第9話 クーデター



ナライクーデターを起こす


「銀河提督、あたしが最高権利者になるよ。王宮から王様を追放する。軍部は解体、新政府をつくる」


「あんた、そんなことやってる暇はないよ。子供が育つころには死んじゃう。兵士はいるけど働かない、人のために動く奴なんかいない」


「銀河、今日決行する。それならいいだろ! うまくいったらあんたに魂をくれてやる」


 ナライはモナカが選んだ最高司令官風の軍服を着ていた。真っ赤な上着に金モールがトリミングされている。イギリスの衛兵のようだ。最高司令官なんて、モナカには想像できないから仕方がない。


モナカは露出が激しい白いふわふわのミニドレス。アンドロイドってことで、可愛いく振る舞い、王様を誘惑して拉致監禁する役だ。


「わぁーおもしろそうですわ。ロマンチックに誘い出すから任せて」

夢だと思っているんだからなんでもできる。モナカには楽しい遊びだ。


銀河は初めて作られた人工の魂を瓶に入れて、兵士を寝返らせる。本物の魂が餌なら簡単に喰いつく。


 銀河がパーティを仕込んでくれた。

馬車で宮殿に乗り付けると、きりりとした顔立ちのカイザルヒゲのおじさまが待っていた。


「やあ、こちらでの暮らしはどうかね、慣れたかい。今日はリラックスして顔合わせをしよう。おや、アンドロイドも連れてきたの?」

「王様、なんて素敵な方なの、アンドロイドでも恋しちゃいますわ」


 銀河は澄ました顔で長い廊下を歩いて行く。素晴らしいデザインの天井、金銀の天国をイメージしたレリーフが続く、窓はステンドグラスがはめ込まれ、壁はアクリルだろうか、色々な植物が埋め込まれている。手に取れそうなくらい鮮やかな天然色。

「王様って忙しいのですか」

「アンドロイドよりはね、名前は?」

「王様に呼んで頂いたらそれが私の名前ですわ」

高校生の技じゃない、少なくともあたしの良い頭脳のどこにもそんなセリフは仕込まれていない。モナカおそるべしだ。すでに王様の腕に絡みついている。

「ジュリエットでいいね、愛らしい君の名前だよ」

「まあロミオ、なんてロマンチックな名前」

おぞましすぎて、吐きそうだ。ナライは顔を背けるしかない。

「あー君たち、悪いが私はちょっと、目眩がする、パーティはまたの機会に、ディナーは楽しんで行ってくれたまえ」

ロミオはジュリエットの腕をとり、螺旋階段を上って行った。

「嘆かわしい、五分しかかかっていない」

 ナライは崩れ落ちそうな体を手すりに預けて、どうにか持ち堪えた。そのまま王様はモナカに任せて、兵舎に向かう。


 噴水の広場の向こうを、首輪を巻かれ鎖に繋がれてはしゃぐ王様の姿があった。

「ポチダメェー、もうエッチなんだからスカートの中に頭を突っ込んだら、めっ、ですわ」


す、凄い、あたしがモナカに勝てるわけがない。あんな奴の隣に生まれたことが悲劇なのだ。

モナカはこの五分後にカプセルに王様を押し込み、そのままいいことしようと、屋敷の牢に隔離した。お手柄だ。


 銀河はゲストルームに兵士を集めて、国営テレビを招いた。王様が異次元に財宝を持って逃げたと発表した。


『我々はラッキーだ、天才的な頭脳を持つナライを国王とする』


無血のクーデター


佐久間ナライ十七歳が成し遂げる

ナライは浄化された魂の研究で第三世界から招待された人物で、魂の発生装置を完成させた。我が国の将来は限りなく明るくなるだろう。

新聞の一面にナライのムッツリとした写真が掲載された。

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