第10章―決着の行く末―11

 

 リーゼルバーグ隊長は、一体何を考えているんだ……!? ボクには、隊長の考えが分からない。早く助けてあげないと、マードックさんがこのままだと溺れ死ぬ。リーゼルバーグ隊長だけは他の人とは違うとおもっていたけど、やっぱり彼らと同じなのか…――?


 ユングは溺れている仲間を目の前に、急に彼に対して不信感に駆られた。


 いや、もしかしてリーゼルバーグ隊長は僕には分からないことを見極めようとしているのかも。


 ユングは彼の隣でその事を考えると、ただ呆然と海に落ちて溺れている仲間を崖から見下ろしていた。男は両手をジタバタさせながら動かすと、海の中で苦しそうにもがきながら必死な声で仲間に助けを求めていた。周りの隊員達は、耳を塞ぎながら怯えていて、誰も彼を助けにはいかなかった。ギュータスは隣にいたケイバーに話しかけた。


「もうそろそろでアイツ、お陀仏しそうだな?」


「ああ、もうそろそろだろ。俺の推測が正しければ、囚人は致命傷を負って海の中で溺れ死んだ。深傷を負って海の中に落ちてなおかつ、こんな冷たい海の中をジタバタ暴れてたら、体力も消耗するだろうよ。で、最終的には溺れている途中で力尽きて荒波の中に巻き込まれて死んだ。死体が浮かんでいないのは、どっか別の場所に流されたからだろ?」


 ケイバーはギュータスにそう話すと、そこで賭け事を始めた。


「なんなら賭けてもいいぜ? どうだ乗るか?」


 彼がそのことを持ちかけると、ギュータスはフザケ半分で話に乗った。


「お前はそれに賭けるか? じゃあ俺は、囚人が人食い魚に食べられたって事に賭けてやる。死体が見つからないのは魚の胃袋にいるからだ」


「何だよそれ。それじゃあ、見つかりそうにもないな。そんなの賭け事にもならないだろ?」


 2人は冗談半分で言い合うと、そこで面白おかしそうにケラケラ笑っていた。深傷を負って、海の中で溺れている男の目の前で、彼らはその様子を崖の上から見下ろしながら冗談を言って嘲笑った。平然とした顔で笑っている彼らにユングは少なからず心の中で怒りを感じた。


 なっ、何なんだこの人達……!? 人が目の前で溺れかけているのに、それを見ながら平気な顔で笑っているなんて……! この人達には人間性なんてものはないのか……!? いいや、もしあってもそれは僅かな欠片しか無さそう。この人達は非道で怖い人達だ。根っからの悪人だきっと……! これで同じ、人間と言えるのか……!? 僕だったらこんな状況を平気で見て、笑ってなんかいられない…――!


 ユングは心の中で彼らを批判すると、持っている弓をぎゅっと強く握りしめて怒りを抑えた。


 ああ、マードックさん可哀想。早く彼を助けに行ってあげないとこのままだとホントに死んじゃう……! よ、よし……! 僕がマードックさんを…――!


 そこで決意を決めると、思いきって彼らに話しかけた。


『あっ、あの……!』


「んー?」


 小さな隊員の少年に声をかけられると、ケイバーは後ろを振り向いた。


「なんだよ?」


 ユングは声をかけるなり、そこで怖じ気づいた。何故ならケイバーの目を見た途端に体の奥で本能的に危険を感じたのだった。どこか凍りつくようなオーラと血に飢えた鋭い眼差しにゾクッと寒気すら感じてしまった。


 だっ、だめだ! この人達に刃向かうのはよそう……! 刃向かえば殺されるかもしれない! いいや、きっと殺されるに違いない! だってこの人達はここでは誰もが恐れている人達だから、目をつけられると殺される…――!


 咄嗟にそう思うと、急に口を閉ざして下を向いて黙り込んだ。ケイバーが目の前に近づいてくると思わず体が固まった。


「あっ? 何だよ、黙りかよ? 言いたいことがあるならさっさと言えよ!」

 

「なっ、何でもありません…――!」


「人に呼び掛けておいて、何でもないだとぉ? 舐めてるのかクソガキッ!」


『ヒィッ!』


 震えた声で怖じ気づくと、ギュータスはケイバーに声をかけた。


「やめとけ。ビビって漏らしてるようなガキ、相手にするだけ時間の無駄だ」


 ギュータスが然り気無くその事を話すと、ケイバーは小バカにして笑った。


「何だよチビってるのか? チビるくらいなら、はじめからシャシャリ出てくるなよな!」


 ケイバーは彼を睨みつけながら舌打ちすると、軽くあしらった。そして、再びもとの場所へと戻った。

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