俺の幼馴染である神楽來菜は明日を知らない

モフ

第1話 神楽來菜は学校一の美少女

「また明日」とは、もう彼女には言えない。


 あれから、俺はその言葉を1番嫌いになった。


 ※※※※※※※※



 人間は生きていく上で、必ず後悔する生き物である。


 俺、飾哲也かざりてつやにも大きな後悔があった。


 それは初恋の幼馴染の女の子と疎遠になってしまったことだ。


 彼女の名前は神楽來菜かぐららいな


 笑った時に顕になる笑窪えくぼが魅力的な女の子。


 俺は幼少期に彼女に出会い、お互いの家に行ったりして遊んでいる内に、仲良くなって惹かれ、気づけば好きになっていた。


 しかし、中学生になってから、俺と彼女の関係性は変わっていった。


 神楽來菜は俺とは違い人気者だった。


 顔も可愛く、頭も運動神経も良かったので、周りにはいつも多くの人が集まっていた。


 一方で、俺は成績も運動神経も平凡。顔だってそんなに良くはない。


 そんな自分が情けなくなって、彼女と話すことをやめ、いつの間にか距離を置くようになった。


 これが俺の後悔だ。


 何度も、彼女に話しかけようと頑張ったこともあった。でも、寸前で、逃げてしまう。


 一度諦めた俺には前を向く度胸すらなかった。


 俺の好きな人なのに。


 また明日、次こそ明日にはと意気込んで後悔を繰り返す日々。


 そして気づけば、3年の月日は流れ、俺は高校1年生になっていた。


 高校生になった今でも、変わらず彼女のことが好きである。


「はぁ……俺に勇気があれば」


「哲。次の時間移動教室だぞ」


 俺が溜息を吐きながら独りごちていると、ある一人の男子生徒が近寄ってきた。


 彼の名前は旭悠大あさひゆうだい


 中学の時からの知り合いで、1番仲の良い男友達である。


 友達も多く、性格がいいので話しやすい。


 最初は人気者である悠大が苦手だったが、そんなことを気にせず話し続けて来たので、そういった嫌な感情がいつの間にかなくなって、親しい間柄になっていた。


「てか元気ないな。また神楽さんのこと考えてたろ?」


 教室を出て、目的地の教室まで向かっている時に、悠大は、話しかけてきた。


「ち……違うわ! そんな訳ないだろ」


「動揺しすぎ。何年の付き合いだと思ってんだよ。分かるわ」


「……そんなに分かりやすいのか」


 どうやら、悠大には、顔だけでも、考えてることがばれているらしい。


 ちなみに彼は俺の好きな人を知っている。


「あ、神楽さん」


「知ってるぞ。そう言って動揺してる俺を楽しみ……」


 悠大の目線を、俺も追っかけてみると本当に彼女はいた。


 彼女は、なぜか俺と一緒の高校だったのだ。


 理由は分からない。入学式の時に初めて気づいたのだった。


「うわ。可愛い」


「いや、美人だろ」


 そんなどうでもいい論争を周りが話している。


 相変わらず、彼女の周りには多くの人がいる。


 神楽來菜は、一層可愛くなって、高校一年の夏の時期にも関わらず、学校では知らない人がいないくらい人気者になっていた。


 上級生に関わらず、彼女に告白する生徒は日に絶えないらしい。


「今日も話さないのか?」


「……やめとく」


 俺は、そう言って、悠大を置いて、黙々と目的の教室まで向かおうとした。その時だった。


「はぁ、やっぱり俺が動くしかないか」


 後ろにいる悠大から、そんなつぶやきが聞こえて、さらにこう告げてきた。


「俺さ、お前がいつか覚悟を決めて、話しかけると思ってたから、見守ってたけど、もう我慢できないわ」


「おい……」


 俺の言葉を無視して、悠大は、神楽の方へと向かった。


「おはよう。神楽さん。ちょっといいかな」


「おはよう。どうしたの?」


「あのね……」


 悠大は、神楽に耳打ちで何かを伝える。


 何を話してるのか気になったが、遠くにいるので、聞こえない。


「言いたいのはこれだけだから。じゃあ」


「う、うん。さよなら」


 話し終えたのか、悠大はこちらに戻ってきた。


 ※※※※※※※


「あれどういうことだ?」


 移動教室に着いて直ぐに、俺はさっきの意味を問いかけた。


「あぁ。昼休み屋上で待ってますって伝えた」


「は?どういうことだ? お前も……好きなのか?」


「違う。何とも思ってない。哲が会いに行くんだ」


「……無理だ」


「無理じゃない。やるんだ」


 どうやら、今日話しかけるチャンスが来ても俺がそういう素振りを見せなかったら、行動に移すつもりだったそうだ。


「第一、来るかわかんないだろ」


「来るさ。なんせお前が来るって言ったからな」


「うそだろ……尚更そんなの来るわけ」


「行ってもないのに、わかんないだろ。あと、彼女は絶対に来るよ。勇気振り絞れよ」


「うそだろ……」


「行かなかったらお前とはしばらく口を聞かない。これぐらい言わないとお前は行かないからな。許せよ」


「……分かった」


 俺には行く以外の選択肢はなかった。


 そこから昼休みになるまで、俺は授業に集中出来なかった。


 心臓のバクバク音が周りに聞こえていないか心配だ。


 こういう時は時間が早いもので、直ぐに昼休みの時間になってしまった。


 俺は教室でパンを一つ食べたあと、重い足を引きづって階段を1歩ずつ登っていく。


 屋上に着いた時、誰もいなかった。


 そこから、5分、10分と待ったが、彼女が来る兆しが見えない。


「そりゃ、来るわけないよな」


 もう帰ろうと、階段に向かおうとした時、1人の女子生徒が屋上に入ってきた。


 目を向けるとそこには神楽來菜がいた。

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