ポッキーゲーム
夜桜
ポッキーゲーム
コートに身を包み、悴んだ手をコートのポケットに突っ込む。
家に帰るため歩き出すと、今日の日付とともに高校での記憶がふと蘇る。
「ねぇ、ポッキーゲームしよ?」
「…は?」
「知らない?ポッキーをお互いにくわえて…」
「知ってるけどさ」
私は美咲が説明を始める前に言いきる。
知っているが、男女でやってドキドキしたりするものだと私は認識している。
だから、美咲の提案に驚いたのだ。
「けど、何よー?」
「そういうのは好きな人とか、男子とやった方がドキドキしたりできると思うよ」
私の言葉にピンときていないのか「うーん、そうかな」と言いながらポッキーの箱をカバンから取り出し、机においてきた。
いや、買ってたのかよ。もうやる気満々じゃん。
「やってみないと分かんないよ?」
美咲はこうなると止まらない。きっと私が拒み続けても、したいと言い続けるだろう。
「そんなに言うなら」
「してくれるの!」
「まぁ」
「やったー!」
飛び跳ね喜ぶ美咲を横目に、とりあえずポッキーを袋から取り出し、口にくわえる。
「ん」
「じゃあ、いくね…」
美咲も私と同じポッキーを口にくわえ、お互いに食べ始める。
だんだんとお互いの顔が近づいていく。
意外に顔が近くて少しドキドキする。
これって、このまま食べ進めるんだっけ?
でも、そうすると口が…。
考えただけで顔が熱くなる。
このままではダメだと思い、食べ進めていたポッキーを折る。
ポキッ。小さな音をたて、ポッキーが折れた。
「あー!わざと折ったでしょ」
まぁ、そのとおりなんだけど。
「だって、あのままじゃ…」
キスしてしまう、という言葉が恥ずかしく口ごもる。
それを悟ったのか、美咲は楽しそうに口元を緩める。
「ん〜?どうなっちゃうのかな?言ってみてよ」
「…唇があたる、じゃん」
「でも、同性同士だよ?男女じゃないとドキドキしないとか言ってたじゃん、奏」
うっ、たしかに。ドキドキしないとか言ったけど…これは心臓に悪い。
「私、すごいドキドキしたよ?」
「え?」
「好きな人とやったら、ドキドキするでしょ」
「好きな人って…私の事?」
「…そうだよ。ずっと好きだった」
「ねぇ、奏もドキドキしたでしょ?」と言いながら私に1歩近づいてくる。
たしかにドキドキしたけど、この胸の鼓動はそう言う意味なのかな。
「…分かんないよ」
「じゃあ、付き合ってみようよ。それから私の事が好きかどうか決めてほしいな」
私は…頷いた。
あれからもう6年が経つのか。
懐かしいな。今思うとあの頃から美咲はだいぶ積極的だったなぁ。
「あっ」
コンビニの前でふと足が止まる。
…ポッキー、買っていこうかな。
「ただいま〜」
私が言うとドタドタと忙しない足音が聞こえ、やがて美咲がドアから飛び出してきた。
「おかえり!」と元気よく言いながら抱きついてくる。
「うわっ、危ないよ」
「えへへ。あれ、何か買ってきたの?」
私の持っていたコンビニの袋に目をやり、聞いてくる。
「あぁ、ポッキーの日だからポッキー買ってきたんだよね」
「ふーん、久々にポッキーゲームしたいの?」
いたずらっぽい笑みをみせ、言ってくる。
昔からこのニヤニヤした顔は変わらないな。
「…せっかく買ってきたし、しようよ」
「いいよ。じゃあ手を洗ってうがいしたら、リビング来てね」
「はーい」
少し冷えた手をお湯で洗い、うがいをする。
なんだか大人になってからポッキーゲームなんてしたことないから、緊張してきた。
学生の頃はあの1回だけだったし。今度は最後までするのかな。
「手、洗ってきたよ」
「よし、それじゃポッキーくわえて」
ポッキーを1本手に取り、口にくわえる。
「ん」とくわえたまま美咲の方を見る。
美咲がもう片方のポッキーを口にくわえる。
お互いに食べ始め、距離が近づく。
やっぱり、これ、ドキドキするな。
あと少しで唇が触れてしまう距離になったところで、美咲が食べ進めるのをやめた。
なんで?と目で訴えると「はやく食べて」とポッキーをくわえながら言われた。
大人になって、美咲の意地悪さは加速したみたいだ…。
ポッキーを食べ進める。
そしてお互いの唇が触れ合った。
ポッキーのチョコが少し溶けたせいか、いつもより甘いキスだった。
「はぁ、美味しかったね」
「うん」
「高校生の頃は最後までできなかったから、リベンジ成功〜なんてね」
…覚えてたんだ。
なんだか嬉しい。
「それでさ、奏」
「なに?」
「まだまだポッキーあるけど、どうする?」
ポッキーゲーム 夜桜 @yozakura_56
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