第9章―ダモクレスの岬―2
ハルバートは直ぐに雪に覆われている地面を確認した。吹雪が吹き荒れているだけに地面さえも白い雪で覆われていた。この中では人の足跡なんて直ぐに雪でかき消されてしまうがリーゼルバーグが発見した地面には、まだ人の足跡らしき痕跡が残っていた。そして、よくみると近くには人の足跡が点々と続いていた。ハルバートは地面に残っている足跡を確認すると、とっさに呟いた。
「よくみるとまだ新しいな! ひょっとしたら近くにいるかも知れないぞ!?」
彼はそう呟くと辺りを見渡した。
「ああ、そうだ。囚人がこの近くにいると私も確信している。雪にかき消される前に早く足跡を辿るぞ!」
「ああ、そうだなリーゼルバーグ!」
2人はそこで意気投合すると、直ぐに捜索に戻ろうとした。
「ところでリーゼルバーグ、足跡はお前が見つけたのか?」
「いや、私ではない。アヤツが見つけたのだ」
彼はそう話すとギュータスの方に目を向けた。ギュータスは竜から降りると、2人のもとに近寄った。
「お偉いさんが2人もそろって足跡をみつけられないんじゃ、竜騎兵としてどうなのか疑う所だぜ。あんたら目が良い癖に何やってるんだ? 俺も遊びでテメーらについて来たわけじゃないんだよ。俺はアイツをがっかりさせたくない。だから早く囚人を捕まえて、アイツの前に引きずり出して、差し出してやるまでだ。それくらいの手土産がなきゃ、面白くねーだろ? それに俺はアイツの命令なら何だって聞いてやるさ。俺にとってアイツは…――」
ギュータスはそう話すと、口元がニヤリと笑った。ハルバートは顔がムスっとなると一言言い返した。
「足跡をみつけたくらいで偉そうな事をほざくな! 坊っちゃんがお前みたいな奴を相手にするはずがないだろ! つけあがるのも大概にしろ! 俺はお前よりも、坊っちゃんの事は知っているつもりだ。偉そうな事を俺に言う暇があったら早く囚人を捕まえてみせろ! まぁその前にお前よりも先に俺が囚人を捕まえるけどな!」
ハルバートはそう話すと、ギュータスを見下したようにギロッと睨み付けた。2人はそこで一触即発の雰囲気を漂わせた。リーゼルバーグは再び呆れると2人の間に割って入って仲裁した。
「お前達、いい加減にやめないか! こんな事をしている場合ではないだろ! この近くに隠れているのは確実だ! 早くみつけるぞ!」
リーゼルバーグが仲裁すると、2人は険悪なムードを漂わせながら睨み合いをした。その様子を黙って見ていたケイバーは、退屈そうにあくびをしながら呆れた様子を見せた。2人は未だに睨み合いをすると、どっちもひかない様子を見せた。風が強く吹くにつれ、ダモクレスの岬には激しく雪吹が舞った。冷たい冷気と共にピリピリとした緊張感が辺りに漂った。2人は今にも殴り合いをしそうな雰囲気だった。ハルバートはギュータスに向かって言い放った。
「青二才のガキが調子こいてるのも程々にしろ! 俺はお前よりも、生きて掻い潜ってきた修羅場の数が違うんだよ! あんまり俺の事を舐めてるようだったらこっちも容赦はしないぞ!」
ハルバートは持っている斧をギュータスに向けると、喧嘩腰で言い放った。
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