第16章―天と地を行き来する者―11

――ボクはハラリエルの前から消えると、空を一人きりで飛んでいた。ちょっとムシャクシャしていたので、気晴らしにアイツの所に行った。あのじーさんは、相変わらず水晶玉を覗いて独り言を呟いていた。アイツには、ボクの姿が見えていない。ボクの能力は特別な力だった。自分の意思で自由に姿を現せる能力は、ほかの天使達には持っていないボクだけが使える特殊な力。だからアイツらは、ボクが見ていることには気づいていない。なんでそんな力が使えるかは、ボクにもわからない。でも、気づいた時からその能力が使えるようになっていた。


 ボクの消える能力は、人の目も天使の目もエルフの目も欺ける。ひょっとしら竜の目も欺けるかも知れない。だからボクはその能力を使って見たいものを見て自由に何処にでも行ける。ボクは能力を使うことで監視者となって、彼らを見ている。でもだれも、ボクが監視してることには気づかない。もしかしたら本当に誰もボクの姿が見えていないのかもって思ったことがある。


 姿を消す時は自分の存在を消すみたいな感覚。初めから存在してない無の感覚だ。何もない。自分が存在している感覚がそこから消える。本当に誰も気づいていないんだって思った時、そこに彼がいた――。


 あの日、ボクは初めて誰かに自分の存在を気づいてもらえた。それがハラリエルだった。ハラリエルはボクが姿を消していたのにも関わらず、月明かりの下でボクに気づいてくれた。ボクはそれが嬉しかった――。


何故だかわからないけどボクはあの時、何故かとても嬉しかった。それが彼との出会いだった。


 何故だかこんな時に昔のことを思い出した。ボクらしくもない。今までずっと一人だったのに、寂しい思いなんて感じたこともないのに何故だか今は少しだけ寂しい気がした。


 次の日、ボクはハラリエルに会いに行った。今度はアイツが居ないときにした。アイツがいるとまた邪魔されると思った。


 彼の部屋に入るとハラリエルはベッドで眠っていた。一応、声をかけて確かめてみた。でも彼が反応することはなかった。


 ハラリエルは既に深い眠りについていた。眠りが浅ければ直ぐに起きるけど、眠りが深いと起きることもない。頬っぺたを軽くツネってみても、やっぱり起きなかった。よくみると顔には涙のあとが残っていた。


 もしかしたら泣き疲れてそのまま、眠りの世界に入ったのかも知れない。こうなるといつ起きるのかわからない。ボクはベッドに座ると頬につたる涙を人差し指ですくった。


 彼はボクが居なくなったあと、ベッドの上でずっと泣いていたんだと思うと、急に胸が切なくなった。寂しがり屋の小鳥さんは、ボクが会いに来ないと寂しくて泣いてしまう。それがハラリエルだった。彼はいつも心の中で誰かと話をしたり。誰かと一緒に遊びたいと純粋に願っている。ただ、それすら叶わない。きっとこの牢獄おりは、彼にとっては苦痛でしかない。ボクは寝ている彼に話しかけた。


「ハラリエル。キミは眠ってしまったのかい? 謝りに来たのに眠ってしまったら謝ることもできないよ。寂しがり屋の小鳥さん。今は夢の中で、どんな夢を見ているんだい? 楽しい夢だといいね…――」


 彼の小さな頭を撫でるとボクは部屋を静かに出た。次に彼が起きたら謝ろうと思った。そして、また2人で遊ぼう。それまでお休みハラリエル。ボクのたった一人の友達。そして、可愛い人――。


 それから彼が眠りについてから2年後が過ぎたある日、ようやく長い眠りから目覚めた。今回は長い睡眠だった。もしかしたらこのまま起きないんじゃないかと心配していた。ハラリエルは長い夢の中で色々なものを見てきたと話した。


 ボクは彼に2年前のことを何気なくを尋ねた。でも、どうやら忘れているみたいだった。ここで過ぎ去った過去を掘り返すのも何だから、ボクは黙って何も言わなかった。


 ハラリエルはボクに、あの子のことを尋ねてきた。でも、ボクはこの2年間。下界には降りてなかった。


 彼が寝てしまったのであの子を監視する意味がなくなった。ボクは彼が起きたら彼女の事を再び調べに下界に行こうと考えていた。それに、急ぐことでもないと心のどこかで気が緩んでいたのも確かだった。



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