第二部 四章「二つ名の奴隷冒険者と賢者の試験場」その⑤



 因みにアイリスが使う必殺の大技は、聖剣スキルと称されるものだ。アイリスがドデカい熊ゴーレムと戦った後に聞いたのだが、本当に唯一無二、たった一人しか獲得できない最強の剣技スキルらしい。しかも普通は召喚勇者たち専用のスキルで、勇者から勇者へと受け継がれる。アイリスの前に持っていたのは俺の父親、つまりは勇者タケヒコだ。

 てか賢者と勇者なにしてんだよ。ちゃんと次の勇者にバトンタッチしろよな。面白がって仲間の戦士魔改造してんじゃないよ。完全にルール無視だろバカヤローが。女神様が怒らずよく見逃してくれたものだ。

 召喚勇者は役目を終えるとすぐに元の世界へ帰るから、聖剣スキルは次の優秀な勇者へと受け継がれる。でもこの世界の者で寿命が長いドワーフが獲得しちゃったから次に渡らない。しかもアイリスは石になって眠りについていたわけだし。まさか百年以上もの間、魔王討伐のための聖剣スキルが勇者の手にないとはな。あの極悪コンビ、バカすぎて怖いっての。

 ただ聖剣スキルは獲得しただけでは意味がない。レベルを上げるだけでなく、一つの技ごとに幾つもの条件をクリアしなくてはならない。

 例えば必要な剣技や魔法、その他の特殊スキルなどだ。故に技を習得するのが難しく、ほとんどの勇者が初級か中級の剣技を二つ三つぐらいしかマスターできない。それでも魔王と戦えるほど強くなるというからその凄まじさが分かる。

 だがアイリスはそんな特別仕様の聖剣スキルを極め、上級の全ての剣技を使える。もう笑うしかない。パーティーとか関係なく今のアイリスは一人で魔王を何人でも倒せると思う。

 しかしアイリスは普段、聖剣スキルを使う時は初級か中級の剣技しか発動させない。何故なら上級の技は、大軍を薙ぎ払い地形すらも変えてしまう危険なもので、ほぼマップ兵器レベルだからだ。

 そんなカオスな上級剣技を父親のタケヒコは一つだけ使えたとのこと。これは凄い勇者だったと認めるしかないな、バカだけども。

 とにかくステイタスの魔改造や聖剣スキルのこともあって、我が家の小さなクリーチャーはほぼ無敵ってことを、ここでのチートバトルを見て改めて思う。

 程なくしてレッドオーガを倒したご褒美が召喚され、アイリスが手に取って持ってきた。

「あるじ様、これは賢者様が作った魔法合金だと思います」

「これも魔法合金か。ピカピカで綺麗だな。それに軽いし」

 金塊のような見た目で2リットルのペットボトル程の長方形の物体だ。

 ゲームとかで出てくるオリハルコンみたいな特殊なものなら凄いんだが鑑定眼では全てが謎だ。レアリティぐらいは知りたいとこだが、天才賢者マリウスのオリジナルの魔法合金ってことなら、希少な物で間違いないだろう。

 この黄金色の金属とランクAの魔石を使って、召喚勇者どもをワクワクさせる武器が作れそうだ。冒険者の金銭感覚は基本バカっぽいから、こりゃお高く売れるでしょ。

「おっ、魔法陣だ。さっきのオーガで終わりじゃないみたいだな」

 ラッキー、まだまだ楽してレアアイテムがゲットできそう。

 で、次の試験の相手はまたもやオーガ型のゴーレムが召喚された。てかオーガ祭りじゃねぇか。他のゴーレム作るの面倒になったんじゃないのマリウスさんは。

 でも今度の奴はレッドより更にレベルが違うと分かる。まさに最終試験って感じだ。

 大きさは3メートル級で、見えている部分の体は光沢のある銀色。鎧はプレートアーマー程ではないが重厚な感じに変わっていて、腕や脚にもパーツがある。更に兜も装備して左手にはアイロン型っぽい4角の盾も持っていた。鎧も兜も盾も白を基調としていて普通にカッコイイ。右手にはレッドオーガと同じノーマルサイズの両刃の剣を装備している。

 あとこれまでのゴーレムと違うのはゴツゴツしていないことだ。鎧であまり体は見えていないけど滑らかな感じになっている。

 このシルバーオーガはフル装備だし攻防のバランスのいい万能タイプだと思う。こういう奴が強くて厄介なんだよな。

「あるじ様、あれは今までの相手とは全く違う物です。できれば上の方の席へお移りください」

「お、おう、分かった。上に避難しておく」

 わざわざアイリスがそんなことを言うとは、巨大熊ゴーレムみたいに派手な戦いになりそうだ。

 まあアイリスはフル装備になってないし、苦戦するようなヤバい相手じゃないだろう……マリウスが作った物だけに油断はできないかも。

 俺たちが観客席の上段に移動している時、既にバトルは始まっていた。シルバーオーガとアイリスはトンでもない速さで剣を繰り出し続け打ち合っている。

 凄まじい金属音が響き続け、近付いたら切り裂かれそうな剣風が巻き起こる。更に衝撃で地面が陥没してひび割れが広がる。

 シルバーオーガは巨躯のくせになんて速さだよ。闘技場内を高速移動しながらまだ打ち合っている。アイリスに全然負けてない。

 もう俺にはどういう攻防か見えてないけど、アイリスが大技の聖剣スキルを使わないのは、使うタイミングとか隙がないからだと思う。

 素人目線で言うなら盾が面倒だ。シルバーオーガはアイリスの攻撃を剣で受け止めるだけでなく、上手く盾でも防いでいる。その防御から攻撃へと転じる流れが完成されており、本当にバランスがよくて隙がない。

 だがその時、アイリスはシルバーオーガの盾を持つ左手を肘の辺りから斬り落とした。

 ただただ凄すぎる。どうやって斬ったのかまったく見えなかったよ。

「んっ? なんだ……」

 斬られた腕はすぐに溶けて泥のようになったが、このゴーレムには超速の再生能力があり、あっという間に腕が生えてきた。

「マジかよ。もう何でもありだな、お互いに」

 アイリスは再生能力の事を知っていたのか驚く様子はない。安定の無表情だ。

 でも再生するのはボディーだけで、鎧の籠手の部分は欠損したままで地面に落ちている。

 冒険者も魔法とかアイテム使って回復するけど、ゴーレムの超速再生は反則だろ。ライフとか魔力が尽きない限り再生を繰り返すって事なら大ダメージを与え続けるしかない。それともマンガやアニメでよくある核となるコアを破壊しないとダメというパターンかもしれない。

 盾を失ったシルバーオーガにアイリスは遠慮なく斬りかかる。もう決着がつきそうだ、と思ったらアイリスの剣をまさかの物が防御した。それはさっきまで地面に落ちていたシルバーオーガの盾だ。

 盾が勝手に宙に浮いたかと思えば、意思があるようにドローンの如く飛んでシルバーオーガの元へ戻ってきた。そして今もまだ宙に浮いており手には持っていない。

「おいおい、なんだよそのチートシールドは。手に持たなくても自在に操れるのかよ」

 そういえば聞いたことはあるけど、そんな魔法の盾があることを忘れていた。

 あの盾、体当たり攻撃や目くらましにも色々と使えそうだ。普通に欲しいけど、倒したらその場に残るから貰えるんだよね。最後まで無事であることを願おう。

 俺が想像した通り、盾は体当たりするようにアイリスに突撃する。アイリスは微動だにせず、いったい何回斬ったのか分からないぐらいの連撃を繰り出し盾の突進を押し返した。

 ちょっと待ってよアイリスさん、その盾破壊しないでね。てかもう表面がズタボロに斬り刻まれてるんですけど。手加減よろしく。

 盾の突撃の間にシルバーオーガは落ちていたレッドオーガの剣を拾い、カッコいい二刀流になった。

 盾プラス剣二本の変則三刀流とか普通だったら勝てる気しねぇ。そんな応用できる知能があるのも驚きだ。

 マリウスのお陰でゴーレム作りにますます興味が出てきた。商売のために勉強しなければ。

 ここからは闘技場内を縦横無尽に動き回り壮絶な打ち合いになる。だがアイリスの方が圧倒的に攻めている。しかも全然疲れた様子がない。

 楽勝ですけど、何か? って感じだ。

「た、たて、盾が……ヤバい」

 アイリスさんもうやめたげてぇ。盾のライフはもうゼロよ、状態なんですけど。

 物凄く抉れてますけどぉ、とか言ってたらアイリスが何やら技を繰り出した。

閃光爆裂斬フラッシュ・バーストり」

 剣が輝いたかと思えば光の塊のような三日月形の斬撃が繰り出され、シルバーオーガの盾に直撃すると閃光が迸り、完全に切り割れたと見えた瞬間、更に爆発を引き起こし盾はバラバラに吹き飛ぶ。

 マジかぁーーっ⁉ やっちまったぁ‼

 聖剣スキルじゃないみたいだけど威力半端ない。あの分厚い魔法の盾がご臨終してしまった。

 しかし魔法の盾がやられる間にシルバーオーガも魔力を瞬間的に上げて仕掛けていた。二本の剣からは炎が噴き出しカッコいいことになっている。

 シルバーオーガは炎の剣をアイリスに向かって振り抜き巨大な炎の塊のような三日月形の斬撃を繰り出す。しかも二刀流だけに二発。

 アイリスは迎え撃たずに高速で回避する。その動きに合わせるようにシルバーオーガは次々に爆発する炎の斬撃を繰り出す。

 躱された無数の斬撃は勢いを失うことなく観客席まで飛んで行って激突して大爆発する。あっという間にコロッセオが破壊されボロボロになっていく。

 まあ魔法の力が発動して、後で元に戻るんだろうからコロッセオの事を心配することはない。そもそも壊してるのはゴーレムだし。

 てか下の観客席に居たら間違いなく爆発に巻き込まれていた。俺は大丈夫でもクリスとスカーレットは死んでたかもしれない。

 とにかく地味な斬り合いから物凄く派手なバトルになってきた。でもこうなると聖剣スキルのあるアイリスが有利に思える。こりゃもう一撃で終わりそう。

 大技の隙をついてアイリスが一気に間合いを詰めた。かと思えばそのまま通り過ぎる。いや、これは見えなかっただけでちゃんと攻撃している。

 シルバーオーガが動いたら、その両腕が既に斬られており地面に剣と一緒に落ちた。更に首まで斬られていたようで、シルバーオーガの顔が地面に落ちて転がった。

 腕と顔はすぐに溶けて泥のようになったが、体はまだ残っている。アイリスはその立っているだけの体に攻撃を仕掛けようと間合いを詰めた。

 だがシルバーオーガの体から凄まじい魔力が放出され、止めを刺そうと近付いたアイリスの動きを止めて、更に風圧のようなもので数メートル後ろへ吹き飛ばした。

 アイリスは空中で体勢を整え上手く着地したが、あのアイリスが耐えられない圧ってなんだよ。あんな状態なのにまだ上の魔力があるのか。

 アイリスを飛ばした風圧と共にシルバーオーガの鎧は全て吹き飛んでおり、素の状態だがあっという間に顔と腕が超速再生する。

「色が変わって、ってパワーアップの王道色、ゴールドきちゃったよ」

 再生中に全身が銀色から光り輝く金色のボディーに変化した。しかもゴリゴリの上半身大きめマッチョ体型からバランスのいい格闘家体型にフォームチェンジしている。

 ゴールドオーガの足元に魔法陣が現れ光の柱が上がる。アイリスは間合いを詰め斬りかかったが、光の柱は魔法バリアの如く剣撃を受けてもビクともしない。

 戦闘経験豊富なアイリスは一撃で無駄だと分かったのか、一旦距離を取った。

 光の柱が消えて新生ゴールドオーガが現れると、その全身には白を基調とした新しい鎧と兜を纏っており、両手には扱いやすいサイズだが刃の部分は大きく長い斧を装備していた。

 今度は斧の二刀流か。って金色になってパワーアップとかベタだけどカッケーっす‼

 いったいどこまでアップするのか怖いっての。伝わってくる魔力が超エグイ。もう魔王レベルの強さだろ。俺が倒したロイ・グリンウェルより遥かに強いぞ。

 ここでアイリスが初めて封印石のペンダントの中から鎧と兜を瞬間移動させて装備した。

 白と金を基調とした手足の部分もある鎧だ。でもフリフリのスカート姿だから鎧を装備しても可愛く見える。盾は出してないからフル装備じゃないけど、まさかアイリスが防御を気にする相手とはな。やはりマリウスは恐ろしい奴だ。

「にゃっ⁉ ご主人様、クリスチーナの後ろにいつの間にかアイリスちゃんの盾が居るのにゃ」

「なに、盾?」

 振り返るといつの間にかそこにアイリスの盾が召喚され宙にフワフワと浮いていた。

 なるほど、アイリスの盾も魔道防具で手に持たなくても思念で操れるんだな。

 どうやら鎧を装備した時に盾も呼び出していたようだ、もしもの時に俺たちを守るように。

 こんなに離れている場所に遠隔召喚して遠隔操作ができるのか。しかも戦いながらとか、本当に装備も使い手も凄い。

 そして始まった頂上決戦的な戦いは、もう実況できるレベルじゃなかった。だってほとんど見えないんだもの。

 当然動きが速すぎてだけど、更に大技による爆発の煙や炎、土煙がコロッセオ内を覆って視界が閉ざされている。

「なんだろな、この光景……」

 驚愕した後は呆れてしまい、思わずそう呟いていた。これはマンガとかアニメで超絶バトルを口を開けてポカンと見ている観客の気分だな。

 次から次に凄まじい音が轟き、一撃ごとに魔法で強化されているだろうコロッセオが破壊されていく。

 もう俺たちのいる場所の反対側は、観客席から外壁まで全部ぶっ飛ばされて崩れ落ちている。普通に外の森が見えてますよ。ただ魔法結界があるので周りの森には被害は出ていない。結界がなかったら火災が起きて大変なことになってたよ。

 こっちにも大きい石とか飛んでくるけど盾が勝手に防御してくれるから動く必要は今のところない。

 けどどうなるんだ、マリウスの作った最強の戦士と最強のゴーレムのこの戦いは。マリウスも最終試験までくる奴がいるとは思ってないだろ。だから調子乗ってこんな鬼畜仕様の強いゴーレム作ったんじゃないの。マジでヘタしたら勇者パーティー全滅するぞ。

 見たところゴールドオーガは地系と火系の技が得意で、二刀流の斧との攻撃と合わせて戦っている。

 地面が盛り上がって槍のように尖り龍の如く縦横無尽に動き襲い掛かったり、爆発する斬撃を飛ばしたり、時にはファイアーボール的な魔法攻撃も繰り出していた。

 アイリスは基本的に全ての系統を剣技と合わせて使いこなせるので攻撃のバリエーションは多彩だ。たまに爆発の煙や炎を突き抜け激しい稲妻が迸るけど、恐らくアイリスの剣技だと思う。電撃系を使えるとか恐ろしい。斬られたら感電するんだよな。ゴーレムじゃなく生物なら一撃でご臨終かも。

 ゴールドオーガが魔改造のアイリスとここまで戦えるのは、あの厄介な超速再生能力があるからだ。ダメージを負ってもすぐに再生してしまう。

 ただそんなチート能力が無限なわけがなく限界はあるはずだ。もう戦いだして十分以上にはなるし何度もダメージを負っている。そろそろ魔力残量が苦しくなっていると思う。

超新星斬スーパー・ノヴァ・スラッシュ

 相変わらずよく見えないけど、微かにアイリスが技の名前を言った気がした。すると次の瞬間には、予想の斜め上を行くトンでもない大爆発が起こった。この時アイリスの盾は俺たち三人の前に来て、光ったかと思えばまさかの巨大化して、爆風や飛んでくるコロッセオの破片から完全防御してくれた。

 なにこの盾、男前なんですけど。大きくなれるとか万能すぎ。

 因みにスカーレットはなんとか気丈に振舞っているが、足はガクガク震えており、クリスの方は猫耳をペタンと下げてイカ耳でビビりまくっている。

 そりゃそうなるわな。だって眼前で繰り広げられてる超絶バトルは魔王VS魔王みたいなものだし。

 ある意味ではマリウス主催のドリームマッチと言える。本人に見せてやりたかったぜ。

聖剣エクスカリバー・憤怒ストライク

 光速なので技が発動した後は見えてないけど、アイリスの剣に重なった大きな光の剣がゴールドオーガへと一直線に伸びており、その剣先は左肩を貫き斬り落とした。

 おいおい、あの光速の突きをダメージ腕一本だけにとどめたのかよ。やはりゴールドオーガは激強クリーチャーだ。しかもすぐに再生するし……と思ったら再生されない。

 これは再生に使える魔力が尽きたってことだな。盾で見えなかったけど大技の大爆発が効いたか。ここは一気にしとめるチャンスだ。

 こういう強い奴は最後に何をするか分からない。自爆とかだって可能性がある。余裕見せないで止めを刺すのが正しいやり方だ。

 その点ではアイリスさんは空気も読まず容赦ないから大丈夫だな。

 だがゴールドオーガはこのまま終わる奴ではなかった。左腕は失ったがシルバーオーガの時に使っていた物と同じサイズの魔法の盾を、どこからか瞬間移動させて呼び出した。

 その盾は左側を防御するようにフワフワと宙に浮いている。腕を失ってもまったく問題ないって感じだ。

 鎧兜と同じで白を基調とした盾で存在感がある。大きくて分厚いし間違いなく超絶硬いはずだ。アイリスでも簡単には破壊できないだろう。

 しかし後から武装を追加できるとは、どこまでも特別仕様のチートゴーレムだ。

 鑑定眼で見ても何も分からないだろうけど、国とかにガーディアンとして売ったら、いったい幾らになるんだろう。低級の魔剣で金貨千枚とかで三千万円だし、ゴールドオーガなら軽く一億超えるかも。だとしたらゴーレムビジネスやらなきゃ損だな。

 とかゴールドオーガに気を取られてたらアイリスの姿を見失っていた。

「ご主人、上です、空にいます」

 匂いですぐに分かったのか、スカーレットが教えてくれたので上空を見上げた。

 アイリスは空に飛び上がっており、既に技が発動して光っている剣を地上のゴールドオーガに向けていた。

聖剣エクスカリバー・断罪ショット

 剣が凄まじい魔力と共に閃光を発すると、巨大な光の剣が現れる。光の剣は激しく輝くと同時にノーマルサイズの光の剣へと無数に分裂して集中豪雨の如くゴールドオーガ目掛けて降り注ぐ。

 ゴールドオーガは思念で盾を操り防御する。その盾に無数の光の剣は一点集中で襲い掛かった。

 熊ゴーレムの時は的が多かったから広範囲で攻撃したけど、狙いを一点に絞ることもできるとは、使い勝手のいい大技だ。

 一瞬で何十発という光の剣の攻撃を受けた盾は、あっという間に破壊され無残に飛び散った。そしてまだ残っている光の剣は容赦なくゴールドオーガへ突撃し、次々に3メートルの巨躯に鎧を貫き突き刺さる。

 スゲー光景。剣が樽にいっぱい刺さった状態の黒ひげみたいになってるじゃん。

 でも倒れない、というか泥のように溶けない。まだ戦えるのかよ。

 ゴールドオーガは最後の力を振り絞るように魔力を高め放出し、全身に刺さった光の剣を消滅させた。

 だがダメージは大きい。再生されず体には剣が刺さった穴が開いたままだ。更に右足の膝が動こうとした時に破壊され片足になって、片膝をついたような体勢になる。

 これはもうまともに戦えないだろ、と思った時には既にアイリスは止めを刺していた。

 いつの間にか上空から急降下しておりゴールドオーガを正面から斬り刻んだ。といっても俺には幾筋もの閃光が見えただけで太刀筋は分からない。

 ゴールドオーガは再生できずにバラバラになって崩れ落ち、すぐに溶けて地面に広がる。

 程なくして金色の泥みたいになったゴーレムは、装備をその場に残し蒸発するように煙を出して消滅した。

 アイリスが剣や鎧兜を封印石のペンダントに収納すると、俺たちの側にいた盾も消えた。

「最後は剣技も使わなかったな……」

 いまブルブルっと震えて鳥肌が立ってしまった。

 ゴールドオーガは本当に強かったけど、アイリスはノーダメージだし、結局は圧勝である。ここで一言いうならば、白目になってあのセリフしかない。

 恐ろしい子‼

 これで試験が終わったんだろうけど、コロッセオは半分以上破壊されている。このまま放置して帰っていいんだよな。

 とりあえず俺たち三人は観客席の上段から、アイリスの居る闘技場に移動した。てか地面も斬撃や爆発のせいで荒れに荒れまくっている。

「あるじ様、この指輪が勝利の対価として召喚されました」

「へぇー、指輪か。特別な物なんだよね、それ」

 水晶っぽい透明な宝石が付いた太めの金の指輪を渡された。

「はい。封印石が付いている指輪で、賢者様が使っていました」

「凄いな。賢者が実際に使っていた物か」

 やったね、ついに封印石を手に入れたぜ。カッコいい装備装着変身できるじゃん。

 フル装備のプレートアーマーならヒーロー変身の気分が味わえますよ。

「この指輪一つでどのぐらいの量のアイテムを収納できるんだろ」

「残念ながらその指輪にはアイテムを一つだけしか収納できません。そして既に特別な物が入っていると思います」

「そ、そうなんだ。たった一つだけか……でもこれ、お高いんでしょ」

「Dランクの封印石と記憶していますので、それほど高い物ではないかと思います」

「Dランク……」

 鑑定眼では封印石ランクDと出ている。指輪の素材は金、販売価格は金貨十枚、買取価格は金貨五枚から八枚、レアリティはレアとなっている。

 思っていたより高くない。金貨十枚なら三十万だし、ちょっとバトル頑張れば店で買えるよ。

 アイリスの説明では、封印石はABCDの4段階ランクで、Dは一番低い。スペシャルで高いのはBからとのこと。

 一番下のランクだから安いんだな。でも賢者の封印石が安物とはガッカリだ。

 出回っている封印石のほとんどがDランクで、何か一つ封印できる。一つだけで不便に思えるが、魔法や生物、モンスターを入れておけるのが特殊なところだ。魔法の道具袋は便利だけど物しか入らないからな。

 Cランクになると、何か特殊なものを封じた状態で更にアイテムを入れたりと、魔法の道具袋のようにも使える。

 AやBランクになると複数のゴーレムや魔獣を封印して召喚魔法の如く使えるし、複数の魔法も封じておけば攻撃にも回復にも使える。

 つまりは操れる膨大な魔力さえあれば冒険者職業に関係なく召喚士や魔道士のように戦える。

 使い手によっては恐ろしいアイテムとなる。でもBランクですら幻のレアアイテムで簡単には手に入らない。あと封印石のランクに大きさは関係なく、とにかく質が重要らしい。

 そういえば砂漠をヨットで移動した時に使われた、風の精霊魔法が封じられた封印石は野球のボールぐらいあった。盗まれる心配とかしてなかったし、あんなに大きくても恐らくはDランクの物なんだろうな。

 因みにアイリスのペンダントに付いている封印石はBランクだ。金があるからといって買えるものではない。流石の最強装備ですな。

 まあDランクだろうとこの賢者の指輪の場合は、大事なのはその中身だよ、中身。

「アイリス、この中に何が入ってるか分かる?」

「恐らく、賢者様が戦いの時に使っていた盾だと思います」

「おぉ、盾か。ゴーレムが装備していた感じの魔法の盾かな?」

「はい、そう思います」

 どうやらマリウスはバトル時には何枚もの魔法の盾を同時に使いこなす盾使いでもあったようだ。

 やるなマリウス。魔法の盾使いとか超カッコいいよ。バトル時に自分の周りを盾が縦横無尽に飛び回って攻撃や防御するとか想像しただけでワクワクする。

「中から出す時は念じるだけでいいんだよな」

 マリウスの指輪を右手の薬指にはめた。

「はい」

 せっかくだし中二なセリフ言ってから出してみよっと。

「シールド展開‼」

 指輪がピカッと光ると次の瞬間にはイメージした通り目の前に、思っていたより大きな魔法の盾が呼び出された。勿論それは宙にフワフワと浮いている。

 縦に長い6角のアイロン型で120センチあり横幅は60センチ程だ。俺の身長が170だから普通にビッグシールドといえる。

 形は定番だけどカラーが赤でカッコいい。フチは青色で前面の赤い部分には黄色でドラゴンの顔に見える模様が入っている。ガンメタ色の裏面には手で持つ部分はない。完全に魔力をエネルギー源に思念で操るタイプだ。

 使い手の魔力が尽きたら枯葉のように地面に落ちて終わりだな。ビッグシールドだけど俺は超人パワーがあるから楽勝で扱えるし、裏に取っ手を付けてほしかった。鍛冶屋に相談して後付けできるならカスタムしてみよう。

 まあ凄く便利な盾で間違いない。ただ魔法の盾は魔道防具なので使っている間は魔力が消費される。のだが、俺は商人でMP数値とかないから魔力の消費量とか速さが分からない。そもそも俺、パワーはあるけど魔力ってどのくらいあるんだろ。そこんとこ謎なんだよな。

 商人スキルの鑑定眼でマリウスの盾を見たが何も分からなかったのでアイリスに聞いてみた。

 説明ではマリウスオリジナルの魔法合金で作られていて、全ての系統の魔法耐性があるらしい。特殊能力はなく防御専用で、マリウスが使っていた盾の中では一番凡庸な物とのこと。

 それを聞いてちょっとガッカリですよ。でも他にもっと凄いのがあるってことだし、そのうち見つけてゲットしてやる。

 ただ防御力は神器レベルでアイリスでも簡単には破壊できないと言っている。これは頼もしい相棒を手に入れたってことでOKとしよう。

 更にアイリスが教えてくれた神器の事だが、この世界には女神エルディアナの力が宿った剣や鎧兜に盾などがあり、それらを神器と呼ぶらしい。

 てか勇者召喚された奴らが女神から貰う物、つまり異世界転生や召喚でよくあるチートギフトだ。

 正規ルートに初めから乗っていない俺にはまったく関係ない。しかし女神の力が宿った神器に匹敵する防具を作り出すとは、どこまでもこまった天才ちゃんだぜ、マリウスさんは。

「やはりあるじ様は、物凄く強い勇者様です」

「えっ、そうかな……なに急に」

「賢者様の盾は、潜在的魔力が途轍もなく強大でなければ、封印石の中から呼び出せません。つまりあるじ様は選ばれし者なのです」

「なんだか大袈裟だけど、まあ嬉しいよ」

「ご主人は最強の勇者、これは当然の結果です」

「ご主人様は天才の中の天才なのにゃ。それに凄く強くて優しいにゃ」

 出たよいつもの褒め殺し。ついつい調子に乗ってしまうんだよな。ほんと我が家の女子は褒め上手だ。

「じゃあその天才がどのぐらい盾を操れるか試してみるかな」

 頭の中で左右に動くイメージをすると、目の前でフワフワと浮いている盾は軽やかに動いた。

「おっ、簡単簡単。命令通りに移動する。じゃあ今度はもっと速く複雑な動きだ」

 バトルをイメージして縦横無尽に盾を飛び回らせてみる。

「ははっ、こいつ凄いぞ」

 本当にうまい人が操縦するドローンのように自在に宙を飛び回る。それに物凄い速さで遠くまで飛んでも行ける。どうやら見えている範囲なら動かせるようだ。

 操作範囲が広いと遠距離の攻撃魔法に対して盾を有効に使える。魔法攻撃を盾で防御しても自分の近くで受けたなら衝撃や炎などでダメージを負うかもしれないし、爆煙で視界が閉ざされる可能性もある。だが盾を魔法に突撃させれば離れた場所で受けられる。

 使い方によっては攻撃もできそうだ。アイロン型だし先の部分を前にして体当たりができる。高速で飛んで直撃したら強いモンスターや魔獣でも一撃で倒せるかも。

「よし、戻れ」

 その場から消えて指輪の封印石の中に戻るイメージをしたら、瞬間移動して収納された。

「この盾、凄く気に入ったよ」

「あるじ様のような素晴らしい勇者様に持ってもらえて、賢者様も喜んでいると思います」

 それはどうだろう。マリウスは自分の装備を渡す気なかったと思うよ。

 だってあの銀から金の鬼強鬼畜モードへ変身するオーガゴーレム、普通なら倒せないからね。

 巨大熊ゴーレムもそうだったけど、最強の戦士のアイリスさんが最強の聖剣スキルを使って倒しているし、チート武装で主人公補正のある召喚勇者パーティーでも危ないはずだ。

「簡単には作れないし入手もできないだろうけど、この盾みたいに自在に操れる剣とか槍もあるんじゃないの」

「はい、あるにはあります」

 キタキタキター、飛び回る武器とか仙人が使うパオペエみたいで超クールだ。

「ただ戦闘で使う者はほとんどいません。なので作られることもありませんので、極端に数は少ないと思います」

「何故に?」

「あるじ様が指摘されたように、まず製造するのが困難だからです。その方法や材料も謎とされ、作り手も名人級でなければなりません」

 ちょっと聞いただけで既に無理ゲー臭が漂ってくるな。

「その理由だけではなく、遠隔操作型の魔道武具と防具はMP消費の速さと量が激しい上に、魔力が強くなければ自在に操れないのです。故に普通の冒険者は手に入れても使いません」

「なるほど、難易度が高くリスクもあるんだな」

 需要がないから作っても売れない、だから作らない、という悲しいパターンだな。せっかく凄い物なのにもったいない。

 でも誰もがチート装備を使えたら色々と問題があってカオスなことになるかもしれない。強い力は人間の心を魅了して、時に悪い方向へと導くからな。だからこれでいいのかも。まあ俺は問題なく使えそうだし、是非とも手に入れたい。

「勇者や魔法剣士、聖騎士、竜騎兵、賢者などはレベルを上げればスキルで武器を操ることができます」

「そうなんだ。流石上級職ってとこだな。って、あれ? クリスはどこ行った?」

「あそこですご主人」

 スカーレットが指差す方を確認したら、クリスが既にゴーレム達の装備を拾い集めていた。

「仕事が早いな。よし、俺たちも行くぞ」

「御意」

「はい」

 全員で破壊されたコロッセオの残骸の中からゴーレム達の武器や防具を探した。

 瓦礫をどけたり土を掘ったりと大変だったけど、商人根性で全部回収してやったぜ。もう大漁大漁ウハウハだ。

「やることやったし、そろそろ家に帰ろうか」

「はいにゃー」

「御意」

「はい」

 と言ってもかなり遠くへ来たし簡単には帰り着かない。まだまだ帰路の旅でも面白いことが色々ありそうだ。

 しかし残念なのは、マリウスのゴーレムは悪しき存在ではないので、あれ程のバトルをしてもレベルアップの経験値が入らないことだ。モンスターならボス戦だし、一気にレベルが上がったんだけどな。

 あと凄く気になることがある。ケイティもそうだけど、結局のところあの賢者の加護とか呼ばれていた熊の置物はなんだったんだろ。俺も一つ持ってるだけに気になる。

 まあ高く売れるならそれでいいんだけどね。とにかく今回もアイテムやら装備がいっぱいゲットできたから最高の旅になった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る