第10章―決着の行く末―10

 

 囚人の生死について彼らが話していると、ギュータスは飽きた顔でハルバートに尋ねた。


「ああ、めんどくせー。囚人が死のうが逃げようが、俺はどうでもいい。囚人がここから落ちて死んだなら、誰か海に落としてホントに死ぬか試してみればいいだろ。本当に死ぬのかも解らないのに口で仮説を言ってもわからねーだろ?」


「あぁん? それはどうゆうことだ?」


 ハルバートが不意に聞き返すと、ギュータスは隣にいた竜騎兵の隊員の一人に話しかけた。


「お前。海は泳げるか?」


「はい?」


「おい、ケイバー。囚人を背後から殺ったって言ったな?」


「ああ、そうだぜ。きっちりトドメを刺してやった。間違えねえよ」


「そうか――」


 そう言って答えると、ギュータスは何を血迷ったのか。いきなり隣にいた隊員の一人に向かって、斧を振り降ろして背中を突如斬りつけた。その瞬間、その場にいた誰もが信じ難い光景に目を疑った。


『ギャアッツ!』


 隊員の一人は背中を斬りつけられると大声で悲鳴をあげた。斧は血で染まり、白い雪の地面に血飛沫が飛び散った。ギュータスは、隣にいた男を斬りつけると追い討ちをかけるように、片手で男の肩を押してそのまま崖から突き落とした。その光景に誰もが再び唖然となって固まった。崖の上から突き落とされると彼は真っ逆さまに海へと落ちた。


「テメェ、俺の部下に何てことしやがるッ!」


 ハルバートはカッとなるとギュータスに向かって怒鳴った。血で染まった斧を肩に担ぐと、平然とした顔で答えた。


「ああん? 見てわからねえか? 現場検証だ。ホント一々うるせぇ奴だな」


 ギュータスはそう言って答えると崖の上から下を見下ろした。ケイバーは彼のストイックな行動に軽く口笛を吹いて笑った。


「なるほど現場検証か。そりゃあ、いい発想だ。何かわかるかも知れねーな?」


 ケイバーは飄々と話すと、崖の上から一緒に下を見下ろした。平然とした態度の2人の冷酷さに、そこにいた隊員達は恐れをなして彼らから遠ざかった。ハルバートが怒りを込み上げていると、リーゼルバーグは彼をなだめた。


「ここは堪えるのだハルバート。確かにあやつらの行動は異常としか言いようがないが、何かわかるかも知れない…――!」


「リーゼルバーグ……! お前、本気でそんなこと言ってるのか!?」


「ああ、そのとおりだ」


「お前っ……!」


 リーゼルバーグはハルバートの横を通りすぎると、彼らと共に崖の上から下を見下ろした。男は荒波の中に飲み込まれると、両手をバタバタとさせて海の中で必死にもがいていた。


『だっ、誰か助けてくれぇっ! 俺は死にたくない! だれかぁーっつ!!』


 彼は深傷を負いながらも、そこで必死にもがいて仲間に助けを求めた。2人はその様子を平然とした表情で眺めていた。


「チッ、まだ生きてやがる。お前の仮説はハズレたな」


 ギュータスは冷酷な顔で下を見下ろしながらそう話した。ケイバーは、淡々とした口調で言い返した。


「そんなハズはねぇ。お前が雑な仕事をしたから、まだ生きてるんだよ。急所を狙わねぇと致命傷にはならないだろ?」


「ああ、確かにそうかもな。もっと致命傷になるように斬りつければ良かった」


 周りの隊員達が怯えている中で、彼らは平然とした顔でそのことを淡々と話していた。海面が徐々に赤く染まると、彼は今にも死にそうな声を出して、手足をばたつかせて喚いていた。ユングはリーゼルバーグの隣でその光景を見ると口を手で押さえて震え上がった。


「うっ……なんて酷い……! このままではマードックさんが…――!」


 ユングは血の海を見て今にも吐きそうになると、リーゼルバーグに咄嗟に指示を仰いだ。


「リーゼルバーグ隊長! マードックさんを早く助けてあげないとこのままだと死んでしまいます…――!」


 そう言って問いかけると、リーゼルバーグは眉もひそめずにジッと下を見下ろしていた。彼は何かを模索しているようにも見えた。ユングが再び問いかけると彼は冷静な口調で話した。


「子供が見るものではない。嫌なら私から離れて、他の隊員達の所にでも行っておれ」


「リ、リーゼルバーグ隊長……!?」


 彼の意外な言葉にユングは、その場で口を噤つぐんで唖然となった。

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