第7章―闇に蠢く者―12

「そしてハラリエル様の予言は現実となりました。ドミニオン様にそのことを告げても、予言は避けられなく、あの悲劇は起きました。ミカエル様はサタンの不意打ちによって門の前で倒れ、サタンは封印から蘇り。悪魔のしもべを我らの天界にさし向いて、天界を大きな混乱に陥れました。そして、貴方様は悪魔との戦いに敗れ。捕らわれた貴方様は天界から連れ去らわれました。もし、あの時にドミニオン様が何かしらの手立てをしていたらこのような結果にはならなかったのです! ドミニオン様は天界を治める長でありながらもなにもしなかった! それどころか……! 私はあの方のお考えがわかりません! ドミニオン様は…――!」


 彼は怒りで震えると抑えていた感情を吐き出した。


「やめるのだ息子よ!」


「ち、父上……!?」


「起きてしまった事を嘆いても何も変わることはない! 失われた時間は元には戻らないのじゃ!」


「し、しかし……!」


「未来を見透かしても時に変えてはいけないこともある。ましてや、例えそれが悲劇に繋がろうとも、変えることはならんのだ! 時の狭間を司るクロノスの神なら、それが許されるであろう。だが、我々は天使だ! 神の意思に背くことは決してならんのだ!! ノルンの三姉妹の手により紡がれた未来と現在と過去は、一つに繋がっている。それを一つでも狂わすのならば、全ての時空と空間と人に影響を及ぼすであろう。もし変えることが出きるのであれば、誰もがクロノスの神に願うだろう。あの時、起こった出来事を変えて欲しいと…――!」


「父上…――」


「ドミニオン様は何も考えてはおらんのだ。きっと、彼なりに考えているのだ。どうか信じてやって欲しい。お前は母に似て、優しい子だ。私がそれを誰よりも知っている。今は堪えるのだ息子よ」


「――カミーユ様。私は負傷したミカエル様を天界にお連れした時、私は貴方様が悪魔に連れ拐われたこれをあとで知りました。私はドミニオン様に捕らわれた貴方様を悪魔からお救い出来ないかと話を持ちかけました。ですが、ドミニオン様は貴方様が悪魔に捕まったことについてこう仰いました。自業自得だと――。父上、本当にそうなのでしょうか……!? 私はそうとは思いません! 悪魔が天界に襲来したあの時、貴方様は誰よりも勇敢に戦ったと聞きました。戦うだけではなく、貴方様は力を持たない弱き天使達を悪魔からお救いになられたとも聞きました……! その勇猛果敢に戦う姿は、まるで赤の豹のように雄々しかったと…――。それなのにドミニオン様は、貴方様が戦いに敗れたことは自業自得と仰ったのです……! そして、捕らわれた貴方様をお救いすることは危険であると助言されたのです! 私はそれが納得できません! 貴方様は誰よりも勇敢に悪魔と戦ったのに、ドミニオン様は切り捨てるおつもりです…――! いいえ、ドミニオン様だけではなく、ガブリエル様も、ラファエル様も、ウリエル様も、アークエンジェル様も、私が貴方様をお救いすることに反対なさったのです! 貴方様をお救いすれば、再び天界に災いが起きると彼らはそう告げたのです! ですが、カミーユ様は私にとってたった一人の大切な父上でございます……! あの方々は貴方様をお救いすることに酷く反対なさいましたが、私は決して諦めません! 誰一人、貴方様をここからお救いに来なくても、私が必ずや貴方様をここから救ってみせます! それが神が私にお与え下さった試練なら私はそれを乗り越えてみせます……!」


 彼はそう話と、力強く前を見た。


「それに……そんなお姿の貴方様を見ていてはほっとけません。ハニエル様も、貴方様の帰還を心から待ち望んでおります」


「おお、ハニエル。私の美しい妻…――」


「そうです、父上。ハニエル様をこれ以上、悲しませてはなりません。母上は、貴方様が悪魔に連れ拐われたあの日からずっと酷く嘆いておられます」


 カマエルは息子の言葉を深刻な表情で受け止めた。

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