第30話 騎士の誇り
「聞け!プランツ騎士団よ!」
そう叫ぶのは一人の男は村人たちとは明らかに雰囲気の違う。身ぎれいな服に身を包み、腰には剣を下げている。
「ジャスパー・・・貴様」
ルークは忌々しげにその男のことを睨む。ジャスパーと呼ばれた男はルークの視線を無視して言葉を続けた。
「聞け!プランツ騎士団よ!聞け!我が同胞よ!私はプランツ騎士団副団長のジャスパー・リーである!」
そう高らかに宣言した男はプランツ騎士団の副団長だという。副団長はたしかメグの護衛の任務についていたはずだが、どういうわけかここの村人とともにいる。ジャスパーが誘拐を手引したのか、それともメグを人質に脅されているのか、それとも自主的にこの村を救おうとしているのかはわからないが、これでこの村にメグがいる可能性が極めて高くなった。
しかし、ジャスパーが敵方にいることで騎士団にも動揺が広がっている。なぜ、あの場にルークがいるのか、一体何をしているのか、一体何を言いたいのかという疑問が騎士団の中を駆け抜ける。
「ジャスパー!貴様!自分がしていることをわかっているのか!?」
ルークが苛立ちながらジャスパーにそう言った。
「それはこちらのセリフだ!団長代理!」
「代理でない!私は正式な団長である!」
ルークとジャスパーはお互いに敵対心を露わにしている。
「聞け!誇り高きプランツ騎士団よ!君たちは目撃したか!現騎士団長の所業を!このルーク・グリフィスという男は、剣も鎧も持たないなんの罪もない老人を一方的に殺した!これが騎士のやることか!?」
「罪のないわけではなかろうが!その男は少女の存在を隠した!我々に嘘をついた!」
「嘘は付いていない!」
「貴様がいるのだ!必ずメグ様もおられるはずだろう!」
ルークは大声を出して大仰な仕草でジャスパーのことを指差した。
「メグ様はたしかにこの村にいる」
「ほれみたことか!やはり嘘をついていたのだ!」
「嘘はついていない!お前は"誘拐した少女"としきりにいっていたが、お嬢様は誘拐などされていない!自らの意思でこの村におられる!」
「はぁ!?意味がわからないぞ!!」
「だろうな!話し合いもしようとせず、この村の人々を証拠もなく誘拐犯と断定したお前にメグ様の行動を理解することはできない!」
「なんだと!?」
「見たかプランツ騎士団に所属する騎士たちよ!この男はなんの罪もない民を悪と決め込み虐殺し簒奪しようとしている!こんな行いは騎士がやることだろうか!我々は民を守るために先代の騎士団長の元へ集まったのではないのか!本物の騎士になるためにプランツ騎士団に入団したのではないか!なのになんだその体たらくは!守るはずの民を手に掛けるつもりか!弱者から奪うつもりか!それがお前たちの騎士の道か!」
ジャスパーはそう言って大きく深呼吸をする。
「恥ずかしいとは思わないのか!家族に対して立派な騎士となるという約束を裏切ることを!仲間と語った夢を裏切ることを!そして自分自身に立てた誓いを裏切ることを!私は恥ずかしいと思う!だから私はどんなに厳しい状況だろうと民と一緒に戦う!正義を守るために戦う!」
そう宣言したジャスパーに対してルークが声を荒げる。
「違う!正義はこちらにある!か弱いご令嬢を助けるためにここにいる!」
「メグ様はそれを望んでいない!お前はこの村を悪と決め込み村を滅ぼそうとしている!それこそメグ様が避けたいと望んでおられることだ!」
「メグ様は10才のご令嬢だぞ!そんなこと思われるわけがない!お前が語っているだけではないか!」
「あの方に年齢は関係ない!村人の事を大切に思われている!その事が分からぬお前がプランツ騎士団を率いる資格はない!先代の騎士団長の意思を引き継ぐ資格はない!」
「資格はある!私が先代に最も貢献したのだ!だから騎士団長は書に私の名前をしたためたのだろう!」
「そもそもあの豪快な騎士団長が書をしたためてお前を指名すること自体不審なのだ!お前が騎士団長を脅し、書をしたためさせ、そして殺したのではないか!?」
「は・・・・?」
ルークはジャスパーと舌戦を繰り広げていたが、ジャスパーに先代の暗殺容疑を言われた瞬間唖然とした。突然そんな事言われるとは思っていなかったようである。その一瞬が騎士団の士気を大きく下げた。
「ば、馬鹿なことを言うな!なぜ私が騎士団長を!」
「本当は殺していないならすぐに反論するはずだ。名誉を傷つけられるからな。だが、お前は一瞬考えた。自分の所業がバレてしまったのかと考えた。本当にお前が殺っていたのだな」
「憶測で物を言うな!この野郎!」
ルークは慌ててジャスパーの言葉を否定した。だが、一度疑問に思った騎士団は完全にルークの事を信用しきれないでいる。おそらくジャスパーはこれを狙ったんだ。騎士団の気持ちがルークから離れ、士気を大幅に下げることが目的だっただろう。
「あのジャスパーという男は自分に正義があることを宣言し、その後はダメ押しで騎士団長の悪口。言論を持って戦力差を埋める気だな」
レオは感心してそう呟いた。
「そうだね。そして見たところそれは成功しそう」
「ルークはよほど人望がなかったようだ」
僕はうなずいた。言葉で兵を留めることは容易ではない。兵が聞く耳を持たなければそれでおしまいなのだ。だが今回は相手がジャスパーという騎士団にしてみれば身内という立ち位置で明らかにルークより騎士団の信頼を集めているような人物らしい。その証拠に兵たちは皆聞き入っている。それにルークがよほど騎士団員から信頼されていないのも明白になった。よく今まで騎士団を率いてこられたものだ。
「ジャスパー貴様!言葉で我々を謀る気か!」
「謀るも何も純然たる事実を申したまで!」
ルークのこめかみには青筋が立っている。よほど頭にきているのだろう。
「ならお前の言葉が事実かどうかも確かめてみろ!もしお前の言が本当ならばメグ様の行動は自由なはずだ!だったらこの場に連れてこい!」
「さっきも村長が言ったように村では伝染病が流行っている!メグ様はその伝染病が広がるのを恐れて自主的に謹慎なさっておられる!」
「伝染病があるなら尚更のこと身柄を我々に引き渡せ!そうすれば医者に連れていける!」
「メグ様は自身の事だけでなく、この村のこと、運び込まれた村に病を持ち込むことを心配しておられる!お前のように浅い考え方はしていない!」
「浅いだと・・・?貴様誰に向かって!」
「貴様に向かって話している!考えなしのルーク・グリフィス!お前は先代の騎士団長が作り上げたプランツ騎士団を堕落させた!貴様の頭が足りなかったばかりに!そして今回は騎士の誇りを失おうとしている!貴様が考えなしであるばかりに!」
「なんだと!?貴様!私を侮辱する気か?」
「事実だろう!?」
ジャスパーにそう言われたルークは、こめかみの青筋がピクピクと動いている。
「この野郎・・・ッ!騎士団!何をしている!突撃だ!」
ルークは振り返って騎士団に向かって怒鳴った。だが、騎士団はその命令を従うべきかどうか迷っている。そんな騎士団を見たルークは更に声を張り上げて叫ぶ。
「行け!」
そう言われた騎士団のうちの一部が村人に対して進撃する。怒鳴られて走り出した騎士団総数の半分にも満たなく、戦列も整っていない。
それを見たジャスパーは叫ぶ。
「投石!投石!」
ジャスパーの声に合わせて、村人達がの方から手のひら大の石が飛んでくる。飛んできた石の殆どは突撃する騎士には当たらず地面に落ちるが、それでも何個かは突撃する騎士たちに当たった。石が当たった騎士は痛みと驚きのあまり足を止め、更に戦列が崩れる。そして崩れた戦列のまま突撃する騎士団を待っていたのは村人が作る槍衾。騎士はその槍衾に次々と刺され、怪我を負っていく。鎧により急所は防御されているがそれでも鎧の隙間から槍が刺さり、先頭集団はついには足を止めてしまった。
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