第17章―天上の刃―10

 

「俺は野郎は趣味じゃねーが、アンタみたいな綺麗な男なら一回くらいその気になって抱いてやっても良いんだぜ? ちょうどムカついてる所だから、アンタに慰めてもらうのも悪くないかもな――。どうせアンタ、こう言うの好きだろ?」


 ハルバートは耳元でそう話すと、彼の着ているYシャツのボタンに手をかけて迫った。リオファーレは、鼻でフッと笑うと言い返した。


「この私とどうしたいんだ? 私が男漁りしているような奴にでも見えるか?」



「ああ、見えるな。でなきゃ、どうやってあの男に近づいたか教えろよ?」


「ふん。不愉快だな――」


 リオファーレは文句を言うと、伸ばしてきた手を振り払って一瞬でハルバートの左腕を締め上げた。


「クッ! てめぇっ!? 腕を離せっ!!」


「どんな強者も弱点を押さえ込めば、この有り様だ。私を罵った罰は重い。一層この腕を捻り曲げて使えなくさせてやろうか?」


 そう言って力を込めて彼の左腕を締め上げた。キリキリと左腕を締め上げると、さすがのハルバートも地面に片足をついて降参した。


「わっ、悪かった! ちょっとムシャクシャしてたんだ…! あんたには悪気はねぇ、だから頼む!」


 ハルバートは左腕を締め上げられるとそこで謝った。リオファーレは、怪訝な表情で彼の掴んだ腕を離した。


「――フッ、無様だな。情けない奴だ。今回だけは見逃してやる。だが、次に私をまた侮辱したら、その時は只では済まさないからな」


 彼はその場で警告すると左腕を離した。ハルバートは、掴まれた左腕を右手で擦って言い返した


「チッ、小綺麗な顔して何て握力だ。アンタ、顔に似合わず凄い力だな?」


 ハルバートは意外な彼の力に驚いた。見た目は体つきから細身なのに、握力は十分あるように見えた。警戒する彼にリオファーレは冷めた目で一言言った。


「そんなに知りたければ自分の身体で聞いて来い。ヤられる側になれば、少しは他人の気持ちがわかるんじゃないのか?」


 リオファーレは上から見下ろすと、鼻で笑って蔑んだ目をした。そして、ドアノブに手をかけるとある事を告げた。


「ああ、そうだ。忘れていた。お前に一つ話しとく。オーチスと言う男だが既に死んでいる。彼に聞き出すだけ無駄だ」



『なっ、何だって…――!?』



「嘘だと思うなら自分の目で確かめるがいい。彼は拷問部屋で、無惨にも殺されているのを発見した」


「誰にだっ!?」


「それはお前が知っている者だ。あとは、自分の目で確かめるんだな」


 リオファーレは彼にそう告げると部屋を出て行った。彼は、その言葉に愕然となった。そして、脳裏には、人の男の顔が一瞬過った。オーチスが殺されていると聞くと慌てて部屋を飛び出した。


 急いでタルタロスの牢獄内を走ると、真っ先に拷問部屋がある西の棟へ向かった。西の棟にいた看守に事情を話すと彼はそのまま看守を引き連れて拷問部屋まで案内させた。看守は扉の鍵を開けて厳重な通路を歩いた。 そして、長い通路を歩くと一番奥の部屋に案内した。


「あの、おそらくここだと思います。他の看守から聞いたんですが、オーチスはこの部屋で死んでいたと聞かされました。私は余りにも怖いのでこの先から一歩も立ち入っていません」


「そうか、わかった。お前は外で待ってろ」


「はい……!」


 看守を入り口の前で待たすとハルバートは意を決して中に入った。扉を開けると衝撃的な光景を目の当たりにした。


「ッ――! じょ、冗談だろっ!?」


 ハルバートはそこで大きな衝撃を受けた。オーチスが椅子の上で絶命しているのを見てしまった。


「オーチス! くっ、くそぉっ!!」


 膝から足下に崩れると、床に手をついて愕然となった。


「チッ…――! 一体、どうなってやがる! くそぉっ!!」


 地面に向かって右の拳を振り上げると、そこで怒りを吐き出した。唯一の相手から逃げた囚人について聞き出す手段を失うと、ハルバートはやり場のない怒りを込み上げた。


「クソッタレ、畜生! 一体どいつがオーチスを殺しやがった!? クソッ! これじゃあ、聞き出すこともできねぇじゃねーかっ!!」


 ハルバートは怒りに震えると拳で床を何度も叩いた。


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