第22章ーセフィロトの兄弟ー7

――ラファエルに兄を任せられると、ガブリエルは眠って休んでいる彼の側で、両腕を組んで椅子の上で寝ていた。彼は、そこで懐かしい夢をみていた。自分がまだ、幼い頃の遠い記憶が夢の中で蘇った。


「ねぇ、兄さん。ねぇってば……! 待ってよ、何でいつも僕だけ置いて行くの? 仲間外れにしないでよ……!」


 幼い足で後ろから兄の後を必死について行った。だが、名前を呼ばれてもウリエルは、後ろを振り返らずに前を歩いた。そこに彼が『いない』かのように冷たく接した。


『待ってよ、ウリエル兄さん! どうして僕の方を振り向いてくれないの? 僕が見えないの? 僕は此処に居るんだよ。ねぇ、兄さん……!』


 ガブリエルは悲しそうな声で必死に兄の名前を呼んだ。それでも彼は一度も後ろを振り返ることはなかった。その冷たさが、幼い子供だった自分の胸を鋭利なナイフで切り裂かれるように傷みを感じた。



『ねぇ、待ってよ! 兄さんってば…――!』



 そこで思いが募ると大きな声で叫んだ。その声に目の前を歩いていた彼は足を止めた。


『僕を消さないで、殺さないで、僕はここにいるんだよ!? 僕のこと見てよ兄さん! 僕を見てってば! 僕は此処に居るんだ…――!』


 幼い手を伸ばすと、目の前にいる兄の服の袖を両手で掴んだ。そして、悲痛な声で訴えかけた。すると彼は後ろを振り向いて一言発した。


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