3,ついてるふたり
寄り合い所から出るなりバン爺は
「……ところで」
「なに?」
マゼンタは寄り合い所のすぐそばにあった露店でリンゴを買っていた。
「目星はついとるのかね?」
「ぜんぜん」
「……じゃろうな」
マゼンタは買ったリンゴをさっそく食べていた。
「むしゃ……じいさんは?」
「お前さんはその子の事をどれだけ知っとる?」
「なんかぁ、すっごい才能のある魔術師って話が広まってるよ? そりゃ、12歳で王宮の試験の最終まで行っちゃうんだからさ」
「……それだけの力を持った魔術師が、どうして親元からいなくなったんじゃろうな?」
「……どういうこと?」
「自分からいなくなったのか、それともさらわれたのか……。」
「そこんとこの情報はまだ来てないね」
「さらわれたという線はなさそうじゃな……。」
「どうしてさ?」
「
マゼンタはリンゴをごくりと飲み込んだ。
「恐らく、逃げ出したんじゃろうな。じゃが、魔術師といっても
「さっすがぁ!」
マゼンタはバン爺の背中をばしばし叩く。
「あたしが見込んだ相棒だけはあるよぉ!」
「ちょ、やめんか、じじいの体をもっと
「じいさん、リンゴいる?」
マゼンタは食べかけのリンゴを差し出した。
「こっちの、あたしがまだかじってないほうかじって良いよ?」
「……いらんわ。だいたい、まだ目星はついとらんぞ。ダンデリオン領の近くにいるっちゅうだけで」
「多分だけど、逃げ出したんなら、アイリス伯の領地から逆の方向だろうね」
「どうしてそう思うんじゃ?」
「家出したもんのシンパシー」
「じゃったら、ダンデリオンを挟んでアイリス領の反対というと……。」
「……このガーベル領じゃん!」
「まぁ、そうなるが……。」
「やったぁ、超ついてるぅ!」
「そんなに都合よくいくかね……。」
「さっそく探すよっ」
「ま、地道に行くしかないがの……。」
さっそく、マゼンタたちは周辺に聞き込みを始めた。しかし、情報はまったくと言っていいほど得られなかった。早々にバン爺は切り株に腰かけて休みを取りはじめる。
「ちょっとぉ、バン爺もっとやる気だしなよぉ」
腰に手を当てマゼンタが相棒に呼びかける。
バン爺は空を見上げていた。
「なにじいさん? お迎えが来たの?」
「……鳥がずいぶん飛んどるな」
「……え?」
マゼンタも空を見上げた。
「……みたいだね?」
「しかも、種類もばらばらじゃ。きっと、魔術師の誰かが使いの鳥を飛ばしとる。空から探した方が圧倒的に効率が良いからの」
「ちょっと、じゃああたしらもそうしようよっ。じいさん魔術師なんでしょ?」
「お前さん何も知らんのじゃな。魔術師には向き不向きっちゅうもんがあるんじゃ。そもそもワシはああいう術を学んどらん」
「シーカーなのにそんな便利な術を覚えなかったの?」
「ワシゃもともとシーカーじゃないんでな。……まぁその話はええじゃろ。ないもんをねだっても仕方ない。できることをやれば良いんじゃよ」
「この場合にできることって?」
「鳥を操っとる奴らが子供を見つけ出すのを待つんじゃ」
「待ってどうすんのさ? 他の奴らの手柄になっちゃうじゃん?」
「お前さんはまずワシの話が終わるのを待て。ええか? 鳥が子供を見つける、その鳥を操っとる奴らが子供を捕まえに行く。だが、試験の最終審査まで行く子供じゃ、そう簡単には捕まらん。そうやって、奴らが手をこまねいとるところを横からかすめ取るんじゃよ」
「……けっこうえげつないことを考えるんだね」
「ほっ、お前さん、良い子ちゃんでこの
「そ、そうじゃないけどさ」
「待てば
「まぁ、爺さんがそう言うなら……。」
待つと言った通り、バン爺は日陰で休み続けたが、マゼンタは落ち着かないらしく、独自に聞き込みをしては、事あるごとに空を見上げていた。
そうして日が暮れるころ、遠くの森の様子が騒がしくなってきた。マゼンタとバン爺は顔を見合わせる。
「いくかの……。」
バン爺は重い腰を上げた。
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