第5章―死と恐怖―10
――男達は外で永遠と逃げた囚人の捜索に未だにあたっていた。あまりの寒さに身体さえも段々と冷えきってしまい、うまく動かなくなっていく。そして、手は分厚い手袋をつけても指先の感覚を失ってしまう程の冷たい手になっていた。
吹雪は激しく吹き荒れ、大地を嵐のように白く染めていく。日は無情にも徐々に落ちていった。そんな中を男達は焦りが徐々に募りながらもあちこちを見て回った。あまりの寒さに我慢出来なくなった1人の看守が突如キレだすと、そこで愚痴をこぼし始めた。
「クソッ、ちくしょう! くそったれめ、逃げた囚人は一体どうやって牢屋から逃げたんだ!」
彼は怒りながらそう言うと、舌打ちをせずにはいられなかった。そして立ち止まって休んでいると、他の看守が直ぐに注意をした。
「おいお前、1人で休んでる暇があるならさっさと探せ!」
「うるせー! お前に言われなくても今探してるだろっ!?」
2人はその場で感情を剥き出すと理性を失い、取っ組み合いの大喧嘩を始めた。吹雪の中で看守同士で激しく殴り合いをすると、彼らの殴り合いの喧嘩に他の看守達や上官が騒ぎを聞きつけて、間に入って2人を引き離して喧嘩をやめさせた。
「おい、いい加減にしろ! お前達は今すぐ自分達の持ち場に戻れ!」
現場を仕切っていた上官の男がそう言って2人の間に入って仲裁すると喧嘩を直ぐにやめさせた。すると彼らの下に誰かが慌てて駆け足で来た。
「たっ、大変だ! 大変だぞ! おっ、オーチスの奴が囚人を逃がした『疑い』で拷問部屋であの人達に拷問をかけられている……!」
「なっ、何っ……!? オーチスが拷問をかけられているだって――!?」
彼らはその言葉に驚愕すると、そこで一斉に騒ぎ始めた。
「おい、オーチスってまさかあのオーチスか?」
「そう言えばさっき、あいつの姿が見えないと思っていたが、まさかあいつらに拷問をかけられているなんて嘘だろ……!」
1人の看守はそう言うと残念そうな顔をした。
「ほっ、本当にそれはオーチスだったのか!? お前の見間違えじゃないのか……!?」
別の看守がそう尋ねると、中から慌てて出てきた看守の男が青ざめながら答えた。
「ああ、間違えねぇよ! あれはまさにオーチスだった! あいつらに拷問部屋に連れて行かれる所を俺は偶然この目で見たんだ……!」
「何っ……!?」
「そ、それに中からは恐ろしい程の尋常じゃないくらいのうめき声をアイツは上げていた……!」
彼は真っ青な顔でそう言うと、自分の体を小刻みにガタガタと震わせて怯えた。その言葉を聞いただけでも中で、どんな悲惨な事が行われていたかを誰もが想像できた。
全員は大きな衝撃を受けると、吹雪の中で静寂に溶け込むように黙り込んだ。彼らは何故オーチスがと言う大きな疑問にかられていた。
看守達の中でも、出来れば嘘であって欲しいと願う者もいた。疑問は新たな疑問を呼び、空虚の空の彼方へと消える。本当の真実は今だに闇の中だった――。
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