(二)-8

「誰の?」

「カケル兄ちゃんの。だからすぐに戻るわ」

「ちょっと、カケルって、幼なじみで一個歳上の水橋さんところの翔君? なら、あなたが戻る必要はないでしょう」

「ダメよ! 戻ってこないなんてダメ! 絶対に認めないんだから!」

 美代は大声を出した。その声で喫茶店は一瞬一斉に静まった。そして周囲にいた客たちが美代の方を見ていた。

 忠徳は、そんな周囲の目など気にせずに立ち上がって言った。

「そういうことなら車で送りましょう」

 美代は腕時計を見た。一一時半を示していた。

「いえ、バスで帰ります。今なら正午のバスに乗れると思うので。忠徳さんは仕事に戻って下さい」

 そう言うと美代は鞄をつかみ、急ぎ足で喫茶店を出た。


(続く)

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