第3話 事故
「失礼いしました」
僕は父上の執務室から廊下に出ると廊下にはレオとメグが立っている。
「やあ、セオ」
レオは面白いものを見るようにニヤけた顔をして、対象的にメグはぷくーと頬を膨らませている。
「レオ様、メグ様」
僕は2人の名前を呼ぶ。
「大きな音がしたけど、大丈夫だったか?」
レオは言葉の上では心配しているが、顔がニヤついているのでおそらくは面白がっている
「大丈夫でした。ようやく魔術学校入学を認めてもらえることとなりました」
「おお!よかったな!セオのお父上は大層怒っておられたようだから、今回も駄目だと思ったぞ」
「僕も半分ぐらいはまた駄目かなと思っていましたが、ようやく認めてもらえて安心しました」
「今回の説得で駄目だったら、僕からも君のお父上にお願いしようかと思っていたところだ」
「ご心配をお掛けしました」
僕は深々と頭を下げた。レオ様が僕のことを面白がっている様子だが、僕のことを心配していたという事も本心だと思う。
「おいおい。そこまで畏まるなよ。僕とお前の仲だろ?」
「そうですね」
僕が素早く頭を上げた。
「そこですぐに頭を上げられると、少々癪に触るんだが」
「まぁ、僕が家出したと聞いて、面白い事になりそうだと当家にお越しになったと思いますので、あまり仰々しすぎるのもご迷惑かなと」
「お見通しか」
「僕とレオ様の仲ですから」
僕はお互いの顔を見て笑った。本当に今回も駄目だったら家出も考えるほど追い詰められていたので、そこまでしなくて良かったと心の底から安堵している。
「セオ様!よかったですね!」
僕とレオの会話にメグが割って入る。
「メグもありがとう。心配してくれたんだね」
メグの性格上、僕のことを心配することはありえないのだが、一応、ここまで来てくれたので、お礼を言っておく。礼のついでにちょっとした皮肉も添える。
「いいえ!心配なんてしておりませんでしたわ!セオ様なら大丈夫だと信じていました!」
心底どうでも良かったんだろうなと断言できるほどのすがすがしい返答。ここまで言えるのは見習うべきことなのかもしれない。
「レオ様。これで安心できましたね!」
「ああ、来年の心配事が一つ減ったよ」
「まぁ素敵!じゃあ、お祝いに3人でお茶でも・・・と思いましたが、セオ様は先程変えられたばかりでお疲れになっておりますよね。ごめんなさい。配慮が足りませんでした」
メグは心底申し訳無さそうな顔をしている。おそらく本心では僕のことが邪魔なので、体よく排除してレオと2人でお茶にしたかったのだろう。だが、そのためにここまで悲しそうな演技ができるとは恐れ入った。
「いや、僕もせっかく来たんだ。無理にでも土産話を聞きたい。セオは大丈夫だろう?」
「大丈夫です。この家に到着する時間を調整した関係で、休む時間は十分ありました」
「そんなことをしていたのか?」
「はい。屋敷到着後は、誰とも会いたくなかったのでお昼どきを狙いました」
「ほうほう。お父上との対決も万全を期していたわけか」
「ヒューゴには見つかってしまいましたが」
「ヒューゴというのは君の家に長年仕える執事だったな。なるほど、この家のことを知り尽くしている人物というわけか」
「はい。ヒューゴには敵いません」
「頼もしい執事がいるようだ」
「お2人とも!話は紅茶を飲みながら致しましょう?」
盛り上がり始める2人の会話をメグが止める。
「たしかにそうだな。お茶でも飲みながらゆっくり話そう」
「そうですね」
「決まりですね。リリー!」
メグは自分のメイドを呼んだ。
「はい!お嬢様!いかが致しましたか?」
「いまからお茶会をするわ。場所は・・・そうね。天気がいいから外がいいわ。準備して」
「姫様。先程の紅茶は・・・」
「もう冷えちゃったでしょ?新しいのを淹れて。それとお菓子も」
「お、お菓子ですか?」
「お茶会をするから当然でしょ?持ってきてないの?本当に気が利かないわね」
メイドを責めているメグに、どこからともなく現れたヒューゴが声をかけた。
「メグ様に気に入ってもらえそうな良いお菓子が手に入ったので、お菓子の用意は私に任せていただいてもよろしいですか?」
「あなたはこの家の執事かしら?」
「はい。長年この屋敷でお世話になっているヒューゴと申します」
「そう。じゃあお菓子はお願いね。リリーもこの方のように気が利いてくれると嬉しんだけど」
「お褒めに預かり光栄です。ではリリー様。私に付いてきてください。庭の準備は当家のメイドに申し付けておりますので、私達は紅茶とお菓子の準備をしましょう」
「は、はい・・・」
ヒューゴはリリーを連れて、廊下の奥へと消えていった。
「じゃあ私も庭を見てきます」
メグは小走りで庭の方に走っていく。残された僕とレオはお互いの顔を見合わせた。
「相変わらずですね。メグは」
「ああ、元気だろう?」
「いつも連れて歩いておりますよね。彼女も婚約者候補ということですか」
「まぁ一応な。ただ、彼女がそうなることはないだろう。魔術貴族の娘を王家に入れると他の貴族が反発する。それにメグは繊細なところがある。彼女と婚約したら彼女自身が不幸になるだろう」
僕には粗暴で横暴で我儘にしかみえないが、そういう見方もあるのか。
「あ、その顔。メグは我儘だとか思ったな?」
「いえいえそんなことは」
当たっている。この前も僕の考えを読まれたな。僕って心を読まれやすい体質かなんかなんだろうか。
「さて、早めに庭に行こう。遅くなるとメグに怒られてしまう」
「そうですね」
僕らが庭に向かって歩き出した。
「きゃぁぁぁぁ!」
突然叫び声が聞こえる。僕とレオは驚いて顔を見合わせる。
「叫び声!」
「庭の方から聞こえた!」
「そのようだな!」
僕たちは走り出して庭に向かう。エントランスを抜けて外への扉を勢いよく開けて、庭に飛び出る。そして、庭を見渡すと、リリーが真っ青な顔で立ちすくんでいる姿が目に入る。
「どうした!」
僕たちはリリーの元へ走り寄る。
「お嬢様が・・・!お嬢様が・・・!」
リリーは自身の前方を指差した。僕たちはその先を見ると血を流して倒れているメグが居た。
「メグ!」
僕はメグに走り寄ると全身を見る。
「どうだ?」
「額に傷があるだけで他に外傷はないようです」
僕はメグの額に手を載せて目を閉じる。メグの中に流れる魔術を感じ取り、他にも問題がないかを感じる。
その間に王子はリリーに質問をする。
「メグはどうしたんだ?」
「私が準備のためにお庭に出た時、お嬢様は花壇に登って遊んでおられました」
「察するに花壇から滑って転んだということか」
「はい・・・」
頭から血が流れているということは頭を強くぶつけた可能性がある。慎重に確認しなければ・・・僕はメグに手のひらをかざして目をつぶる。
「額を除いて、魔術循環に問題なし。医者に見せないとなんとも言えませんが、大きなトラブルは確認できませんでした」
頭の傷以外に問題は見られない。
「いかが致しましたか!?」
ヒューゴが屋敷から飛び出してきた。僕はヒューゴに一通りの説明を行った。僕の説明を聞いたヒューゴは頷いてメグの傍に歩み寄る。
「失礼します」
そう言ってヒューゴは呼吸、頭、首もと、お腹を順々に確認していく。
「どうだ?」
「大きな怪我もありませんし、私の見た感じでは気絶しているだけのようです。医者を呼びますので、メグ様を部屋に運びましょう」
「ああ・・・ああ・・・お怪我をさせてしまった・・・」
リリーは涙を流して立ちすくんでいる。
この後、父上やメイドが庭に出て、傷の応急処置や移動、医者の手配を迅速に行なっていく。そしてすぐに医者は到着し、メグの様子を見る。
「お嬢様は・・・お嬢様は大丈夫ですか!?」
リリーの取り乱した質問を聞いて医者は落ち着いて答える。
「気絶しているだけです。これなら大丈夫でしょう。まだ若いので2、3日したら元通りです」
その言葉を聞いてリリーはへたり込む。
「良かった・・・」
その様子を見て、全員が安堵した。
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