第5話 比奈

あれから学校の目の前にあるバス停に着くと、魔法使いの彼はそそくさとバスを降りて行った。窓の外を見てぼーっとしていた一花は、ほとんどの学生がバスを降りてから、隣の席が空席になっていることに気付いた。


名前、聞いとくんだったな。


「いーちーかー!」


校門を通り過ぎ、昇降口にあるクラス表を見ていると、背中をトンっと叩かれた。この声は、一花の幼馴染の比奈だ。


「比奈ー!クラス、一緒だね!」

「だねー!やっぱ日頃の行いが良いとこういう時、得よねー!」

「ほんとほんと!私も、今日不幸が起きかけたけど、日頃の行い良かったのかも。回避できたよ!」

「何よ、不幸って。響きが怖いわ。」

「それが、朝っぱらから定期入れ落としちゃってさー。」

「えー!そりゃやばいね、親に怒られるやつ。」

「そうなんだよー!でも、魔法使いが拾っててくれたんだー。」

「へー。魔法使いがねー。」


自然と話しながらも足は教室を目掛けて向かっている。オープンキャンパスも文化祭も受験の時にも来ていたので、教室の場所は難なく分かった。

比奈のにこやかな笑顔と呼吸は一瞬止まり、彼女は眉をしかめて一花を見た。


「て、は?」


一花は、まあそういう反応するよね。と苦笑いを浮かべる。


「一花、あんたってそんなにメルヘンだった?」

「うん~私も、自分は結構現実主義者だと思ってたんだけど、当事者になると価値観も変わるよね。」

「え!本当に魔法使いに会ったってこと?」

「いや本当、魔法使いでしかない。」

「どんな奴よ魔法使い。白い髭のおじいさんとか?」

「いやいや、それが、同い年の男子高校生。」

「なんと!」


それは丁度、クラスに入ろうとした時だった。詳しく聞かせたたまえ!と、比奈が一花の肩を抱き寄せた。二人は前から来た男子に二人でぶつかった。


「「「わっ!」」」

「「「ごめんなさい!」」」


即座に三人は謝った。


「あ、朝川さん。」


一花の目の前には例の魔法使いがいた。


「あ、同じクラスなんだね。」


「どうも、よろしく。」


それだけ言って、彼は教室を出て行った。

比奈は、にやにやとこちらを見てもう一度「詳しく聞かせてもらおうか?」と言った。



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