第9章―ダモクレスの岬―10

 

「間抜けなお前らの尻拭いしてやるから、早く囚人を俺に仕留めさせろ!」


 ギュータスは瞳の奥をぎらつかせながらそう言い放た。リーゼルバーグは彼のその話に不満を抱いたが、囚人を逃がすわけにもいかないので大人しく従った。


「貴様が正気とは思えないが致しかあるまい! 行け、リューケリオン!」


 その場で合図をすると、竜は一気に速度を早めた。


『さあ、パーティーの時間だ!』


 上から竜が一気に接近してくると、囚人は慌てた様子で服の中から何かを咄嗟に取り出した。ギュータスは右手にハチェットを掲げると、囚人の背後から一気に襲いかかった。すると突然、囚人の側から紅蓮の炎を纏った火の鳥が突如出現した。囚人はオーブを掲げると、炎の魔法を出現させたのだった。いきなり襲いかかってきた火の鳥に竜は気をとられると、そこで彼らは足止めを喰らった。


「なっ、なんと……!? 風の魔法の次は炎の魔法を呼び出すとは、なんて姑息な囚人なんだ…――!」


 襲いかかってくる火の鳥の攻撃を咄嗟に回避しながらも、面を食らって唖然となった。火の鳥は燃えさかる紅蓮の色を纏い、その姿はすべてを呑み込み、焼き尽くすほどの勇ましく、猛々しい姿を感じさせた。


「クソッ、熱くてたまらねー! 何なんだよ、あの火の鳥は!?」


 ギュータスは片手に持っているハチェットを火の鳥の方に向かって咄嗟に投げつけた。すると、ハチェットは火の鳥にあたらずその手前であっという間に灰になって散り散りに燃えた。


「おいおい、冗談だろ? 俺はバーベキューになるのだけはゴメンだ!」


 彼は後ろで苦笑いをしながら自分の顔を思わず、ひきつらせた。ハルバートは目の前に突如現れた火の鳥の出現に驚愕すると、急いで彼らの元に駆け寄った。火の鳥はリーゼルバーグの方へと容赦なく襲いかかっていた。ハルバートが近くで声をかけると、彼は大きな声で返事をした。


「我々にかまうな! ハルバート、お前達は任務を遂行しろ!」


 彼は火の鳥から繰り出される猛烈な攻撃を素早く回避しながらも、咄嗟にそう伝えた。


「本当に大丈夫か……!?」


「何をしている!? さあ、早く行け!」


 リーゼルバーグがそう答えると、ハルバートは頷いて返事をした。


「悪いがそっちは頼んだぞ!?」


「ああ、無論だとも! さあ、火の鳥を来るがよい! この私が相手だ!」



 リーゼルバーグは左の腰から剣を抜くと、剣先を真っ直ぐ火の鳥の方に向けて大きな声で挑発した。火の鳥は、彼の方へと再び襲いかかって行った。リーゼルバーグが火の鳥をひきつけている間にハルバートは、再び逃げ惑う囚人を後から追いかけた。囚人はオーブを使いきると、慌てながらそれを地面に向かって投げ捨てた。そして、彼は必死な顔で雪原の上を走って逃げ惑ったのだった。火の鳥は口から烈火の炎を吐いた。それに触れてしまえば、たちまち燃えてしまう程の強烈な威力だった。それを間一髪の所をリューケリオンは素早くかわした。火の鳥は空中を勢い良く旋回すると、再び彼らに向かって襲いかかった。


「クソッ、しぶとい火の鳥だぜ! 一体アレは何なんだ!?」


 ギュータスがそこで尋ねるとリーゼルバーグは前で答えた。


「あれは恐らく、俗に幻獣と呼ばれる古代の生き物だ……! だが、あれは本物ではない! もしあれが本物だったら、私もお前もこんな程度では済まされないだろう……!」


「何ッ!?」


「あれはオーブの力で召喚された火の精霊を実体化した似せ物だ。すなわち幻影だということだ…――!」


 彼はそう答えると、火の鳥を前で引き付けつつ、僅かに距離をとった。


「だが、我がバスティウスの剣の前では幻影などは無意味だ! あの幻影は私が必ず断ち切って見せる!」


 彼は力強くそう言い放つと、火の鳥に向かって真っ向から勝負を挑んだ。


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