(二)-15

 母が尋ねると、坂田はソファに座るよう手で促してきた。

 美代と母はそれに従い腰をかけた。

「実は三時間近く前にSOS信号を近くの船がキャッチして、こちらに連絡がありました。航行不能になったとのことですが、原因は不明です。その後、すぐに無線を飛ばしましたが、通信が途絶えたままなんです」

「つまりその……、どういうことでしょうか」

 美代にはその説明だけでわかった。恐らく、船は沈没したのだと。しかし、そんなこと、認めたくなかった。だから母はそう言ったのだ。自分が理解したこととは違う別の言葉が、漁協長の口から出てくることを期待して。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る