第19章―温かいスープ―7

 ケイバーは彼の背中を軽くポンと叩くと、後ろから首に腕を回して肩を組んだ。


「いいって、いいって、お礼なんて。俺は気まぐれでアンタを助けただけだからさ」


「は…はぁ…」


「それよりアンタに用があるんだ。一緒に来てくれないか?」


「ど、どこにですか…?」


 チェスターは警戒した表情で彼に尋ねた。



「んー、調理場にちょっとね――?」



「あっ、あの…? 調理場にですか…――?」


「アンタを呼びに来たんだけど部屋に居なくてさぁ。こっちは探したんだ。わざわざここまで来てあげたのに俺の言うことはきけないってか?」



「い…いえ、別に……」



「じゃあ、俺と一緒に来てくれ。いいよな?」


「……」


 チェスターは彼に警戒心を強めながらも無言で黙った。


「さっき何でも言うことをきくって俺に言ったよな? んじゃあ、さっそく言う事をきいて貰おうか? 断ればまた痛い目に合わすけどいいか?」


 ケイバーは彼の横でそのことを話すと、陰湿な笑いでニヤリと笑った。瞳の奥は、ぎらついた狂気が見え隠れした。逆らうと酷い目にあうと思った彼は言葉を濁しながら返事をした。


「わ、わかりました……」



 オドオドしながら返事をすると、彼と一緒に調理室へと向かった。長い渡り廊下を歩きながらチェスターは隣で警戒した。隣にあの恐怖の看守の一人がいるだけで、少なからず不安感を抱いた。彼はあの時、拷問部屋で彼らの狂気を垣間見た。そのせいか、警戒心がさっきよりも高まった。




――調理場に何しに行くんだろう?




 言わずと知れた不安感が胸の奥でざわついた。



 

もしかしたら何かされるのか?




 彼は隣で歩きながら余計なことばかりが頭の中に浮かんだ。調理室に近づくに連れ心臓の鼓動も早くなる。そして、緊張のせいで額から嫌な冷や汗が流れた。チェスターは隣にいる彼にしっかりと肩を掴まれていた。薄暗い廊下を2人で歩いていると、ケイバーは奇妙な鼻唄を歌いながら口ずさんだ。それが、余計に不気味な緊張感をはりつめさせた。彼はニヤニヤしながら笑うと話した。


「アンタを調理場に連れて来いってあいつに頼まれたんだよ。なーに、そんな大したことじゃないから安心しろよ?」


 そう言って彼は隣で目を細目ながら笑った。チェスターは、彼の怪しい表情を間近で見ると足下が急に竦み上がった。



「ん、どうしたんだ?」



「言え…何でもありません…――」



「そうか? 足が止まってるけど、どうした?」


「ちょ、ちょっと気分が……」



 そこで立ち止まると逃げ出したい気持ちに襲われた。しかし、ここで走って逃げたら後が怖いと思い。彼はなくなく歩き出した。


「何でもいいから早く歩けよ、クロビスがお待ちかねだ」



「えっ…!?」



 ケイバーの口から出た言葉に表情を驚かせた。彼にとっては一番、会いたくない男だった。クロビスの名前を聞いただけで全身が震えた。


「何だよ。ビビってるのか?」


「っ…! そ、そんなことは……!」


「じゃあ、何で震えてる?」


「これはその…――!」


 オドオドした口調で言い返すと視線を下に向けた。


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