第2話

 突然のパーティー終了の後、カレンはアリアの手をとり会場の外の庭園まで来ていた。

「よし、ここなら人も居ないしゆっくり話せそうね」

 大丈夫だと思うが一応辺りを見渡し警戒する。パーティー会場付近はまだザワザワしているが、ここは大分会場から離れているため人気もなく、話を聞くのにぴったりだ。

「さてと、一体どういうことなの?さっき好感度がどうとか言っていたけれど」

 昨日2人で話した時は計画通り、婚約破棄イベントをむかえるはずだったのに一体どうしてこうなってしまったのか。ましてや攻略キャラではなく共同戦線を張っていた相手が自ら予定と違う行動を取ったのだ。何か事情があるにせよ、少し恨みがましく見てしまうのは大目に見て欲しい。

「急に行動を変えて困惑させてしまった事は申し訳なく思ってる。でもね、仕方がなかったのよ……」

「仕方がない?」

 そう話すアリアは本当に申し訳なさそうで、怒ろうとした気持ちがだんだんと萎んでいく。

「そうなの。…あのねカレン、この前からずっと黙ってたんだけど、もう婚約破棄イベントなんて本来起こるはずがないのよ」

「ど、どういうこと!?」

 確かに他の攻略対象のルートならカレンの婚約破棄イベントは起きないため、必ずこのイベントがあるという訳では無いが、今回はちゃんとノエルのルートで進んでたはずだ。アリアとも最初から協力して動いてたから他のルートに入ったって事はないはずだが……。

「本来婚約破棄イベントって言うのは、ヒロイン、つまり私への好感度が高くてカレンへの好感度が低い時に起こるでしょう?」

「そうね。だから、破棄されるのだし……」

「だから、もう起きないのよ」

「はい?」

「つまりね…さっきも言ったけれど殿下の好感度をカレンが上げてしまったのよ!」

 思わず思考が止まる。

 パーティー会場で聞いた時も心当たりなさすぎてカレンの聞き間違いか、アリアの勘違いだと思っていたのだが、2回も力説されるとじわじわと現実味をおびてくる。

「いやいやいや、何かの間違いじゃない?」

「私もそう思ったけど『あれ』は完全に好感度が上がっている状態だったわ」

「あれって……」

「いや、ま、まあ、それはともかく!私が見た限りノエル殿下はあなたの事好きよ!」

「そ、そんなはず……」

「あなたちゃんとゲームはやってたのよね?」

「え、ええ。友人に勧められてファンディスクの方だけだけど……」

 作品自体は有名で名前は知っていたが、やった事はなかったカレンに前世の友人がここぞとばかりに勧めてきたのを覚えている。渋っていたら本編は長いからとすぐ終わるファンディスクを渡され興味を持ったら本編をやるつもりだった。まあ、実際は本編をやる前に死んでしまったのだが……。

「ファンディスク?えっ出たの?」

「えっ知らない?」

「ええ……。じゃあ、私が死んだ後に出たのね……」

「た、多分……」

 確か徐々に人気が出た作品のためか、ファンディスクの発売は遅かったはずなので、その間に前世のアリアは死んでしまったのだろう。

「やりたかった……じゃなくて!じゃあ、ノエル殿下のルートはやってないってことね?」

「そうだけれど……。でも、他の乙女ゲームはやったことあるし、攻略は出来なくても好感度を上げない選択肢は選べてるはずよ?」

 それに後日談的なルートがそれぞれあり、そのノエルルートはやっていたので雰囲気は掴めているはずだ。

「カレンよく聞いて。あのゲームはね、選択肢が頭おかしいのよ」

「頭おかしい?」

 乙女ゲームは種類が豊富になった分ありきたりな展開も多く、その点が批判されたりもするが『選択肢が頭おかしい』とはどういうことなのだろうか……。

「だいたい読めてきたわ。今の殿下の状態から見てなんとなく予想はできるけど、何個か聞いてもいい?」

「え、ええ」

 悟ったかのように話すアリアに少し困惑するが、カレンとしても何故こんな状況になっているのか知りたい。

「ノエル殿下にダンス申し込まれたことある?」

「それはもちろんあるわよ。婚約者だし」

 一緒にパーティーに出ることも少なくないし、その中でダンスを踊るのは当然の流れだ。

「違うわよ。婚約者になる前の話」

「なる前?ええ、確か──」

 ──ある、と言いかけて一気に記憶がよみがえる。そう、あれはカレンの黒歴史だ。

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