第11章―少年が見たのは―12

「いいかお前らよく聞け! 今日は色々な事があったが、逃げた囚人の事について他の奴らに聞かれたらこう答えとけ! 捜索の途中で囚人を発見したが、既に凍死していて死んでいたと答えろ! 間違っても囚人が崖から飛び降りて行方をくらましたとか、逃がしたとか、遺体が見つからなかったとか絶対に言うな! 言えばめんどくせー事が起こるからな、今回の件については外部には本当のことは漏らすな! あと逃げた囚人が魔法石のオーブを持っていたこともだ!」


 ハルバートは部下達にそう話すと、出発の号令をかけた。すると、一人の隊員が彼に尋ねた。


「あの、ハルバート隊長。ひとつ伺ってもいいですか?」


「なんだ?」


「逃げた囚人のことなんですが。本当にあの囚人は、只の囚人だったんでしょうか?」


「……何がいいたい?」


「言え、ちょっと気になっただけです…――。オーチスって男が囚人を逃がしたって事はわかります。ですが、あの牢獄から脱獄してここまで逃げて来るなんて普通は出来ません。むしろこんな吹雪きの中で逃げて、視界も悪いのにここまでこれるなんて尋常じゃありません……! ここまで歩いて目指してきたとしても人の足では一日以上はかかります!」


 一人の隊員がそのことを投げかけると、ハルバートはそこで答えた。


「その事については、俺は判断はできない。寧ろその疑問については、俺が聞きたいくらいだ。だからと言ってお前達がこの件に勝手に首を突っ込んでいいわけがない! この件については俺に任せてお前達は黙ってろ!」


 ハルバートはそう答えると自分の竜の背中に乗った。隊員達はそこで黙り込むと、各々に考え込んでいた。ただ唯一わかることはオーチスだけだった。


「奴が囚人を牢屋から逃がしたなら、何か理由や、逃がした囚人について、何か知っているはずだ! 俺は城に戻ったらあいつから真実を聞き出すつもりだ! それで全ての答えがわかる、俺はそう確信している! さあ、出発だ!」


 気迫の籠ったその言葉に隊員達は頷くと、彼の号令と共に空へと羽ばたいた。


「お前達は先に行け!」


「了解です!」


 部下達は前を横に一列に飛ぶと、そこにいた誰もが早く帰りたい様子だった。ハルバートはリーゼルバーグの隣に並ぶと声をかけた。


「あんたに見せたい物がある。囚人が持っていた魔法石のオーブだ」


 ハルバートはそう話すと、懐から魔法石のオーブを取り出して見せた。


「あんたはこれをどう思う?」


「――そうだな。中級魔法がかけられたオーブとしか、言いようがないだろう。守護の風と火を司る精霊の幻術魔法が、封じられておる。何故これをあんな囚人が持っているか、私に助言を聞きたいのか?」


「ああ、そうだ」


「恐らくだが、このオーブは普通の者には簡単には買えない高価な品物だろう。それを何故あやつが持っているかは、私も不思議でならん。仮に奴が囚人にこのオーブを渡したとなると、何故そこまでするかと言う疑問にかられる。あの囚人にそこまでの価値があるとは私には思えんが、これを渡すとなると用意周到なのは確かだ。まるでこういった事態が起きるのを予測していたと言ってもいいだろう。よほど脱獄せねばならぬ事情があったのかが気になるところだが…――」


 リーゼルバーグはそう話すと、フと考え込んだ。


「オーチスと囚人の間に何かあったとしか、言いようがないだろう。仮に事情があったとしても、このような高価な物を渡すかが疑問であるが……。お前がその謎に興味をしめすのは無理はないが、余り深入りはしないことだ」


「それはどう言う意味だ?」


「好奇心は猫をも殺す。つまりは、そう言うことだ。命がいくつあっても足らんだろう。何にせよ、あの火の鳥の力は幻術魔法とは言えでも確かなる強さを私は感じた。このオーブに魔法を封じ込めた術者は、それなりの魔術に優れた者には違いない。そうなるとこのオーブを扱うのも、容易くないはずだ。守護の風とは言えでも魔力は大きい。それにつけ加えて、火の鳥の幻術魔法だ。一つのオーブに強力な魔法を二つも封じることは、容易いことではないだろう。かりにそれが出来たとしても、普通の者があれだけの力を封じ込められているオーブを簡単に操ることは無理がある。使う者にそれなりの魔力と精神力が備わっていなければ使う意味がない。それに幻術魔法とは言え、中級魔法がかけられているオーブからあのような火の鳥を出現させるとは信じがたい話だ。もしそれができるなら、その魔法は今は忘れ去られし、最古の魔法の一つかもしれない」


 リーゼルバーグは彼にそう話すと、瞳の奥を怪しく光らせた。


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