第4話 今までとは違う目覚め
メグが寝ている間は、リリーが傍に控えて看病していた。
レオと僕も夕方まではメグが寝ている部屋にいたが、まだまだ目が冷めそうにないし、気絶しているとはいえ乙女の部屋に夜中滞在するのは良くないと思ったので別室へ移動した。
「リリーはご飯も喉に通らないといった感じですね」
僕とレオはそのままその部屋で時間をつぶしていた。
「ああ、そうだな。ちょっと心配だな」
「メグにもああいったメイドがいたんですね」
「失礼だが、彼女があそこまで取り乱すとは思わなかった」
僕はレオの発言に頷いた。結局、その日にメグが目を覚ますことがなく僕らも自分の部屋で一夜を明かした。そして次の日の昼頃、僕とレオがヒューゴの淹れてくれた紅茶を飲みながら別室で待機していると、その部屋にリリーが慌てて飛び込んてきた。
「お嬢様が!お嬢様が目を覚まされました」
「!」
僕らはすぐに立ち上がった。レオはリリーに続いてメグが寝ている部屋へと走る。僕は、僕はヒューゴを呼びつけて医者を呼ぶように伝え、僕もメグが寝ている部屋に向かって廊下を走った。そして僕は部屋に到着し、部屋の中を覗き込む。
「大丈夫か?」
「え・・・あ・・・はい・・・」
体を起こしているメグと、ベットの傍らに佇んでメグの手を握るレオが居た。メグの眼はいまだ虚ろのままだ。
「お嬢様!お嬢様!」
リリーが涙を目に貯めながらメグに近づく。
「リリー・・・」
メグがリリーの方向を見る。
「お嬢様!お怪我をなさって!すみません!私がちゃんとしていれば!」
リリーの泣きはらしためから涙がこぼれる。それを見たメグが力なく微笑んだ。
「リリーのせいじゃないわ。気にしないで」
「え?」
そこにいるもの全ての時間が一瞬止まる。今までのメグではおよそありえない発言をした。
「メグ!大丈夫か!」
発言に驚いたレオがメグにそう言った。
「少し頭がいたいですけどそれ以外は何もありません。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
メグは落ち着いた様子で返答する。心底申し訳無さそうに言っているように見える。
「リリーも心配をかけてごめんなさい。もう大丈夫だから」
「お嬢様ぁぁぁぁ!」
リリーは滝のように涙を流しながらメグに抱き着いた。レオは部屋の入口に佇む僕のもとへ近づいて小さい声で疑問をぶつける。
「どういうことだ?いつものメグなら竜巻のように怒り狂って自分のメイドを責め立てているはずじゃないか?」
「わかりません。まるで性格が変わったようですね。まさか頭を打ってああなったなんてことは・・・」
僕とレオはメグの方を見た。メグは泣いているリリーの頭をなでている。
「あり得るのでしょうか」
「わからん。もしかしたらこれが本来のメグなのか?家ではもしかしてああなのか?」
「今は夢うつつの状態で、だからこそ本来の態度が出ているってことですか?」
「ああ」
確かにその可能性はないわけではないが・・・。
「ともあれ、医者は呼んでいますからしばらく様子を見ましょう」
レオは頷いた。そのタイミングでヒューゴが部屋に入ってきた。
「お坊ちゃま。申し訳ありません。医者は現在隣町にいるそうです。今、馬を走らせていますが到着の時間は遅れそうです」
「そうですか。わかりました」
ヒューゴの報告を聞いたメグが口開く。
「ヒューゴ様。私はこの通り大丈夫です。お医者様に急ぐ必要はないと伝えていただけますか」
「・・・・・・」
ヒューゴは驚きの表情を浮かべている。
「どうかなさいましたか?」
驚いて言葉を無くしているヒューゴに、メグは首を傾げている。
「いえ、なんでもございません。お嬢様がそうおっしゃっていいただけるのであれば、隣町の者も助かります」
ヒューゴに返答を聞いたメグは微笑んでそうですかと言った。
「お坊ちゃま。レオ様。これは一体?性格が少々変わっておられるような・・・」
ヒューゴが小声で僕らに話しかけてきた。
「僕もレオにもわかりません。少し様子を見ようと思っているところです」
「なるほど・・・」
ヒューゴは僕らの言葉にうなずくと、部屋のベットで寝ているメグの方に歩いていく。
「お嬢様。なにか欲しいものはございますか?のどが渇いていたり、お腹が空いていたり」
ヒューゴに質問されて、メグは少し考えてから返答する。
「なら、申し訳ないんですけどお水を頂いてもよろしいですか?」
「かしこまりました」
「お嬢様!お水なら私が!」
そう言ってリリーが立ち上がるのを、ヒューゴは抑えた。
「リリー様はそのままで大丈夫です。寝ずの看病で疲れていらっしゃいますでしょう?」
ヒューゴの言葉を聞いたメグは驚いた表情を浮かべてリリーを見る。
「リリー。看病してくれていたのね?ありがとう」
メグの心からのお礼を受けたリリーはついに大声を上げて泣き出した。
「うぇぇぇぇん!メグ様が優しくなられた!きっとどこか良くないんだわ!ごめんなさい!ごめんなさい!私がしっかりしていないせいでぇぇ!」
「ええ?私は大丈夫よ」
大泣きしているリリーにメグは困惑している。
「あのメイド。言いづらかったことをハッキリといったな」
「リリーというメイドの言葉、だいぶ失礼な発言ではありますが・・・正直同意見ですね」
僕とレオが顔を見合わせて小声で話していると、見かねたヒューゴも口を開く。
「お2人共、本音はその辺りで・・・」
それから数時間が経った後に医者が屋敷に到着する。そしてすぐにメグのベットに通され診察を行った。
「大丈夫。問題ないようですな」
医者は自信満々にそう言った。しかしそれに納得できないヒューゴが聞き返す。
「本当ですか?」
「本当です」
「本当に本当ですか?」
「え?ええ、本当です」
「本当に本当に本当ですか?」
「一体何を疑っていらっしゃるのかわかりませんが・・・本当です」
メグの性格が変わってしまったことを医者に伝える。
「なるほど。それは奇妙ですな。ふむ・・・。王都に私の友人が居ます。その者に見せたら、私とは違った答えが出せるかもしれません。紹介状を書きましょう」
「ありがとうございます」
「いいえ。とにかく体の方は大丈夫ですので、そこだけはご安心ください」
「はい」
医者はいくつかの薬を渡し帰っていった。
医者を見送るとレオはメグのベットの横に立つ。
「メグ。大丈夫か?体で痛むところはないか?」
「ええ。大丈夫です」
「記憶は?ショックで思い出せないことはあるか?」
「今のところ、特に思い出せないことはありません。どうしてこの屋敷に来て、どうして私がここに寝ているのかも思い出しました」
「そうか。何か必要なものがあったら言ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
レオはそういった後メグから離れて、部屋の入り口に佇む僕のところへ来る。
「もう数日休んだら、メグを連れて王都に帰る」
「それがいいかもしれませんね」
僕とレオ様がそう話しいていると、メグが口を開いた。
「レオ様、セオ。私だけ王都に帰りますので、レオ様は引き続きこの屋敷にご滞在ください」
「しかし・・・」
レオがメグの突然の言葉に驚いて言いよどむ。
「元々私が無理を言って連れてきてもらったのですから、私のせいでレオ様の休暇を駄目にしてしまっては申し訳ありませんわ」
意地の悪い言い方をすればメグはレオの金魚のフンだった。いつでもどこでもレオのいるところへ姿を表し付いて回る。そんなメグが一人で帰るだって?
「だが、心配だ」
「ありがとうございます。ただ、私はまだちょっと混乱しています。すこし一人で考える時間を頂きたいです」
「・・・・わかった」
レオはメグの言葉を承諾した。
その翌日、メグはリリーと数名の護衛と共に王都へと出発する。父上がいくつかの詫びの品を持たせようとしたが、メグは自分が悪いからと全て拒否した。
そして僕らはメグの乗る馬車を見送った。
「本当にどうなってるんだ?」
馬車が見えなくなるとレオはそう言った。
「わかりません」
「セオにわからないことが有ったんだな」
「私の専門は魔術ですから・・・」
「それはそうだ・・・。ともあれ、世の中には不思議なこともあるもんだ」
「本当ですね」
今回の件では、僕とレオは終始頭を傾げていた。
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