ディパーテッド~最強魔術師は毒親育ち~

鳥海勇嗣

?話

 あたり一面が炎に包まれていた。樹齢じゅれい100年は越えようという木々も、その高温の炎で一瞬にして灰になっていた。

 しかし、そんな業火ごうかの中、平然へいぜんと立ち尽くす姿があった。

 真っ白い肌と青い長髪の大男だった。男は全裸だったが、体中の筋肉は盛り上がり、まるで巨大な石像のようであり、そこに猥雑わいざつさはまったくなかった。

 男の長い髪は業火の風でなびき、肌は色とりどりの光で美しく光っていた。

 恐ろしい美しさだった。誰もがその男を見たら、審判しんぱんのために舞い降りた神の使いと思ったかもしれない。何より、この業火を作り出しているのはその大男だった。

 そんな破壊の化身のような大男の前には、女と老人が立っていた。


「シアンくん!」

 女は男に近づこうとするが、強い炎と風がそうさせてくれない。

「シアンくんいったいどうしちゃったの!? バン爺、村の皆は!?」


 老人は彼らが来た方角に目をやる。

「あそこまでは火の手も煙も上がっておらん、まだ大丈夫じゃろう!」


「わ、分かったっ。……シアンくんっ! いい加減にしなよ! あなた、この国ごとぶっ潰すつもり!?」


 女の言っていることは大げさではなかった。森の木々はなぎ倒され、炎が上がり、遠くの山は形が変わっていた。さらに大空は厚い雲におおわれ、雷鳴が絶え間なくなり続けているのだ。その光景はまさに世界の終わりだった。


「う、う、う……。」

 女の言葉に反応したのか、大男は両手で頭を抱え始めた。


「……シアンくん?」


「う、う、うおおおおおおッ!」

 筋肉を硬直させ、獣のような雄たけびを大男が上げる。そして、瞳が太陽のように輝くと、男の両目から光線が放たれた。


 光線はふたりの隣の山を吹き飛ばした。山はスプーンでプリンをすくったようにえぐれていた。


「ちょ……。」


 ふたりは山を見て呆然ぼうぜんとする。


「マゼンタ……逃げた方がええかもしれん」


「だって……あの子をこのままほっとけないよ! それに、あたし達が逃げたら村がどうなるか……。」


 そう言ったものの、女は自分でもなんともしようがない事が分かっていた。

 百年に一人の天才どころじゃない。これではまるで……。

 禍々まがまがしい名前を、心の中でさえ口にするのを女はひかえた。


「お願いシアンくん! あたしの声が聞こえないの!?」


 その声に気づいたのか、大男の顔が女の方を向いた。


「シアンくん! あたしよ! マゼンタ! 気づいて!」


 大男の瞳が再び強烈な光を放ち始めた。あの光線だ。


「……シアンくん」


 強烈な光を前に、女は目をつぶった。

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