れてるやつの言葉は遠くて聞こえねぇなぁ。俺はゴリラほどのパワーはないけど人間様の知能があるんでな、ブラフも立派な戦術だ。卑怯で結構。スポーツにおいては勝ちが全てなんだよ!」
ブラドもすぐに立ち上がるが追いつけるはずもなく、将人のゴールで2試合目が終わる。
「ゴール! 2戦目は将人の勝利!
よってこの勝負……引き分け!」
「……認めらんねえ。龍也、もう1回やらせろ。今度は立ち上がれないほど潰すからよ」
「ダメだ。そんな時間はない。
それに1回負けてる時点でお前に比べて雑魚と認めるのは難しいんじゃないか? もし次お前が勝ったとして雑魚に一度負けたってことになっちまうぞ?」
「はっ、くだらねえ。将人! お前のやり方は認めたくないが結果は結果だ。俺様と同じコートで練習することくらいは許可してやるよ」
「チッ、なんでそんな上からなんだよ……」
良かった。本当に良かった。理想の結果だ。
将人とブラド、最初からこれで仲良くなるとは思っていない。ただ最低限の体裁を整えられただけで今回の結果としては充分だ。
「ちょっと? 盛り上がってるところ悪いけど次はボクの番。早くコートに来て」
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