第17章―天上の刃―12

「おいおい。アンタ、誰と間違えてるだ? 俺は殺しが好きだが、生憎こいつを殺ったのは俺じゃねー。確かに俺はこいつをブッ殺そうと思ってたけどな。こいつを殺ったのは俺じゃなくてアイツだ。テメェの方こそ何が本当か見えてないんじゃないのか?」


 ケイバーはそう話すと、掴んできた手を振り払った。


「何だと……!? じゃあ、誰がこいつを殺ったって言うんだ!」


 目の前で惚ける彼にハルバートは怒鳴って質問した。


「何だよ。何そんなに熱くなってるんだ? どうせアンタもコイツが嫌いだったんだろ? 前からムカついてたって言ってたよな。嫌いな奴が居なくなって清々した気分だろ?」


 ケイバーはそう言い返すと、椅子に座っている死体を足で蹴飛ばした。


「こいつを殺ったのは俺でもギュータスでもジャントゥーユでもねぇよ。こんなイカれたことをするのは、アイツしかいないだろ?」


「なんだと…――!?」


「それとも信じられねーってわけか? ああ、違うな。信じたくないんだろ? ホント何もわかってないんだな。アンタはあいつがこんな残酷な事をするはずがないって心の中で信じてるのか? いや、それにすがりたいんだろ。違うか? だったら本当の事を言ってやる。それで絶望すればいい」


 床に転がったオーチスの死体を片足で踏みつけると、ニヤリと笑いながら事実を伝えた。


「こいつを殺ったのはクロビスだ。アンタの大好きな、お坊ちゃんだよ――」


 ケイバーは彼に残酷な事実を告げると、皮肉混じりに笑った。ハルバートは衝撃的な事実を聞かされると足下から崩れた。


「じょ、冗談だろ……? アイツが…――! うっ、嘘だ……! アイツがそんなこと…――! そんなことするはずがないっ!!」


膝から崩れて床に両手をつくと、絶望した表情で俯いた。彼にとっては衝撃的な事実だった。余りの辛い真実に思わず叫んだ。慟哭に嘆く彼を前にケイバーは鼻で笑って上から見下ろした。


「これが現実だ。アンタはただアイツの本性を知らないだけだ。アイツはアンタが思っているよりも残酷な男なんだよ。それが受け入れられないなら、さっさとこの牢獄から立ち去るんだな」


ケイバーは彼に一言そう告げると、ズボンのポケットに両手を入れて部屋を出て行った。クロビスの冷酷な一面に衝撃を受けるとハルバートは塞ぎ込んだ。もうそこには彼の知っている少年の面影はどこにもない。少年はいつの間にか残酷な少年になってしまった。その事実が彼の心を嵐のようにかきみだした――。




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