第19章―温かいスープ―5

「チェスターとあのガキ。2人纏めて恐怖に陥れるのはどうだ? そうしたら反抗する気力もなくなるだろ。あいつらに、わからせてやるのさ。私がいかに冷酷な男かをな――」


 クロビスは机に両肘をつきながら、手を組んでククッと笑った。彼の悪意にケイバーは半笑いを浮かべながら魅入った。


「あんたはとんだワルだな。聞いてるだけでこっちはチビっちまいそうだぜ。で、具体的な内容は?」



 ケイバーはその話しに興味を抱きながら林檎を噛った。クロビスは鼻で笑うと、彼にその内容をこっそりと耳打ちして話した。その話しに少し驚きながらも彼は口元をニヤつかせた。


「――ふふふっ。やっぱりワルだな。ワル過ぎて、あとが怖いぜ」


「黙れ、貴様こそあのガキにネズミを食わせただろ。どっちかと言うとお前のほうがどうかしてるぞ?」


 クロビスは彼に一言言い返すと、椅子に背中をつけて足を組んだ。


「だって面白いじゃねーか。ああ言ったガキは、どこかでビビらせねーと付け上がるんだよ」


「フン…。まあ、過ぎたことを言ってもしょうがない。精々あのガキの恨みは買わないことだ」


「なんだよ、お前だって面白がってただろ?」


「うるさい。お前が勝手にやらかしただけだ。とにかく、早くアイツを呼んで来い」


「わかったよ。じゃあ、アイツを呼んでくる。で、どこに連れて来ればいい?」


 ケイバーは机から離れるとポケットに両手を入れて、後ろ向きで尋ねた。クロビスは彼にあることを命令した。


「調理場に連れて来い。奴が来る時には出来ているだろう」



「…マジでやる気か?」



「ああ、私はやると決めたら、必ずやる男だ」


「了解。じゃあ、連れて来る。ホント、マジでチビっちまいそうだぜ」


 ケイバーはニヤつきながらそう話すと、後ろ向きで片手を振って部屋から出て行った。彼がいなくなるとクロビスは怪しい狂気を秘めた顔で薄笑いを浮かべた。



――その頃、人気のいない場所にチェスターは連れて来られると同僚の看守達にイビられた。理由はオーチスの事を彼らに告げ口したことだった。いくらそうだと言えでも、自分の上司を売るような真似に、他の看守達は彼に不満と苛立ちを隠せなかった。他の看守達はオーチスとは仲が良かった。それが余計に彼らに拍車をかけた。チェスターは3人の同僚達に苛められると、そこでブルブルしながら震えた。


「チキンの癖に余計な真似なんかしやがって! テメーがアイツらに告げ口しなければ、オーチスは死なずにすんだんだ! だいたい新人の癖に生意気なんだよ!」


 3人の看守はチェスターに罵声を浴びせると、蹴って憂さ晴らしをした。


「オーチスが囚人を逃がすはずがねーだろ!? もし逃げたとしたなら、お前が勝手に牢屋を開けて囚人を逃がしたんだ!」


「ち、ちがっ…! 僕は本当に見たんです…! あの時オーチスさんがあの囚人と話している所を…――!」


「うるせーっ!!」


 一人の看守は怒鳴るようにキレると警棒で彼の顔を殴った。チェスターは殴られると鼻血を流しながら悔し泣きした。


「みんな陰で言ってるぜ。お前が逃がしたんだってな。ワザと逃がして、オーチスのミスのせいにしようとしたんだろ!?」



「僕はそんなこと…!」



「テメーが上司と不仲だったのは、ここにいる連中は皆知ってるんだよ!オーチスじゃなく、お前が死ねば良かったんだ!」


 彼はそう言って罵ると再び警棒で叩いた。チェスターは3人の看守達にコテンパにやられた。するとそこにケイバーが彼らのもとに突如現れた。



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