Don't mind 01

「なんで!? なんでだよッ!」

 電撃的に脱退を表明し、振り向くこと無く姿を消したアルシを、ウォルフガングが追おうとして、

「待ちな、ワン公」

 レインがその手を掴んだ。

 腕力で勝る筈のウォルフガングは、しかし、レインの手を振りほどく事が出来ない。

「パーティ、組んだ時からの仲間だったじゃんか!」

「彼自身の選択だよ」

「だけどッ!」

「あんたに、彼を縛る資格は無い」

 既に握る力を手放していたレインの腕から抜けて、ウォルフガングはフラフラと後ずさった。

「本気でいってるの? レイン」

「そりゃ私だって嫌だよ!」

 鞭打つようなレインの激情に、今度はウォルフガングが背筋を弾けさせた。

「設立当初から一緒だった仲間が、カネの事で抜けてしまうなんて……嫌に決まってるでしょ」

 沈黙の帳が下りる。

 誰も悪くない。

 メルクリウスも、レインも、そしてアルシも。

 それが、この場の“11名”が各々に抱く“総意”だった。

「皆、聞いてくれ」

 メルクリウスが席を立ち、一歩進み出た。

「アルシの脱退は、オレの力不足だった。

 いや、それだけじゃねえ。

 これまでに抜けたフィリップも、セスナも、ダグマルのことだってそうさ。

 そして、オレ達と心をひとつにしたまま、魔物にやられて死んだ、ルイス、リヒャルト、クレア……今でも奴らは夢に出るよ。

 辛い別れが多かった。

 全部、全部オレのせいだ」

「そんなこと無いよ!」

 仲間の誰かが言ったが、メルクリウスは頭を振った。

「オレの責任だ。

 自責とかじゃねえ。

 これはオレが背負っていくべきモンなんだ。

 皆には、今一度、これからのオレを見てほしい!

 先の戦いで火龍と言うA級魔物を殺した実績は、これからのDon't mindを確実に上へ押し上げる。皆にも、もっと楽をさせてやれるはずだ。

 だからどうか、オレを信じてくれ!

 この“魂の錫杖”にかけて誓うよ!」

 しゃらん、と、メルクリウスの持ち物が鳴った。

 これなるは、メルクリウスの魔法起点である杖。

 先端の遊環が納得のいく音を出すまでに何度も職人に調律し直させ、最終的に60,000枚銀を超す費用がかかった逸品だ。

「もちろん、もちろんさぁ、信じてるよ、メルのアニキのコト!」

 目頭をゴシゴシ拭ってから、ウォルフガングが吠えた。

 それに呼応して、他の“11人”も口々に共感を示した。

 

 

 

 翌朝。

「音信不通?」

 気だるさの残る裸身をベッドに埋もれさせたまま、メルクリウスはレインの言葉を反芻した。

「多分、パーティから抜けたと思う」

「何かの間違いでは?」

 祈るようなメルクリウスの言葉を、レインは下着を着けながら、

「あの日のミーティングで、貴方に賛同していたのは11人。それは、貴方もわかっていたでしょ」

 アルシの後を追うように、パーティの“治癒能力者ヒーラー”がひとり、姿を消した。

 

 それでもオレ達は、前を向いて歩いて行かなければならない。

 その口上を皮切りに、メルクリウスは新たな仲間を開示する。

 治癒能力者ヒーラーのメアリー・ネヴィル。

 金のセミロングに、柔和な面差し。年上系のお姉さんと言った風貌だ。

 もう一人は、魔術師クリストファー・ライト。実直そうだが学生の青さが抜けぬ面差しの、好青年。

 こちらは、ウォルフガングに並ぶ弟分として、仲良くできそうだった。

 メルクリウスは、パーティリーダー間でもそこそこ顔が広い。人の抜けた穴を埋める事はそれほど難しくなかった。

 特にメアリーの方は、聖鈴を鳴らす事を魔法起点とする点で、メルクリウスとの相性が良さそうだった。

 カラダの相性も良いかも知れない、とメルクリウスは算段をつけ始めていた。

 そして。

 この二人を勧誘するのに二ヶ月の調整を要した。

 その甲斐はあったのだろう。

 

 依然、“Don't mind”における追放事例は0件だ。

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