第18章―虚ろな心―17

 

「フフフッ。がっつくな、卑しい奴だな」


 そう言って話す様子はどこか楽しんでいるようにも見えた。クロビスは彼の方に目を向けると、くすりと挑発的に笑った。ギュータスはジャントゥーユに嫉妬すると気分を害したと言って、部屋を出ようとした。するとクロビスが後ろから声をかけた。


「おい、待て。どこに行く気だ? 私に用があったんじゃ、なかったのか?」


 後ろから呼び止められるとギュータスは振り返った。


「ああ、あったさ。でも、お取り込み中悪いから出直す」


 そう言った彼の表情はどこか苛立っていた。クロビスはそこでククッと笑うと、舐められていた手を振り払った。


「お取り込み中か。お前も面白い冗談を言うな。私が待てと言ったら待つんだ。ああ、それとも下僕が主に逆らう気か?」


 クロビスはそう話すとソファーの前で足を組んだ。ギュータスは舌打ちをすると再び彼に近寄った。


「――奴から頼まれた報告書だ。お前に渡せって言われたんだ」


 ギュータスはそう話すと報告書をクロビスに手渡した。


「奴から?」


「ああ、リオファーレからだ。あいつは他にする事があるから、お前に渡せって頼まれたんだ」


「ふん。あの生け簀かない男か……。さっさとそれを私によこすんだな」


 クロビスはそう話すと、手に持っている報告書を嫌々受け取った。


「で、報告書の内容は?」


「さあな。たぶん逃げた囚人についての報告書だろ?」


「逃げた囚人――。そんな事もあったな。だが、今となってはそんなのどうでもいい。私が報告書に目を通すまでもない」


 クロビスはそう話すと興味なさげな態度をとった。ギュータスは彼に報告書を手渡すと不意に尋ねた。


「なあ、他の奴から聞いた話なんだけど。お前があのジジイを殺ったって本当か?」


「あのジジイ?」


「ああ、あいつだよ。あの看守の男だ」


 ギュータスがその事を話すとクロビスは鼻で笑った。


「くくくっ。何を聞いてきたと思えば、そんな事か? ああ、そうだ。私が奴を殺してやった。お前にも聞かせなかったな。奴の哀れな断末魔を――」


 クロビスはそう話すと残酷な顔で笑った。


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