第7章―闇に蠢く者―8

「ミカエル様はサタンの手にかけられたが無事なのか?」


 父の質問に彼は、黙ったまま沈黙した。その様子にカマエルは表情を青ざめさせた。


「何故答えぬ! ミカエル様は無事なのかと、聞いておるのだぞ!?」


「――カミーユ様。何故あの剣が、神殺しの剣と呼ばれるのかお分かりですか? 貴方もお分かりのはずです」


「言うではない! お前は間違っている! 間違っているぞ…――!」


 カマエルは直ぐに言い返すと、真実から目を反らして心を閉ざした。


「私はあの日、あの場所に他の天使とミカエル様と一緒に居ました。真実を話せと言ったのは貴方です。お辛いでしょうが、どうか最後までお聞き下さい…!」


 彼はそう言うと鉄格子の前に佇んで父を見つめた。カマエルは息子の言葉に耳を傾けると、身を引き裂かれるような気持ちに襲われながらも話を聞くことにした。それは彼にとっては、余りにも辛い現実だった。


「神殺しの剣はまさしく、我ら天使には天敵とも言える剣です……! クラウ・ソラスがサタンの力によってあのような恐ろしい剣に姿を変えたことにミカエル様は、お倒れになられた時にとてもショックな顔色でした。側で見ていた我々にも、それは直ぐに伝わりました。扉の向こうから放たれた剣はミカエル様の心臓を一瞬で貫き、彼の生命に関わるような致命的な深傷を負わせたのです……! それはまさしく彼の死を告げるような、そんな悪夢のような信じがたい恐ろしい出来事でした。ミカエル様はあの剣で命をおとされたのです…――!」


「なっ、何っ……!?」


 カマエルはその話に驚愕すると、今まで以上の激震に身を震わせた。


「倒れた時には既に息がありませんでした。彼の黄金の瞳には精気はなく、生きてるのか死んでいるのかも分からないような深刻な状況でした……! 一瞬の悲劇に私達が困惑していると、扉の向こう側からはあの忌まわしき者の声が突如、聞こえてきたのです……! それは邪悪で地の底を震わすほどのおぞましい程の悪に満ちた声でした……! サタンは扉の向こう側でミカエル様が剣でお倒れになった様子に、彼は嘲笑うように声を上げて笑っていました。そして、サタンはミカエル様を激しく罵り、怒りと憎しみに燃えた言葉を浴びせたのです……! それはとても恐ろしく、我らは扉の前でサタンの恐ろしさを改めて感じざるを得なかったのです……!」


 ただならぬ信じ固い話にカマエルは深い絶望に打ちのめされて言葉すら出ない様子だった。そして、彼は握った拳を両手で震わせながら父の目の前で話を続けた。それは怒りと恐怖が混ざったような体の奥から沸き上がる震えだった。カマエルと同じように、彼も深い悲しみに打ちのめされていた。


「サタンはミカエル様が罠にかかった事に、とても喜んでいました。まさしく彼は悪魔そのものです……! 彼が遥か昔、我らと同じ同族だったとは信じられないくらいような悪意に満ちていました……! サタンはミカエル様の命を卑怯な手口で奪ったのです! それもあのクラウ・ソラスを使ってです! 誰が自身の剣で命を落とすことを望む者がいますでしょうか、こんなのは屈辱的以外のなにものでもありません! こんなことが決して許されるはずがないのです――!」


 彼は父にそう告げると、自分の中で沸き上がる激しい怒りをグッと堪えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る