第二部 二章「ダンジョン合宿と謎の石像」その②



「ご主人、これはどういう状況でしょうか」

「恐らくドラゴンが最後の仕掛けだと思うから、通路にある罠が除去されたんじゃないかな」

 超人パワーという反則技を使ったけど、他の石像たちも役割があったんだろうな。例えばドラゴン像を動かすためとかの。

「じゃあ先に進めるのにゃ。きっと宝箱が山積みであるにゃ」

「だといいけどな。とりあえず先頭は俺が歩くからクリスは何も触らず転ばないように、真ん中を歩こうか」

「はいにゃ。お任せなのにゃ」

 クリスは招き猫のようなポーズをして言った。

 飼い猫って自分が可愛い事を知ってて人間が喜ぶようなポーズをするって、動物番組に出ていた飼い主たちが言ってたけど、最近それが分かるようになってきた。

 今のポーズも褒めてほしくて自然と出たんだと思う。てか体操服とブルマ姿だし、可愛すぎるぜ。まあ底抜けのバカだけどな。

 そしてそんな裏心理を読んでいる俺は勿論、褒めませんよ。何も見ていないようにスルーします。

「スカーレット、殿しんがりは頼んだぞ」

「御意」

 先頭の俺は警戒しながら通路へと入り、ゆっくりと先に進んだ。

 通路はダンジョン同様に魔法の力で明かりが点いており、今のところトラップはない。

 クリスを連れているのにトラップが一つも発動しないという事は、無いと判断していいだろう。

 何事もないまま奥へ進むと広い空間に出る。そこは天井も高くサッカーフィールドぐらいあり、床も壁も舗装されておらず、洞窟系ダンジョンに似ていた。

「物凄く広いけど、巨大な岩山の中なのか? まだ地下じゃないよな」

 通路からその空間への合流地点には、また石碑があった。

「この先に試練あり、って書いてあるけど、もう見たら何が起こるか分かりますけどね」

 広い空間に用意された試練に打ち勝てば先に進めるようだな。

「にゃにゃっ⁉ 凄いのにゃ、ゴブリンがいっぱいいるにゃ」

 バトルフィールドとなる空間の奥の方に、クリスが言ったようにゴブリンがいる。だがそれらは石像のゴブリンだ。数は百体ぐらいはある。

 俺たちが石碑の横を通りバトルフィールドに足を踏み入れると、ゴブリンの石像の上に大きな魔法陣が現れた。

 魔法陣が強く輝くと、神秘的に七色に光る雫が召喚され、ぽつぽつと雨が降るようにゴブリンの石像に落ちる。すると石像はゴーレムとかではなく本物のゴブリンに変わった。

「こいつら石化していたのか」

 ゴブリンの身長は100から120センチで、体の色はこげ茶色だから緑の奴らより強いタイプだ。

 牙と爪は大きく鋭いから用心しないといけない。でも戦い慣れてきた今の俺とスカーレットなら簡単に倒せる相手だ。

 さっきオーク型のゴーレムを倒して手に入れた、柄の長い両手持ちの斧をウエストポーチの魔法空間から取り出す。ちょっとサイズが大きいけど超人パワーがあるので難なく使いこなせる。

「クリスはいつも通り下がってろ」

「はいにゃ。全力で逃げるのにゃ」

 相変わらずバトルの時は潔い引きっぷりだ。てか気を引き締めなくちゃいけないのに、吹き出しそうになったじゃねぇかよ。

「スカーレット、一気に片付けるぞ」

「御意」

 俺は一直線に突っ込んでいき、リーチがあって刃が巨大な斧を横薙ぎに振り抜き、前衛に居た三匹のゴブリンを一撃で倒した。

 斧の頑丈さと威力は中々のものだ。武器として出来が良い。本当に売買価格が幾らになるか楽しみだ。

 切り裂かれ完全にライフがゼロになったゴブリンの体は、透明になっていき消滅した。

 煙も出さず原料も残さない、こいつらは魔造ではなく世界の歪み、負のエネルギーが生み出す野生だったようだ。

 この後はバーサーカー状態でやる気満々のゴブリン達が次々に襲い掛かってくる。

 広いフィールドを活かし動き回りながら、力任せに長い斧を振り回しゴブリンを近付けさせず撃破していく。

 スカーレットはスピードをいかして俊敏に動き、ゴブリン達を撹乱しながら次々に倒す。

 思った以上に楽勝で、あっという間に百匹ぐらいいたゴブリンの群れを全滅させた。しかし原料がゲットできないのは寂しいし懐事情的に痛い。まあ少ないとはいえ経験値は入るから良しとするけどな。

 その場にいたゴブリンが全て居なくなると仕掛けが発動し、フィールド奥の地面が動き下の階への階段が現れる。

 色々とテンプレなので分かりやすくていいけど、この階に居たのがオーク型ゴーレムより弱いゴブリンだったのが気になる。

 製作側から見たら、まずは小手調べって感じなのかもしれない。進んでいくと同じバトルフィールドがあって、少しずつ敵が強くなっていくんじゃないの。

「ご主人、罠の可能性もありますが、このまま行きますか?」

「そうだなぁ、もうここまで来たら乗せられて、流れのままでいいかな」

「ではバカ猫を先に行かせましょう。罠があれば全て発動させて餌食になるはず。そうすれば後から行く者は安全です」

「じゃあそうしようか」

「にゃっ⁉ そんなことしたら死んじゃうのにゃ。実はクリスチーナは凄く弱いのにゃ」

「知ってますけどっ‼ てかそれを知らない奴がここに居るかね‼」

「にゃん?」

 クリスはまた可愛くポーズをとってとぼけた顔をした。

「にゃん、じゃねぇよ」

 また猫の可愛さ前面に出して誤魔化す気だな。この可愛いだけの天然星人は侮れないぜ。

「たまにはご主人の役に立て。ほら、さっさと行って豪快に死んでこい」

「スカーレットちゃん酷いのにゃ。猫もごく稀に役に立つのにゃ」

 自分で稀にとか言っちゃったよ。まあ自覚はあるのね。

「いまご主人の役に立てと言っている」

「まあまあスカーレットさん、その辺りで許してあげてよ。たぶん罠はないと思うし」

「はい。ご主人がそうおっしゃるなら」

 結局は俺が先頭で長い階段を下りた。

 下のフロアは上と同じような大きさのバトルフィールドで、奥の方に身長二メートル程で筋骨隆々なトロールの石像が三体ある。

 フィールドに足を踏み入れると石像の上に魔法陣が現れ、また七色の雫が召喚されて石化が解け、本物のトロールになった。

 体の色はノーマルの緑だが、気配と魔力の大きさが今までのトロールと違う。ハイトロールと同じぐらいの強さだと思う。

 まあその程度なら敵じゃないし、ここも楽勝で突破できる。

 後はトロールが持っている武器だけど、いつものハンマーじゃなく、巨大な金属バット型の黒い金棒だ。こりゃ凄く重くて破壊力がありそう。

「スカーレット、お前は接近して二匹を引き付けてくれ。俺はその隙に各個撃破していく。パワーあるから気を付けろよ」

「御意」

 スカーレットは疾風の如く移動してトロールとの間合いを詰めて、軽く斬りかかってはすぐに下がって二匹を上手く引き付ける。

 俺は一対一になったトロールを、容赦なく斧の一撃で倒した。相変わらずどのトロールも攻撃パターンが同じなんだよな。大きく上段に武器を振り上げるから隙だらけだ。簡単に倒せる。だけど勇気が必要でもある。

 何故なら懐に飛び込まないといけないからだ。初心者冒険者なら恐怖を感じるだろうから難しいと思う。ただ攻撃魔法や弓なら別だけどね。

 トロールは魔造だったようで、煙を出して消滅する。その場には武器の金棒と原料の銅の塊みたいなものが落ちていた。そして残りの二匹も同じやり方で各個撃破する。

 フィールドからトロールが居なくなると仕掛けが発動し、また下への階段が現れた。

「今のところ楽勝だけど、そろそろ相手も強くなるだろうし、二人とも用心するように」

「御意」

「はいにゃ。お任せなのにゃ」

 この時、クリスは既に原料を拾い集めていた。どうやら三つとも銅の塊のようだ。

 金棒は重くてクリスは持てないから、俺が拾って自分のウエストポーチの魔法空間に入れた。

 因みに金棒を商人スキルの鑑定眼で確認するとこうなる。


 【素材・鉄】

 【販売価格・???】

 【買取価格・中銅貨一枚〜二枚】

 《魔力・特殊能力なし・ノーマルタイプ》


 中銅貨は千円ぐらいだから売っても安い。まあ拾った物だし、冒険者の武器としては重すぎて使い道もない。何よりハンマーと同じで数が出回っていると考えられる。

 それにしても、この世界では魔法で色々できるからか、鉄の価値が思ってたより低い。てかそもそも向こうの世界の金属の価値なんて詳しく知らないや。もしかしたら、これでも高いのかもな。

 ただ裏技として、素材そのままなら低価格でも、何かしらの売れ筋商品にすれば、より高く売ることができる。それに今の鑑定が絶対とは限らない。商人レベルが上がればスキルの鑑定眼の精度が上がり、鑑定内容が大きく変化する場合もある。

「次の相手は流れ的に、リザードマンかワーウルフだろうな」

 俺は階段を下り始めながら言った。

「凄いのにゃ、ご主人様はなんでも分かるのにゃ」

「ただ一階にあった石像が、弱い順に出てくると思っただけだよ」

「きっとご主人の考え通りだと思います。なので次はリザードマンかと」

「そっか、ワーウルフの方が強いんだな」

 初対決になるし、戦い方を知らないから油断は禁物だ。

 次の試練の場であるバトルフィールドに辿り着くと、そこにはリザードマンとワーウルフの石像が一体ずつあった。

 さっそく魔法陣が現れ、石化を解く七色の雫が召喚され二つの石像は元の姿へと戻った。

 リザードマンは身長二メートルで二足歩行の人型のトカゲという感じでお尻には太くて長い尻尾がある。

 体は濃い緑で頑丈そうな鱗の肌をしている。更に軽装備の鎧と兜を装備して三又の槍を持っていた。ぱっと見、牙もあるし接近した時には噛みつきと尻尾攻撃に警戒が必要だ。

 ワーウルフも身長は二メートルで、二足歩行の人型の狼という感じ。

 全身の毛は長めで色はシルバーとホワイトのツートンカラー、体は毛の上からでも分かるほどのマッチョで、パワーもスピードもありそう。

 足は膝から下が獣系で、イメージ通りの完璧な獣人型モンスターだ。武器は持っていないが、とにかく大きく鋭い牙と爪に要注意である。

 石化が解かれた二匹は、目が赤く光っておりバーサーカー状態で、すぐに襲い掛かってくる。

「スカーレット、引き付けるだけで十分だから無理はするなよ」

「御意」

 スカーレットのレベルは20以上だけど、盗賊はバトルに特化した冒険者職じゃないから、どっちが相手でも簡単には倒せないはずだ。

 できれば一撃でどちらかを倒せたら、スカーレットに負担がかからないからいいんだけどな。

 ただ俺的には、この二匹もそれほど強さは感じない。といっても、全身から放出されている魔力の強さは間違いなく上級のモンスターだ。

 謎の超人パワーがチートすぎて感覚がマヒしている。ワーウルフなんか牙を剥き出しガルガル唸っててスゲー怖そうなのに恐怖を感じてないもん。

 俺の方に来たのはリザードマンで、槍の間合いに達した瞬間に攻撃してくる。素人では捌けないのは分かっているので、素早く下がり間合いを開ける。

 こっちもリーチのある武器を持っているし、隙があれば一撃で倒せるはずだ。まあその隙を作り出すのが難しいのだが、ふと過去の戦いを思い出した。

 まだ全然バトルに慣れていない時に、強めにダガーナイフを振り抜いただけで斬撃のような衝撃波が出たことがあった。あれって今でも出せるはずだ。ダメージを与えられなくても衝撃で隙は作れる。

 その時、距離を取って横に回り込もうとした俺にリザードマンは火炎放射の如く凄まじい炎を吐いて攻撃してきた。

 だが俺は回避せずお構いなしに、衝撃波を飛ばすために斧を大きく振りかぶり、炎にカウンターを合わせるようにそのまま振り抜く。

 斧からは想像を超える衝撃波が放たれ、凄まじい勢いで炎を蹴散らしリザードマンに直撃し、数メートル吹き飛ばした。

 どうやら力の入れ方だけでなく、強く意識する、というかイメージすれば自在に出せるようだ。ただ、はっきり言って魔力とかがどの程度技に関係しているかはよく分からない。

 しかしこの間よりスゲー威力になってる。こりゃ使える立派な技だぜ。やっぱ魔力も一緒に放出されてるのかも。あと武器が大きいのもあるけど、この威力は俺自身が短期間で強くなってるからとも考えられる。

「一気に終わらせてやる」

 この隙に猛ダッシュして間合いを詰め、立ち上がろうとしていたリザードマンを一撃で斬り倒した。

 リザードマンは魔造モンスターだったようで煙を出して消滅する。

 その場には三又の槍と鎧と兜、それに原料のなんだか分からない小さな石が落ちている。

 宝石か? それならテンション上がるけど、今は鑑定眼で見ている暇はない。

 スカーレットとワーウルフの方を確認すると、まだどちらもダメージは負っていないが、明らかにスカーレットが劣勢だ。

 スピードは負けてないが、体格差もありパワーが違い過ぎる。でもここまで凌いでいるのは流石といえる。我が家の犬は本当に頼りになるぜ。

「スカーレット、下がれ‼」

 そう言ったらスカーレットは透かさずワーウルフと距離を取る。

 その動きに合わせるように、俺はリザードマンの三又の槍をワーウルフに投げつけた。

 刺さればラッキーって思ってたけど、簡単にステップして躱される。だがこの隙に間合いを詰めて二人の間に割って入る。

「スカーレット、ここからは俺がやる、休んでていいぞ」

「役に立つことができず、申し訳ありません」

「いやいや、これ以上ないぐらい役に立ってるぞ」

 今は戦闘中なので眼前のワーウルフから視線を逸らせないが、後ろのスカーレットがブンブン尻尾を振って喜んでいるのはなんとなく分かった。

 それからスカーレットは邪魔にならないようにクリスが居る場所まで後退した。

「じゃあこっからは俺が相手だ。お前がどのぐらい強いか、見せてもらおうか」

 このワーウルフ、すぐに襲い掛かってこないし、凄く慎重な奴だ。超人パワーの恐ろしさが感覚的に分かってて、攻めあぐねているのかも。

「来ないなら、こっちから行くぜ」

 横薙ぎに斧を振り、斬撃の如く衝撃波を飛ばした。

 ワーウルフはジャンプして躱すが、それは計画通りの動きだ。宙に居て動きが取れないワーウルフに、連続して衝撃波を繰り出す。

 やはりイメージが大切だ。はっきり強くイメージすることで思った通りの衝撃波が出る。てかどれか当たるだろ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法だ。

 運よく一撃目が直撃し、ワーウルフは後方に吹き飛ぶ。だが空中で体勢を立て直し上手く着地するとすぐに突撃してくる。

 俺もダッシュして間合いを詰め、先に斧を斜め上から振り抜く。しかし簡単に躱され、斧は勢いのまま地面に激突し、大きく長く深い地割れを作り出した。

 近付けさせないように連続して斧を振り回すが、ワーウルフは攻撃を躱しながら稲妻の如くジグザグに動き、あっという間に後ろへと回り込む。だがそれもテンプレの戦い方で予想通りだ。

 強くてスピードに自信がある奴って、すぐに後ろに回り込むんだよな。だから速い動きに対応できなくても、オタク知識の先読みで、ビビッて硬くならなければそこそこ上手く戦える。

 長い柄の先を片手で持って上半身をひねり、後ろにいるワーウルフ目掛けて斧を横薙ぎに振り抜く。

 ワーウルフはジャンプして回避したが逃げ遅れ、斧は左足を膝の辺りから切り落とした。

「惜しい、足だけか。でもこれで今までみたいに速く動けないだろ」

 切断された足は煙を出して消滅したので、こいつも魔造モンスターだ。なので切り口からは血とかは出ていない。

 ワーウルフは前のめりになり両手を地面について三足歩行に構えた。

「まだまだやる気は十分のようだな」

 全身の毛を逆立て一気に魔力を上げたワーウルフは、俺に向かって口を大きく開き、凄まじいブリザードを吐き出す。

 視界を奪うこともできるが、レベルの低い冒険者が直撃を食らったら一瞬で凍り付きそうだ。

「残念だけど、そういう技は格下にしか通じないんだよ」

 斧を振り抜き衝撃波を飛ばし、ブリザードを消滅させてワーウルフを後方へ吹き飛ばす。

 ここで猛ダッシュして間合いを詰め斬りかかる。だがワーウルフは軽やかに跳ねるような動きで回避した。

「足が一本無くても、けっこう動き回れるんだな。でもこれならどうだ」

 衝撃波を飛ばすと同時に斧を振り切って地面に叩きつけ、地割れを作り出す。

 ワーウルフは衝撃波を簡単に躱すが、俺は連続して同じ攻撃を繰り返し大きく長くて深い地割れをそこら中に作り出し、足場を奪っていく。

「もらったぁ‼」

 横薙ぎに繰り出した衝撃波をワーウルフは斜め上にジャンプして回避したが、そこから着地できる足場は一つしかない。全ては計画通り。

 先にその場にダッシュして、宙にいるワーウルフ目掛け斧を振り抜き、胴体を真っ二つに斬って倒す事に成功した。

 ワーウルフは煙を出し消滅し、その場に原料の小さな石を残す。

 しかしまたノーダメージで勝ってしまったが、こいつら本当は強いんだろうな。試練という仕事をまっとうさせてあげられなくて申し訳ないぜ。

 そしてフィールドにモンスターが居なくなると仕掛けが発動し、下への階段が現れる。

「ご主人、お疲れ様でした。これはご主人がお持ちになりますか?」

 スカーレットは地面に刺さっていたリザードマンの三又の槍を持って近付いてきた。

「そうだな、武器として使えそうだし俺の鞄に入れておくよ」

 収納する前に鑑定眼で値段を見る。そしたら買取価格が金貨五枚だった。

 金貨一枚が三万円の価値観だから十五万円かよ、こりゃ思いのほかいい物だ。自分の店で売る時は更に高く値を付けれる。ホンとこういうのありがたい。

「ご主人様、石を拾ってきたのにゃ。これはたぶんオパールにゃ」

「へぇ〜、あいつらの原料はオパールか。色彩が複雑な感じで凄いけど、けっこう小さいな」

 青を基調とした石に緑やその他の色がいっぱい入っているが、指先程度の大きさしかない。

 ペンダントにしたら丁度いい大きさだけど、鑑定眼では、リザードマンの方は買取価格が金貨二枚で少し大きいワーウルフの方は金貨三枚だ。

 基本的に買取価格は足元を見られて低いのが常識で、売値は倍かそれ以上とかが当たり前だよな。

 てかこの間、父さんに頼んで古いゲーム売りに行ってもらったら、買取五十円とか言われて、結局売るの止めたもん。

 自販機でジュースすら買えないっての。でも店で売ってるのネットで見たら千円以上とかになってるし、ホンと商売は鬼畜だぜ。

 なので値段は店側の自由だから、このオパールを装飾品にして売れば凄く儲けが大きい。勿論、売れればの話だけど。

 まあ売れ残っても、俺の場合はタダで手に入れた物だし、それほど痛くはない。

「確かオパールは、大きなものや種類によっては高い値が付くはずです。特に化石と一体化したものはトンでもない値段になると思います」

「なるほど。色々とあるんだな。もっと原料について勉強しないとな」

「はい。私もご主人のお役に立てるように、もっと勉強します」 

「クリスチーナも勉強いっぱいするのにゃ」

「無駄だから止めておけ。何故ならお前はバカだからだ」

「にゃっ⁉ スカーレットちゃん酷いのにゃ」

「酷くない。無駄なものは無駄だ。その事実は覆せない」

「だろうな」

「にゃにゃっ⁉ ご主人様まで。クリスチーナはすぐに忘れちゃうけど勉強するのにゃ」

「忘れるのかよっ‼ やっぱ全然ダメじゃん」

「にゃん?」

 デジャブーーーーーーっ‼ またこれだよ。

「にゃん、じゃねぇよ」

 同じツッコミ入れるのも疲れるっての。

「ご主人、バカ猫は放っておいて行きましょう。それとも連戦になりましたから、少し休みますか?」

「体はまだ疲れてないし、このまま進もう」

「御意」

「はいにゃー」

 でも精神的には疲れてるけどな。あと腹も減ってきたし、最後のドラゴン倒したぐらいに飯の時間にしよう。

「気分転換に武器でも変えるか」

 階段を下りながら斧をポーチの魔法空間に入れて、先程ゲットしたデカいバット型の黒い金棒を取り出した。

 鉄の塊だから本当は凄く重いはずだけど、俺的には普通に軽い金属バット程度にしか感じない。だから楽々振り回せるし、片手でフルスイングできる。

 次のバトルフィールドには一体の石像があり、予想通りオーガだった。

 同じ手順で石化が解けて、三メートルはあるドデカいオーガが雄叫びを上げて動き出す。

 二メートル級の奴らでもデカく感じるのに、三メートルの迫力は半端ないぜ。オーガが発する魔力も凄まじいし、自分が普通の冒険者なら恐怖でブルってるところだ。恐らくパーティーで戦う相手だろうな。

 でも魔人族のイスカンダルと魔力の大きさを比べたら、それほど脅威には感じない。やはりイスカンダルはおバカなだけで、本当に強いんだなと改めて思う。

 オーガは人型で、髪の毛のない頭部に大きな角が二本あり、体は赤くてゴリゴリのマッチョだ。黒いスパッツみたいなのを穿いていて、全身には軽装備の黒い鎧を纏い右手には片刃の大剣を持っている。他の奴らと同じで瞳は赤く光っていてバーサーカー状態だ。

 日本人の俺的に、ぱっと見は鬼って感じで、表情は般若とか明王みたいに超怖い。ただ怪物というより魔人族に近い。

「一対一でやる、二人とも下がってろよ」

「御意」

「はいにゃ」

 こいつとはどう戦おうか。正直なところ連続のバトルで相手するの面倒になってきた。

 試練にならないけど、ちょっとだけマジの超人パワーを使って、さっさと終わらせよう。メインディッシュのドラゴンが残っているしな。

 先制したのはオーガの方で、一直線に向かってくると大剣を大きく振りかぶり、斬るというより叩きつける感じで繰り出す。

 俺はその場で踏ん張って、頭上から迫ってくる大剣をバット型の金棒で受け止める。

 甲高い金属音が轟き、凄まじい衝撃で足元の地面が陥没する。本当に凄いパワーだけど、当然のようにノーダメージだ。

 舐めているのかそういう戦い方なのか分からないが、オーガの動作は大きくて速くないので、素人でもなんとかついていける。

「次はこっちの番だ」

 身長170センチの体には大きすぎる金棒を片手持ちで振って殴りかかった。

 オーガはその一撃を剣を横にして受け止める。だが超人パワーに押され数メートルほど足で地面を削りながら後退した。

「やるな、けっこう力入れて殴ったのに耐えるかよ」

 このオーガはパワー系だな。それに重くて硬い金棒で叩かれたのに、へし折れないとは凄くいい大剣だ。

 いま剣を持ってないから、それ欲しくなったぜ。破壊しないように気を付けよう。と思ったが、手加減して簡単に勝てるほど弱い相手じゃなかった。

 そこから何度か大剣と金棒を打ち合ったが、どっちも剣技とかないパワー系だから、このままじゃ勝負がつかない。とはいえ剣を破壊していいなら恐らく今まで通り一撃で終わる。

 一旦間合いを取り一呼吸入れたその時、オーガは一気に魔力を上げ全身より放出した。更に大剣の刃からも魔力が放出されている。俺がレオンの魔剣を使った時と同じような感じだ。

 ただ魔剣ほどは強い魔力や怖さは感じない。でも何か技を出そうとしている。

「っていうか剣技とかあるのかよ⁉」

 直感的に受けに回るのはヤバいと思い、オーガが魔力を纏わせた大剣を振りかぶった時に攻撃を仕掛ける。

 こういうデカくてパワーのある奴は、足元が隙だらけっていうのがテンプレなのさ。

 一歩踏み込んでオーガの足首辺りに金棒を振り抜き、柔道の足払いが決まったように豪快に倒れさせた。

 ごめんな空気読まずに。てか必殺技とか絶対に出させないし。そういうの食らうといつも服がボロボロにやられるからな。

 オーガはすぐに立ち上がろうとしたが、丁度いい高さに顔があったので金棒をフルスイングしてぶっ飛ばす。

 直撃を受けたオーガは流石にライフがゼロになり、爆発するように煙を出し消滅した。

 意外と簡単に勝ててしまった。同じパワー系だしバトルスタイルの相性の問題かもな。いや、そもそも思ってるほど強くなかったのかも。

 そしてオーガが居なくなったので、フィールドの仕掛けが発動し、下への階段が現れる。

「ご主人様、金貨四枚、落ちてたのにゃ」

「やったね、金貨か」

 そのまま使えるから貨幣の方がありがたい。

 で、次に気になるのが、消滅せずに残っているオーガの片刃の大剣と黒い軽装備の鎧だ。

 まず鎧の方は、素材はただの鋼で販売や買取価格は不明だった。まあ三メートルの巨躯サイズの鎧なんて冒険者に需要ないからね。でも鋼は色々な武器に作り替えられるからお得な拾い物だ。

 大きすぎて普通の人間は使えないが、俺なら武器として使える大剣の方は鑑定眼で見るとこうなる。


 【素材・魔法合金・鋼+???】

 【販売価格・???】

 【買取価格・金貨十枚〜十五枚】

 《魔力レベル1》

 《特殊能力なし・アンコモンタイプ》


 マジかよ、売ったら最低でも三十万円とか嬉しすぎる。

 それにしても素材が魔法合金って凄いじゃん。確か合金を作る時に、魔力のある素材やアイテムを魔法の力で融合させるんだよな。魔法合金っていう言葉だけでワクワクするぜ。

 あとレアリティ設定されてて、アンコモンとか表示されるのもテンション爆上がりだ。オタク心をくすぐってくれますな、製作者様。

「この大剣をドラゴン戦で使ってみるか」

 階段を下りる前に金棒をウエストポーチの魔法空間に入れて、オーガの片刃の大剣に持ち替えた。

「ははっ、やっぱこれデケーな」

 三メートルの奴が使ってた大剣だから、冒険者の普通の大剣とはサイズ感が違う。ホンと俺じゃなかったら重くて使えないはずだ。

「大剣装備のご主人様カッコいいのにゃ」

「やっぱそうかな、分かってるねクリス君」

「ご主人、私もカッコいいと思います」

「そうかそうかカッコいいか。よし、この大剣、魔剣みたいに使えるか試してみよう」

 魔剣を使う時のように、刃から魔力を炎のように放出するイメージをした。

 魔力が少しある大剣はイメージにシンクロし、刃から白っぽい炎のような魔力を少しだけ放出した。

 レオンの魔剣と比べると、笑えるほど小さい魔力しか出ない。やはり値段の差は伊達じゃないってことか。

 いや値段じゃなく性質の差かも。レオンの魔剣は強さを魔力に変換するけど、この剣は純粋に使い手の魔力を放出するのかもしれない。だとすると商人の俺は魔力とかほとんどないし、ショボいのも理解できる。

 俺はフィールドの壁に向かって三日月形の斬撃をイメージして、魔力を纏わせた大剣を軽く振り抜く。

 その瞬間、風を切り裂く凄まじい音がして、魔力の塊というより衝撃波が魔力を纏った、という感じの魔剣と比べるとショボい斬撃が出る。

 でも出たことは出た。これまでの衝撃波よりこっちの方が威力があるはずだ、一応は斬撃だし。

 とか考えながら斬撃を見ていたら、壁に激突した瞬間、予想を超えるそこそこの爆発をする。

「おぉ、スゲーな、これ使えるぞ」

 っていうか切れるんじゃなく、やっぱ魔力が入ると爆発するのね。

 魔力を纏わせずに振れば衝撃波で、魔力が加わると爆裂系の魔法みたいになる。使い分けできて便利だ。

 なんだかもう見た目が違うだけでファイアーボール気分だな。剣技というか技として成立しているだろ。いいもの拾ったぜ。物凄くパワーアップした感覚。ただやはりバカデカすぎて邪魔だし、ちゃんと握れないから扱いづらさはある。

「流石でございます、ご主人」

「ご主人様は凄いのにゃ。また強くなったにゃ。天才なのにゃ」

「ほう、天才とな」

「はいにゃ。ご主人様は天才なのにゃ」

「この褒め上手が、ちょっとこっちに来なさい」

 そう言ったらクリスは頭をナデナデしてもらうため、少しかがんだ。

「あざといんだよバカ猫‼」

 スカーレットが透かさずカットインして、クリスの頭を殴ってツッコミを入れた。

「ふにゃあっ⁉ 酷いのにゃ、スカーレットちゃん酷いのにゃ。ご主人様にナデナデしてもらうところだったのにぃ‼」

「ナデナデなど百年早い。役に立ってからだ」

「そだな、そうしよう」

「にゃっ⁉ ご主人様まで……」

 クリスはこの世の終わりのような絶望した顔をしていた。

「じゃあ最後のドラゴン退治に行こうか」

「御意」

「はいにゃー」

 遂に最後の試練だ。ここをクリアすれば最強の剣が手に入る。いったいどんなだろ、楽しみだぜ。

 しかし階段を下りた先に同じような広いバトルフィールドはなく、ドラゴンの石像もない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る