第26話 次の目的地へ
僕は親切な男たちから馬車の情報を教えてもらっていた。その情報を持って宿に戻りレオに報告した。
「わかったのか!?」
レオは椅子から立ち上がって僕の話を聞く。
「うん。親切な男たちから教えてもらった。この村で情報が集まらなかった理由もわかったよ」
「それでその親切な男たちからは何を教えてもらったんだ?」
レオは急かすように僕の発言を促した。
「馬車はこの町に来ていない。この村に到着する直前で、川で溺れている少年を助けていたそうだ」
「川ってこの村の脇を流れるあの川?」
「そう。その川。この村に入る直前に少年を助けたようだね」
「助けた?騎士団の誰かが?」
レオは怪訝な顔をしている。メグ一行がどうして川で溺れている少年を助けることになったか、その理由が想像できないようだ。僕もその点には同意する。
「話では助けたのは騎士団だけど、指示していたのはきれいな服を着た少女だったらしいよ」
「それはおかしい。普段のメグはそんなことしない」
冷静になって席に座り直したレオはそう断言した。僕もその意見には賛成した。しかしあの男たちが嘘を言っているとは思えないし、念の為に別の男にも質問したが同じことを言っていた。
「そうだけど。メグは屋敷を出る前から少しおかしかっただろ?」
「たしかにそうだ。本当にどうしたんだろうか?あのメグが少年を助けるなんて。いや、別人じゃないか?」
「その疑問はもっともだと思うけど、男たちが言っていた特徴はメグで間違いないと思うよ。証言した日時にも矛盾はなかったし」
「そうか・・・。他に手がかりはないしそれに賭けてみてもいいだろう。それで、その後メグはこの村に来ずにどこに行ったんだ?」
「なんでもその少年は、ここからちょっと離れた山奥の村出身の少年らしい。その馬車はその少年を乗せてそっち方面に進んで行ったんだって。送っていったのかな?」
「うーん。聞けば聞くほどメグの行動とは思えないが・・・」
「でも、行ってみる価値はあるのでは?」
「なるほど。わかった。助かった。ありがとうセオ」
「いやいや。この手柄は僕だけじゃないよ。アーロンも」
そう言って僕はアーロンの方向を見る。
「アーロンが助けてくれたから手に入った情報だよ。そうだ。ルークにもお礼を言わなきゃ。ありがとう。優秀な護衛を付けてくれて」
「いえ、なすべき事をしただけです」
言葉の上では穏やかなルークはこめかみ付近に青筋が立っている。やはりルークはアーロンのことを侮っていて、ルークからしたら出来損ないの騎士をわざと僕に付けたのだろう。だが、実際のアーロンは態度こそ控えめだが、実は腕が立つ優秀な騎士だった。
「アーロンもありがとう」
僕がお礼を言うとアーロンはアーロンは怯えた顔を浮かべた。
「ひぃぃ!いえなんの問題もありません!」
「ひぃぃ?」
レオはアーロンの怯えている姿を疑問に思った。
「どうかしたのか?」
「いえ!何でもありません!」
アーロンは背筋を伸ばし、早口でレオの質問に答えた。僕と出かける前は自信なさげな青年が帰ってきたら妙に畏まっている。それを不審に思ったのかレオは僕の顔を見て口を開く。
「いったい何をした?」
「至って普通の事を」
男たちが襲ってきたらアーロンに守ってもらって、ついでにその男たちに質問をしただけ。至って普通だ。
「ふぅん?」
レオは判然としないというような表情を浮かべていた。僕は話を逸らすように言葉を放つ。
「ともかく。次に行くところは決まったね」
僕の言葉にレオは頷く。
「そうだな。その村の場所はわかっているのか?」
「それも聞いたよ。ここから歩いて4時間ほどの距離にあるらしい」
「4時間か・・・なら出発は明日にしよう」
レオはそう言うと、次はルークの方を見る。
「ルーク。明朝出発するから準備をしておいてくれ」
「はっ!わかりました。その村が誘拐犯の村ということですね?」
「誘拐されたとは決まっていないが」
「しかし警戒するに越したことはないのでは?」
「たしかにその通りだが」
「では準備をしてまいります。アーロン。行くぞ」
「は、はい・・・」
そう言ってルークはアーロンを連れてこの宿を出る。
「大丈夫でしょうか?」
ヒューゴが僕らにそう言ってきた。レオはその言葉を受けて口を開く。
「どうやらルークは戦いがしたくてたまらないらしいな」
「本当に困った人だね」
僕の言葉にレオは頷く。
「しかも敵にではなくこの国の国民に対してだ。あいつは戦いたいんじゃ無くて弱い者いじめをしたいんだ」
レオは忌々しげにそう言った。僕はちょっとした忠告をするために口を開く。
「とはいえ、騎士50人で村を襲ったらひとたまりもない。下手をすれば虐殺と略奪が起きる」
「そうだな。ちゃんと手綱を握っておかないとな」
レオはそう言って再び席から立ち上がる。
「ともあれ、情報が確かなら明日は忙しくなる。僕らも僕らで準備しておこう」
「うんそうだね。何日かかるかわからないから食料は多めに持っていこう。50人分を山奥の村から分けてもらうわけにもいかないし」
「それに、もしメグがお世話になっているなら御礼の品も持っていかないとな。何が良いと思う?」
「どうだろう?ヒューゴ。何が良いと思いますか?」
僕がそう訊くとヒューゴがすぐに返答した。
「ワインを何本か買っていきましょう。きっと喜んでいただけると思います」
「そっか。ありがとうございます」
「はい。調達は私の方でやっておきますね」
「お願いします」
そう言って僕も立ち上がり、自分の準備を行おうと自室に向かう。明日のために索敵系の魔術符をいくつか作っておこうと思った。
◆
宿を後にしたルークは村の中を歩いて集会場に向かっていた。集会場にいる騎士たちに明日のことを伝え準備をさせるためだ。
「明日は戦いになるかもしれん!武具もしっかり整備しておけよ!」
ルークは歩きながら高圧的な態度でアーロンにそう言った。
「はぁ・・・」
アーロンは気の抜けた返事をしていた。
「しかし、川で溺れている子供を助けるなんて貴族のすることじゃないな。これだから辺境のガキは・・・。あのセオというガキも気に入らないし。なぁアーロン」
「いえ!決してそのようなことは!」
慌てて否定するアーロンの態度にルークは少し疑問を持った。
「?どうしたアーロン。あのガキと出かけた時何かあったのか?」
「いえ!何もありません!」
「そうか・・・?」
ルークは怪訝な顔を浮かべたが、それ以上追求することはなかった。彼にとってそれ以上重要のなことは明日のことだ。
「余計な仕事を増やしやがってと思っていたがまぁいい。もしかしたら明日はいい日になるかもしれない」
そう言ってルークは腰に下げている剣に手をやった。そしてニヤリと笑う。
「誘拐した村の殲滅。これは騎士として正しい仕事だ。ふふ。腕が鳴るな」
「はぁ・・・」
アーロンはルークのこういうところを心底苦手に思っていたが、今はこの男の後ろをついていくしか無いとも思っていた。だから最低限の相槌をしていた。
そんなルークの言葉を聞いていたのはアーロンだけではない。もう一人、民家の影からルークの言葉を注意深く聞いていた少年がいる。
「大変だ・・・!村の皆に知らせないと!」
明日にも村を攻めようとしてる騎士がいる。その事実をしったのはメグが助けた少年イーライ。イーライはルークの言葉を聞くと慌てて村に向かって走り出した。一刻も早く村に帰りこの事を報告しなければ。その一心で全力で走る。
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