第5章―死と恐怖―21
なんという狂気の沙汰だ……!
もはやそこまで正気を失っていたとは……!
あの方を失ってから、クロビス様は随分と変わられた……!
まるで心が無い壊れた人形のようだ……!
あるのは狂気に満ちた冷酷で残忍な心と、正気を失った彼自身だ……!
私にはこの方は救えない…――。
ああエリシア様、彼を救えなかったことをどうかお許し下さい……!
オーチスは思い詰めると椅子の上で悔し涙した。クロビスは狂ったように笑い続けると、途端に気を失った。ギュータスは倒れる彼を咄嗟に、腕で受け止めて呼びかけた。
「おい、クロビス! しっかりしろ!」
名前を呼んで体を揺すっても、彼は返事をしなかった。気を失ったと判断するとギュータスは、気絶したクロビスを両腕に抱き抱えて部屋を出て行った。そして、彼の部屋に運んで行った。
2人がいなくなるとケイバーとジャントゥーユとオーチスとチェスターの4人だけになった。部屋の空気がガラリと変わると、オーチスは怒りを抑えきれずに言い放った。
「お前達がここに来なければ……!」
オーチスは怒りを露にしながらそう言い放った。ケイバーはそう言われると、ヘラヘラした顔で言い返した。
「おいおい、な何だよいきなり。まるで俺達が、悪いって言い方だよな。だったら何か、今さら腰抜け共の看守の時代に戻るか? 俺らがくるまではここの囚人達に舐められてた癖によ。今の方が監獄らしいだろ? 怖い看守にビビってる囚人が本来は理想的なんだよ、ジジイが舐めたこといってんじゃねーぞ!」
ケイバーはそう吐き捨てると、彼が座っている椅子を足でガンと蹴った。
「っ、それでも……! それでも今よりは何倍もマシだ……!」
「何だと?」
「貴様らがここに来てからはクロビス様はさらにおかしくなった! 貴様らと一緒にいる事で心が毒され、狂気はさらに増し、正気に戻るどころか今じゃ悪化の一歩を辿ろうとしているのは、貴様らみたいなイカれた連中と一緒に居るからだ!」
その言葉にケイバーは苛立って舌打ちをした。
「ちっ、何だとクソジジイ……!」
ケイバーは彼の胸ぐらを掴むと、間近で睨んで言い返した。
「大体よう。このタルタロスの牢獄で正気な奴と正気じゃねー奴が、何人いると思ってるんだ? 数えた事があるのかテメー。ハハッ、そうだな。強いて言えば俺達はとっくの昔に、頭がイカれた連中さ。恐怖の四天王と呼ばれるだけにあるだろ、なぁ?」
ケイバーのその言葉にオーチスは言い返した。
「この異常者め……!」
「ハン、それがどうした! 異常者だろうが、何だろうが、俺らはアイツに『飼われてる』時点でテメーらザコよりかは、何倍も偉いんだよっ! ここの囚人達を黙らせてやったのは俺達だぜ! 少しは有り難く感謝しろよな!」
彼はそう話ながらも、瞳の奥に狂気をチラつかせる。
「イカれてるわりには俺達も役に立つんだよ、お前達よりもな!」
ケイバーはそう言って話すとそこで可笑しそうに笑いだした。オーチスはその言葉に黙り込むと、怒りに内震えた。
「そうさ、俺達は見ての通りイカれてる。1人は快楽殺人者にもう1人は猟奇殺人者、そして性的異常者のこの俺だ。リオファーレ。あいつはスカした顔をしているが、あいつだって本当は平気な顔して人をぶった切ってるかもしれねーだろ? 俺はただの性的異常者の快楽殺人者だがな、殺しに関して真のエンターテイメントは、この中でもクロビスだ。奴は俺達よりも頭のネジが相当外れてる。あのイカれ具合は折り紙付きだ。なんなら俺が保証してやってもいいぜ?」
ケイバーはそう言って話すと、手に持っているナイフを器用に回転させながら話した。
「奴は正気のフリして、本当は正気じゃないある意味壊れた人形みたいなものさ。だからあいつが『本気』でキレちまったら手に負えねーかもな。さすが俺らの壊れてるご主人様だけにあるだろ」
彼のその言葉にオーチスは言葉を失うと椅子の上で愕然となった――。
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