第18章―虚ろな心―12

 怪我を負った隊員達の様子を見に行ったハルバートは、リーナを連れて竜騎兵の兵舎に戻った。ハルバートは自分の部屋に戻ると椅子に座って彼女と話した。


「ウフフッ。貴方が彼らのお見舞いに行くなんて、ちょっと意外だったわ」


「お見舞い? おいおい、俺がそんなことをする奴に見えるか?」


「じゃあ、どうして見に行ったの?」


 リーナは彼の隣に座ると救急箱から包帯を取り出した。


「あのジジィに見に行けって言われたからだ。行かねえと、しつこく言ってくるからな。仕方なく見に行ったんだよ」


 ハルバートは、ぶっきらぼうな口調で彼女に話した。


「そうなの。でも、貴方の顔をみたら彼らも元気を取り戻したみたいね?」


「そうか?」


「ええ、私にはそう見えたわ」


 リーナはそう答えると、彼の左腕の包帯を外した。そして、新しい包帯にとりかえた。


「ねぇ、ハルバート。あの子、あの花を気に入ってくれたかしら?」


「ん? あの青い花か?」


「ええ、あれはブルーラグーンの花よ。花言葉は癒し。私がここで育てた花よ」


「ここで?」


「そうよ。前にあの子から花の種を貰ったの。あの子の町にはブルーラグーンの花が咲いているのね。あの花は寒い土地に咲く花と知られているからこの土地に咲いてもおかしくないわ」


 リーナは彼の隣でその事を話すと、包帯を巻き終えてニコリと笑った。


「――こんな土地で花なんて咲くのか?」


 ハルバートはその話に、しかめっ面をした。リーナは彼の質問に答えた。


「ええ、咲くわ。花も人と同じですもの。どんなに環境が悪くても生きようする意思さえあれば、どんな場所でも生きられるわ。そう言った所も、花も人と同じなのよ」


 リーナはその事を話すと、椅子から立ち上がって彼の手を引いた。


「来て! 貴方に見せたいものがあるの――」


「俺に?」


「ええ、こっちに来てハルバート」


 彼女は彼を部屋の外のテラスに導いた。広いテラスには、小さな木箱が置かれていた。彼女はその木箱のフタを開けると、彼に見せた。木箱の中には、ブルーラグーンの小さな花が咲いていた。ハルバートは指先で一輪の花に触れた。

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