ドラゴン夢旅行

NEO

第1話 旅立ち

「さてと、終わりましたね」

 私は最後の子供が飛び立つ姿を、住処の洞窟から見つめ、思わず笑みを浮かべました。

 たまに見かける人間たちは、私の事をレッドドラゴンと呼びます。

 子供は卵で産んで、人間の時間で大体千五百年くらい経つと卵を産めなくなり、後はゆるゆる過ごすようです。

 しかし、私には夢があります。

 それは、ゆっくりと人間の社会を旅する事です。

 飛ぶ事も可能ですがそれでは面白くないので、人間の間で移動手段として広く使われている車という乗りものを使って旅したいと考え、近隣で普段から私によくしてくれる近くの町の職人という職業の方に頼んだところ、喜んで特製の私専用車を作ってくれる約束をしてくれました。

「約束通り作ってくれたでしょうか。見にいきますか」

 私は一息ついて、慣れ親しんだ洞窟をそっと埋め、翼を羽ばたかせて近くの町に向かいました。


 こんもりした山の麓にある町の入り口に降りると、私は歩いて中に入りました。

 約束した職人さんのお店は広く、町の大半を占めるほどでした。

 そのお店に近寄ると、想像とは違って一般的な車ではなく、なんというか機械の塊という感じの車が鎮座していました。

「おう、きたな!!」

 お店のおじさんが、手を挙げて笑みを浮かべました。

「はい、お世話になっています。これがそうですか?」

 私が問いかけると、おじさんが頷きました。

「そうだ。いや、久々にやり甲斐がある仕事だったぜ!!」

 おじさんが笑いました。

「コイツはスペシャルだ。大型トラックのシャーシくらいじゃもたねぇから、車重と値段を度外視で派手にやったぜ。タイヤじゃダメだからな、履帯にしておいた。あとは、適当にかき集めて、荷台に四連装重機関銃を装備しておいた。ちょうど、中古屋にあってな。対空攻撃とかいいんじゃないか。あくまでも、自衛用にな!!」

 おじさんが笑いました。

「はい、ありがとうございました」

 なんだかよく分からない単語が並びましたが、私はお礼をいって竜鱗を一つむしり取ると、おじさんに手渡ました。

 よく分かりませんが、人間社会では私たちの鱗……竜鱗は高額で取引されているようで、人間のお金が乏しい私にとって、これくらいしか支払うものがありません。

 この町くらいしか行った事はありませんが、そういうものだという知識はありました。「スペシャルな仕事が出来たからな。俺はいいから買い取り屋がきている。そっちに回せ。これから、現金が必要になるだろうからな!!」

 おじさんは笑って、巨大な車の陰にいた女の子が長身の女性と共に出てきました。

「ビスコッティ、これ凄いよ。レッドドラゴンの鱗なんて滅多に手に入らないし……」

 私の鱗を子細に見て、女の子がさらに五枚私の鱗をむしり取り、にんまり笑みを浮かべて、もの凄い……札束といった気がしますが、かなりの大金だと分かるお金を車の荷台にある鍵が掛かる箱に入れると、鱗を嬉しそうに小型の車に積み込み、そのまま町のどこかに運んでいきました。

「よし、さっそく乗ってみろ。なにしろデカいから、試運転も出来なかったからな。まあ、エンジンはかかるぜ!!」

 おじさんが一抱えはある巨大な鍵を持ってきて、ハンドルの下に差しこみました。

「えっと……」

 私はこの車を作ってもらう時に教わった、車の操作方法を思い出して運転席に座り、巨大な鍵を回してみました。

 凄まじい轟音と金属音を立ててエンジンが掛かり、車体が震えました。

 ちなみに、尻尾はちゃんと荷台に投げ出すようになっていて、乗り心地はよかったので満足しました。

「なにせ、既製のエンジンでこんなデカブツを動かせるものがなくてな。俺が設計して一から作った。V12 1700馬力だ!!」

 おじさんが笑いました。

「よく分かりませんが、ありがとうございます」

 私は笑みを浮かべた。

「よし、ちょっと町の周りを回ってこい。不具合があるとまずいからな!!」

 おじさんの声に頷き、私は特大のクラッチペダルを踏んでギアを二速に入れ、これまた特大のアクセルペダルを踏んで、ゆっくり車を発進させました。

 ガタガタと音を立てながら町中を進み、素朴な門から草原地帯に出ると、私はアクセルやブレーキのペダルを踏んで、丁寧に点検をしました。

 ついでに、話に聞いていた新地旋回や超新地旋回も試してみましたが、これはなかなか面白い動きでした。

「そうですね。これなら問題ないでしょう」

 私は楽しい気分になりながら、町中に戻りました。

「よう、どうだったか?」

 おじさんが笑いました。

「はい、気に入りました。これなら、問題なく旅が出来ると思います」

「よし、なら行ってこい!!」

 おじさんの笑顔に見送られ、私は町を後にしました。


 石畳の道をガタガタ進んで行く中、私は屋根も扉もない車で、目新しい気分を味わっていました。

  私はまず王都という、国王様がいらっしゃる街を目指しました。

 その場所はおじさんから聞いているので、あとは道の看板を頼りにして進むだけでした。

「さて、ちゃんとご挨拶しないといけませんね。驚かしてしまうといけないので、おじさんから聞いた……」

 私は身をよじり、荷台の旗立てに白い旗を掲げました。

 これは、戦意はないという意味らしく、私にとっては重要なものでした。

 万一、襲いにきたと勘違いされてしまうと、私も相手も面白くないですからね。

 さて、道を進んで行く途中で、私はなにか気配を感じて車を止め、辺りの草原を見回しました。

 荷台には以前私の洞窟にやってきた、人間のグループと会話をしようと試みた時、慌てて逃げ出してしまった際に、投げ捨てていった剣が一振り置いてあります。

 暇つぶしに麓の町で鑑定してもらったのですが、なんでもドラゴンスレイヤーという世界で一振りしかない珍しい剣で、私のようなドラゴンに対するために打たれたものだと聞いてどうしようかと思ったのですが、そんな危険な剣なら私が持っている方がいいと、こっそり保管していたものです。

「……これがいるかもしれません」

 私は意外と器用です。

 体のサイズと比較すれば小ぶり過ぎるドラゴンスレイヤーを取ると、私は車から降りて注意深く辺りを探りました。

 それは、しばらくして空から舞い降りてきました。

「あっ、グリーンドラゴンさんですね。よりによって……」

 私はため息を吐き、身構えたグリーンドラゴンさんに向けて、ドラゴンスレイヤーを構えました。

 同じドラゴンの仲間ですが、グリーンドラゴンさんとレッドドラゴンは昔から仲が悪く、これは避けようがありません。戦いです。

 私はドラゴンスレイヤーを構え、手早く倒す事にしました。

 人間たちがブレスと呼ぶ吐息は吐けますが、それは最後の切り札としてこの旅をはじめる前から決めていました。

 先にグリーンドラゴンがブレスを吐きましたが、私は呪文を唱えて防御魔法を使い、青白い光りを放つ魔法の盾で吹き散らしました。

 その後、間髪入れずブレスを吐いたあとで隙だらけのグリーンドラゴンの首にドラゴンスレイヤーで斬りかかり、一撃で首を撥ねると私は思わずため息を吐きました。

「……避けようがなかったとはいえ、これは寂しいですね」

 私が剣を車の荷台に戻した時、今度は別の気配を感じました。

 ……これは人間。複数ですね。

 私が辺りを見回すと、多数の車が草原を走ってくるのが見えました。

「これは聞いていますね。盗賊というものでしょう」

 恐らく、先ほどのグリーンドラゴンさんのブレスをみて集まってきたのでしょう。

 車のお店のおじさんから聞きましたが、ろくでなしの馬鹿野郎だから、出遭ったら皆殺しにしてやれといわれていますが、なにもされていないのに私にはできません。

 どうしていいか考えていると、大きな音と共に私の体に衝撃が走り、体が少し揺れましたが、痛みはありませんでした。

「なんでしょう。これが銃というものでしょうか」

 私はさらに困りましたが、取りあえず追い散らす事にして、車の重機関銃に回り、私が撃てるように特別に改造したという、M2四連装機関銃を空に向けて発射しました。

 凄まじい音が響き、これは危険な武器だと認識しましたが、威嚇にはちょうどいいとも思いました。

 しかし、車の大軍は急速に接近してきました。

「……ダメですね」

 私は空に向けていた重機関銃を水平にして車群を狙い、同時に攻撃魔法を放ちました。

 火球が車群の半分を吹き飛ばし、機関銃の銃弾を浴びた残り半分近い車群を吹き飛ばし……僅かに残った車たちが逃げていきました。

「ふぅ……。本当は悪い事はダメだとお説教したいところですが、聞いてもらえる気がしません。さて、このグリーンドラゴンさんを土葬しましょうか」

 私はまたため息を吐きました。


 再び車に乗って進みはじめ、風を感じながら走っていくと、いきなり前方で火球が弾け茂みから人間のグループが飛びでてきました。

 私の勘違いでなければ、そのうち二人はあの買い取り屋さんのようでした。

「あの……どうしました?」

 私が問いかけると、挨拶のように銃や魔法で攻撃してきたので、私は慌てて防御魔法を使いました。

「また、盗賊でしょうか……」

 それにしては様子がおかしいので、私は様子を見る事にしました。

「アハハ。やっぱり、銃とか魔法なんて効かないんだよ。逆に面白いけど!!」

 ひとしきり私に攻撃してきた人間のグループは、そのまま隠してあった車に乗り、どこかに走り去っていきました。

「な、なんだったのでしょうか。人間には、面白い方がいるようですね」

 私は笑みを浮かべ、車を前進させました。


 目指す王都までは、車で六時間ほどと聞いていましたが、私は人間の時間が分かりません。

 ただ、太陽の傾きや星の位置で、大体の時間が分かります。

 それによると、そろそろ夕方という時間で、道の先に高い壁が見えてきました。

「あそこでしょうね。急がないと……」

 私は車の速度を上げ、王都に向かって車を走らせました。

 程なく壁に囲まれた大きな街が見えてきて、壁の門から四台の屋根にピカピカ光るライトを載せた車が出てきました。

「……止まった方がいいですね」

 私は緊張しながら、車を止めました。

 間もなくやってきた四台の車が、私の車を取り囲みました。

 そのうち一台から制服を着た人が二人降りてきて、私の方に近寄ってきました。

「あの、どういった用件で?」

 どこか恐れた様子で、一人が聞いてきました。

「はい、ドラゴンのくせに……と思わないで欲しいのですが、この車で旅をしたいのです。それで、国王様にご挨拶をと思いまして」

 私は笑みを浮かべました。

「そ、そうですか。しかし、この車では壁の門を通れません。少々お待ちを」

 まるで逃げるように車に戻り、さっきの人が見慣れない機械でどこかと話しはじめました。

 しばらくして、さっきの人が戻ってきて、一つ頷きました。

「国王様がお越しになるそうです。少々お待ちを」

「はい、分かりました。お手数お掛けします」

 私は頷きました。

 しばらく経つと、壁の門から黒塗りの車が三台出てきて、私の車の横に止まりました。

 私は車から降りて、大きく頷きました。

「お主か、これは愉快じゃのう」

 一台の黒塗りの車から降りてきた恰幅のいい人が、楽しそうに笑いました。

 恐らく、この人が国王様だと判断して、私は深く礼をしました。

「堅苦しいのは抜きじゃ。おい、あれを持て」

 国王様が指示を出すと、最後尾にいた車から黒い服を着た人が旗を持って降りてきて、白い旗を掲げた旗立てになにか紋章のようなものが刺繍された、立派な旗を結びつけました。

「これで、この国公認の車じゃ。しかし、大きな車だのう」

 国王様は私の車の回りを一周して、大笑いしました。

「しかし、変わった趣味じゃな。飛べるだろうに」

 国王様は笑いました。

「それでは面白くありません。地上を旅したいのです」

 私は笑いました。

「うむ、それもよかろう。わしに挨拶とは律儀だな。気に入った」

 国王様は笑い黒塗りの車に乗り込み、ピカピカ光るライトを載せた車も門の方に戻っていきました。

「さて、これで今日の目標は達成しました。次はどこに行きましょうかね」

 私は今日はここで夜を迎えて休む事にして、道から外れた草地に車を移動したのでした。

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