第11話 魂を洗濯するんだ


 あたしの魂もここで、蒼ざめた小動物のように息づいている。ナライは自分のココロを意識した。吐き出された魂を求めて、地方からも人が押し寄せたが、政府としては、製造スピードを上げるしか政策がない。


慌てなさんな、やがて行き渡る。ってことだ。五十歳の年齢が迫っている者や、病気で明日の命の保証もない者を優先させた。しかし、この発生速度は、ポッポッポである。連射できないものだろか。


確かに初めは争奪戦になったが、次々に吐き出される魂に国民は落ち着きをとりもどした。


「どんな感じ」ナライが研究者の視線で覗いている。

「思っていたより爽やかだ、生卵を飲み込む感じ。心に邪念がない、生きることに必死だった自分を哀れに思うよ」

銀河がソファーで丸まっている。ナライはその様子に眉をひそめた。銀河の生気は生きることへの執着から生じていたようだ。これじゃあペットのわんこみたいだ。


「とりあえず、全国民には、間に合わないからさあ、魂の洗浄機も作ってみた。モナカの魂を試しに洗ってみることにした」ナライは、銀河の頭を撫でてやった。銀河が怪訝な顔を上げた。


「おまえ、洗濯ってエプロンじゃないんだから」

「モナカを皮ごと洗って上げるから、拉致って来て」

「それはどんな装置なのかな?」

「ジェットバスとミストサウナを合わせた感じ」

「なら王宮の温泉施設が使えないかい」

「銀河、なんだか余裕がでてきたね。頭もクリアになったようだな。モナカの頭が冴えたら、時空の壁さえ破壊出来るだろうな」

ナライはひとりニヤニヤしている。モナカの脅威は近くにいないと分からない。銀河でさえ気づいてないだろう。今回の無血クーデターはモナカひとりでやったようなものだ。本人さえ気づいていない。ナライはブルリと肩を震わせた。


「まとめやっちゃえ」

 ナライは風呂の中に監視塔を作って、見下ろしていた。ナライの前にはたくさんの装置が並ぶ。


 宮中の女性たちには、美肌になる、疲れが取れる温泉を解放すると言い渡した。

きゃーきゃー黄色い声とともに、王宮に使える百数十人の女性がなだれこんで湯船に浸かった。ペットの犬も混じっているのが気になった。

 監視塔が揺さぶられるほどの振動だ。象が水飲み場に殺到するのを見せられているみたいだ。


「よし、今だ! 天井からドーム型の鍋ブタが下ろされた。バスの底は回し車になっていた。人力で攪拌する。息つぎのために、水面に出ようとじたばたすると、床の歯車が回され水流が起こる。息はただ立っていれば、足の裏がくすぐったいだけでできるのに、特殊な条件下でパニックになっているのだ。


攪拌すると、お湯がコールタールのように真っ黒なヘドロになった。ナライはレバーを引いた。栓が抜けて、ミストサウナと化す。細かい霧で体にまとわりついたヘドロを洗い流す。吐き出す息が灰色なのは汚れている証拠、ドームの中は、やがてブルーになり、透明な息になったところで、乾燥スイッチを入れる。ついでに、極上の香料も吹きつけてやる。

サービスじゃ。完了!

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