第14章―魂の在りか―7

 

「姫様? このお嬢ちゃんが??」


「はい――」


「嘘!」


「いいえ、嘘ではありません」


「お前、この私をからかっているつもりか?」


「いいえ、違います。彼女はミリアリア王女様でございます」


「ミリアリア……? はて、うちの姫様と同じ名前だ。お嬢ちゃんの名前は?」


「ミリアリアよ」


「またまた冗談を言うではない! 大人をからかっているのか? 他は騙せても私は騙されないぞ!」


「――貴方ねぇ、私を誰だと思ってるの?」


「なら、お嬢ちゃんの父親の名前は??」


「ルワンよ」


「ル、ルワン? こやつ、またしても冗談を言うつもりか? 何て偶然なんだ。親子揃って名前が同じだとは……! こんな偶然があると言うのか…――!?」


 シュナイゼルは驚きの連続に顔が青ざめた。


「ええい、お前さんの親子さんに会わせなさい! そんなデタラメを言う輩は私が成敗してやる!」


「まあ、血気盛んな事ね。やれるものらやってみなさいよ。お父様はお城にいるから――」


「何、城にだと!? 住むところも同じだとは信じられん…――! それでは本当だと言うのか!? では、お嬢ちゃんが言う父親とはまさかあの……!?」


「バカね、ルワン王に決まってるでしょ。そして私は国王の娘のミリアリアよ!!」


『なっ、なにぃいいいいいいいいっっ!?』


 少女のおもわぬ言葉にシュナイゼルは、そこで仰天して大声を上げた。


「こっ、この子があの姫様か……!?」


「シュナイゼル団長。正真正銘の姫様でございます」


 顔が一気に青ざめると、その場で地面に土下座をして頭を下げた。


「こ、これは申し訳ありません姫様……! 疑ったりしてすみませんでした! そして、今までのご無礼の数々をどうかお許し下さいッ!!」


 シュナイゼルは誠心誠意を込めて土下座して謝るとミリアリアはすこし呆れた表情でため息をついた。


「わからなくても無理はないわ。だって私はこの3年間、この国にはいなかったから忘れられても当然よね?」


「そ、そんな滅相もありません! 私は姫様のことは一日たりとも決して忘れてなど……!」


「じゃあ、何で気づくのが遅いの? 貴方それでも王宮騎士団の団長なの?」


「うっ……!」


 ミリアリアに痛いところを突かれると、彼はそこで撃沈した。


「だいたい王宮騎士団長は貴方じゃなくて彼のはずよ。ユリシーズはどこにいるの? 貴方じゃ団長は務まらないわ。彼をここに呼んで来てちょうだい」


「その……!」


「何よ?」


「ユリシーズ殿は今から2年前にオートリアの戦いで殉職されました…――!」


「なっ、何ですって……!?」


 シュナイゼルからその話を聞かされたミリアリアは、大きな衝撃受けた。


「そ、そんな……!? 嘘よ、ユリシーズは強かったはずよ!? それにそんな大事な話。私だれからも聞かされてなかったわ!?」


「ユリシーズ殿は最後まで、貴女様のことはお忘れにはなられませんでした!」


「とっ、当然よ……! ユリシーズは私が生まれた時からずっとそばで見守ってくれてたんだから……! そんな、ユリシーズ……! 一体何で……!?」


 彼の悲報を知ったミリアリアは悲しみのあまりに顔の表情を曇らせた。アレンはそんな彼女を傍で気遣った。


「ユリシーズ殿の亡きあとは、私が今この王宮騎士団の団長を務めております」


「そうなの……。ユリシーズはもういないのね…――」


「姫様、残念ながら…――」


 ミリアリアは沈痛なおもいで現実を受けとめた。


「それだけではありません。この3年で国の情勢にも大きな変化などが多々ありまして――」


「そう、この3年間で色々なことがあったのね――?」


「ええ、そう言うことになります。私は何ゆえ戦いに身を投じる日々なのでこの国には滅多にいませんが、彼の右腕となって共に戦場で長く戦っておりました。そして、彼からは良く姫様の話を聞かされておりました。ユリシーズ殿は姫様を心から愛していたのです…――!」


「ッ……!」


 シュナイゼルの口から出た言葉に彼女は心の奥をかき乱された。


「そう、ユリシーズは私を…――。駄目ね、人は死んでしまったらそんな大切な言葉さえも相手に伝えられなくなってしまうもの――」


 ミリアリアはユリシーズの死に様々な思いが駆け巡ったのだった。


「わかったわ。近いうちに彼が埋葬されている墓地へとお花をたむけに行くわ。その時にまた彼のお話を聞かせてちょうだい」


 悲しみの中で機上に振る舞う彼女の姿に、2人はただ圧倒された。



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