(三)-4

「彼と話をすることがあるんですけど、色々事情があるらしく、プライベートの話などは全く話してくれないんですよ。それがどうも、単純に秘密主義ってわけではなさそうなんです。昔のことを全く覚えていないようなんですよ」

「そうなんですか」

 祖父が出されたお茶に口をつけようとする手を止めて相槌を打った。

「震災のことも聞いたんですけどね、全く知らない、っていうんです。親戚が死んだとかそういう話も尋ねたことがあるんですけど、知らないって。覚えていないとか思い出したくない、というならわかるんです。震災は辛い経験ですからね、今でも。しかし、彼は知らないと言うんです。地震があったことそのものを知らないらしくて……。どこか余所の地域からの流れ者なのかとも思ったんですけど、しゃべりもこちらのなまりがありますし、ミヨさんのお父さんの話も耳に挟んでいましたので、もしかしたらと思いまして……」


(続く)

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