扉
バブみ道日丿宮組
お題:遠い扉 制限時間:15分
扉
「なかなか触れないね」
「蜃気楼の一種かもしれないよ」
「こんな廃屋の中で?」
「そういうのを見せるウィルスかもしれない」
「なんていうかさ、楽しんでないよね?」
「そう見えるだけで、ウキウキしてるよ。ほら、心臓どくどくでしょ」
「確かにどっくんどっくんいってるね」
「じゃなきゃこうして一緒に廃屋めぐりなんてしてないよ」
「それもそっか」
「今はそれよりも目の前の扉にどうしたら到達できるか考えよう」
「幻惑ということはないよね?」
「二人かかってるなら、ありえるかもしれない」
「ほっぺたつねってみる?」
「それは寝ぼけてるときにだけ有効だよ」
「じゃぁ、薬飲むとか」
「君が医者からもらってる薬は、不安要素をなくしたり、気分を落ち込まないようにさせるものだよ。でも、だからといって幻覚をなくす成分ははいってない」
「もしかしたらってあるかもしれないじゃない?」
「可能性は限りなくゼロに近いけどね」
「先生じゃないのによくわかるね?」
「即効性のやつがあったら、それは違法麻薬と変わらないよ」
「病院で処方されるのがそうだったら、怖いね」
「それはそれとして、それであの扉にどうやって近づこうか」
「この空き缶なげてもいい? 当たったら、存在してることになるよね?」
「いい考えかもしれない。当たらなかったら、違うところいこう」
「うん。あっ、跳ね返ってきた」
「つまりは実物があるってことだね。でも、手は届かない」
「距離はそんななさそうなのに」
「目の前にあるってことは真実だけど、人がさわれないってことはないと思うんだよね」
「そこにあるかもしれないし、そこにないかもしれない。まるでシュレーディンガーの猫」
「それかっこいいね。あまり知らないけど」
「よくあるたとえの文句だよ」
「写真とかどうかな?」
「いいかも」
「んー、写らないなぁ。カメラ越しなら見えてるのに、撮影すると消えちゃう」
「何が残ってるの?」
「木。壁だね」
「そっか……。じゃぁないのかもしれない」
「触れたいのになぁ」
「他の扉で今回は我慢しとこ。そのうち誰かが開け方をネットで公開してくれるかもしれない」
「じゃぁ、このことSNSで発信しとくね」
「よし。帰ろっか」
「うん。帰ろう」
扉 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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