ストーカーはいかにしてゆずチューバーの住所を突き止めたのか。

寝る犬

第1話

「友達が『コジキ系ゆずチューバー』をやってるんだけどさ」


「……なに系だって?」


 突然思い出したように語りだした麻美の言葉に、正義は口に運びかけていたサンドイッチを膝の上に戻し、聞き返した。

 世界最大の動画共有サイト『ゆずチューブ』に動画を投稿して収入を得る『ゆずチューバー』なら知っている。


「コジキ系だよ」


 しかし、寡聞かぶんにして『コジキ系ゆずチューバー』なるものは聞いたことがなかった。


「……コジキ系」


 正義は繰り返す。

 それで納得したと思ったのだろう。麻美は「うん」とおにぎりをかじり、話をつづけた。


「それでさ、最近ストーカーに家を突き止められたみたいで、困ってるんだよね」


「警察に届けたら?」


「届けたよ。でも特に何をされたってこともないから、警察は巡回を強化するくらいしかしてくれないんだって」


 大きなおにぎりの残りを口に放り込んで、麻美は指先についたごはん粒をぺろりとなめる。

 正義はサンドイッチに視線を落とし、校舎の窓からよく晴れた中庭へと視線を移した。

 にぎやかなお昼休み。

 がやがやと騒がしい教室で、麻美はニコニコとただ正義の横顔を見つめている。

 1分以上もそうやって口を閉ざしていた正義は、やがてわざとらしくため息をつき、幼馴染へと視線を戻した。


「で、ぼくに何をさせたいの?」


「決まってるよ。ストーカーがどうやって住所を突き止めたかを調べて、ストーカー行為をやめさせて」


 麻美の言葉は、正義ならそれができるとこれっぽっちも疑わない、力強いものだった。

 こうなったら彼女はテコでも動かない。

 幼馴染から向けられる無条件の信頼に、正義はほんの少しだけ喜びを感じる。

 しかし、その喜びを顔に出すこともなく、彼はサンドイッチを袋に戻し、椅子に座りなおした。


「その前に、『コジキ系ゆずチューバー』ってものが何なのかと、どんなことがあったのかを教えてもらわないとね」


「うん!」


 麻美は喜びを隠そうともせず、満面の笑みでうなずく。

 身振り手振りを加えながら、昼休みを全部使って説明された内容は、以下のようなものだった。

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