第18章―虚ろな心―14

 


 闇に染まる。彼の心もまた闇に染まる。暗闇に囚われているのは、彼の心か、それとも彼自身なのか。闇は彼を牢獄の深い暗闇の中へと繋ぎ止めた――。


 囚人が脱走した騒動から2日が経った。真実を知らない看守や他の者は、竜騎兵の話をすっかり鵜呑みに信じきっていた。


 2日が過ぎるといつもみたいな平穏な日常が戻った。彼らは脱走した囚人の事なんか忘れて各々の仕事に取りかかっていた。そんな中、彼らの中である噂が広がっていた。それは同僚の看守の一人が無惨な死を遂げたと言う噂だった。


 彼らは上の者達の目が届かない場所でその噂をしながら誰もが驚きながら震撼した。それはクロビスがオーチスを無惨な手口で殺したと言う衝撃的な話だった。彼らはその衝撃的なスキャンダルに、恐れおののき恐怖に震えた。


 ある者は余りの恐怖に、ここから逃げるように退職して行った。それほどまでに彼ら看守達にとってもクロビスの存在は恐怖のシンボルだった。″あいつらに関わったら殺される。


 ″それが彼らの口癖になっていた。実際に何人か行方不明になったり。変死体となって発見される事もあった。そんな事から彼らは上の者達を異常に警戒していた。牢獄内を巡回中の4人の看守達は、深刻な顔でヒソヒソと立ち話をした。


「なあ、聞いたか? 昨日で3人も辞職届けを出した奴らがいるって話だぜ」


「ああ、俺も聞いた。きっと例の噂のせいだろ? でもその噂が本当だったら、本当にここで働いていていても、自分の身が安全なのかわからないな、だろ?」


「俺もそう思うな。故郷を離れて遥々ここに出稼ぎに来ているのに、あいつらに殺されちまったら元も子もないだろ」


「――でも、ここの時給は良いからな。直ぐに辞めるって言っても簡単には辞められないだろ。それに他に行くあてなんかないし……」


 看守達は巡回中だと言うことも忘れて話しに夢中になっていた。


「ああ、俺にも家族がいるからここで辞めるわけにもいかない。それにこのご時世だ。良い所なんて簡単にはみつからないだろ? 第一このグラス・ガヴナンには、行きと帰りの船は年に3回しか来ない。来るのは春と夏と冬だ。たまに稀に来る時もあるけど、それも滅多な時にしか来ない。それに孤島の大陸なだけに、行きと帰りも長い船に乗らなくてはならない。険しい道なだけに海で途中、遭難する話だってある。本当にここに来るのも命がけの覚悟だぞ?」


「なあ、他の大陸から来る。罪人達を乗せた船は今度いつ来るんだ?」


「ああ、確か次の次だ。ザッと2ヶ月は待たないと次の船は来ないぞ?」


「2ヶ月もか…――。出来れば早く俺も自分の故郷に帰りたい。まあ、それまで無事に生きていたらの話だけどな……」


 彼らはその言葉を皮切りにそこで黙って沈黙した。


「あ、そういえばこれは拷問部屋に行った看守からの話だ。オーチスの遺体を見つけた看守は、そこで悲惨な光景をみたらしい。聞いて驚くなよ? なんと奴の遺体は頭が切り開かれていて、脳が綺麗に無かったって話だぜ?」


 一人の看守が突然その事を話すと、そこにいた3人の看守は顔が青ざめた。


「しかもその脳はどこかに持ち去られたんだ。奇妙な話だと思わないか?」


 一人の看守がその事を話すと、若い看守はある事を話した。


「ああ、それなら俺も知っている。俺が他の奴から聞いたはなしだと、あの部屋にはオーチスの遺体の他に料理がテーブルに置かれていたって話だぜ。それも、#あの__・__#イカれたコックが作った料理らしい。奴は滅多な時にしか厨房には立たないが、なにか特別な時にだけ奴は料理を作るって話だ」


 彼がそう話すと、周りの3人はジッと息を呑んだ。


「それに噂じゃあのエドウィンってコックは、もと罪人だったらしい。済ました顔をしているけど、奴は殺人鬼だ。それも奴は人の肉を料理してたって話だぞ。もしかしたら、そのテーブルに置かれていた料理はさ……」


 その事を話すと、3人は一斉に吐き気に襲われて口を押さえた。


「やっ、やめろ…――! その話はやめるんだ!! なんだか夢の中にまで出てきそうだ…!」


 一人の看守は彼に抗議すると、顔が恐怖で真っ青になっていた。




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