第9章―ダモクレスの岬―9

 

「おいおい、お前それでなにやるつもりだ!? 当たったらどうする! それは止めとけ!」


 ハルバートが制止するとケイバーは舌打ちをして言い返した。


「ガタガタうるせーな! 俺は自分の任務を遂行するだけだ! 囚人は逃がすなって命令が出てるんだよ! それに俺は言ったはずだ! 自分の命の保証の方が大事だってな! こっちも逃げた囚人を取り逃がすわけにはいかねぇんだよ! だったら取り逃がす前にさっさと始末してやるまでだ!」


「テメェ、だからって囚人を捕まえる前に殺したら、俺だってただじゃおかねぇからな!」


 ハルバートは剥きになって言い返すと、足のかかとで後ろを蹴って竜に合図を送った。


「ヴァジュラ、今だ!」


 竜はハルバートの掛け声に反応すると、雪の上で倒れている囚人の元へ急接近した。囚人のもとに竜が接近すると、ケイバーは躊躇わずにボウカンの矢を撃ち放った。しかし、彼が撃ったボウカンの矢は囚人の横をかすめて地面に向かって突き刺さった。


「チッ、はずしたぜ! だが、次は必ず仕留めてやる!」


 ケイバーはそう言い放つと直ぐにボウカンに矢を込めた。囚人は自分の横から鋭いボウカンの矢が飛んでくると、ゾッとするような寒気を感じた。


「お前、今の本気だっただろ!? 捕まえる前に殺したら本気で許さないぞ!」


「うるせぇー! 説教はあとで聞いてやるからお前は大人しく前をみてろ!」


「なんだとテメェッ!」


 2人は竜の背中の上で激しく口論した。すると、囚人は地面から立ち上がって再び逃げ出した。


「今ので集中力が乱れちまったぜ! ケイバー、テメェあとで覚えてろ!」


 ハルバートは怒鳴ると、後ろからついてきてるリーゼルバーグに向かって声をかけた。


「お前達、先に追え!」


 そう言って指示を出す前にリーゼルバーグは、囚人のあとを彼より先に追って行った。ケイバーは口笛を吹くと、後ろで皮肉混じりに嫌味を言った。


「ハハッ、どうやらお山の大将さんはお前だけじゃないらしいな?」


 ケイバーはそう言うと、小バカにした感じで笑い飛ばした。


「クソッ! どいつもこいつも勝手なことばかりしやがって! 竜騎兵の隊長はこの俺だぞ!? お前らは俺の命令に従えって言ってんだよ!」


 ハルバートは逆ギレしながらリーゼルバーグのあとを追いかけた。囚人は走りながら背後から彼らが迫ってきていることを感じとっていた。だが、足を止めるわけにもいかないので、囚人は全速力で走って逃げた。


「あの男は見かけよりも素早い! 早く捕まえなくては逃げられてしまうぞ!」


 リーゼルバーグがそう話すと、ギュータスは後ろでハチェットを片手に狙いを定めた。


「んなことは見ればわかる。めんどくせーから手っ取り早く捕まえてやる。俺はタリーのは嫌いなんだよ。アイツの両足をこの斧で切断してやるから、このまま一気に近づけ!」


「貴様、正気か……!?」


「ウダウダ言ってんじゃねーよ、捕まえれば結果オーライだろ!? テメェらがぐずってるから俺が手伝ってやるって言ってんだ! 俺に二度も言わすな!」


 ギュータスは彼にそう言い返すと、ハチェットを片手に気合いを込めた。




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