七通目 世間とは狭いものだ②

「——お兄さんが足を躓かせて、その先にいた響子を押し倒しちゃった……っていうことなのね」

「はい……」


 まさか、ここでお姉さんと会うとは思わなかった。この響子さんとお姉さんは友人だったらしく、遊びに来る約束をしていたところに俺がたまたま配達に来て……。なんだか世間って狭く感じるよな……。

 はぁ、とため息をついて、テーブルを挟んで俺の向かいに座るお姉さんが再び口を開けた。


「響子、ちょっとわよね?」

「ふぇっ!?そ、そんなことないって!」

「あなた力あるんだから、抵抗できたでしょ」

「いやぁ、驚いて力が出なかったんだよ……」

「ふーん。まぁ、そういうことにしておいてあげるわ」


 お姉さんの口調がどんどん鋭くなり、響子さんを圧倒しているように見えた。

なんだかよく分からないけど大変そうだなぁ……。まるで他人事のように、そうやって傍観していると、お姉さんの怒りを孕んだ視線が次は俺に向けられた。


「……ばかっ」

「はい?今なんて言いました……?」

「ううん!何も言ってませんー!」


 頬を赤くし、腕を組んでそっぽを向かれてしまった。小声で呟かれたその言葉は俺には届かなかったが、それがいけなかったのだろうか?

乙女心とは難しいものだ……。

 だが、そんな彼女の様子を見た響子さんは、何かを悟ったかのようにご機嫌な声をあげた。


「ふっふーん♪アンタってもしかしてこのお兄さんのこと——」

「うっ、なによ……」

「ねぇ、お兄さん。この子、最近気になる人がいるらしいけど、そいつの話聞いてくれない?」

「あ、はい。聞きますけども……」


 突然話を振られた俺は少し戸惑った。

しかも、お姉さんが気になってる人だってぇ!?こんな美人な人を捕まえるとかどこのイケメン御曹司なんだよ…。トホホ。

 響子さんは、その話をさせまいとジタバタするお姉さんの頭を押さえながら話を始めた。


「なんかねー、最近よく会ってるらしくてさ。そこでこの子は自分の本性を曝け出したのに、相手のほうは何もナシ。まぁ、自分なりに誘惑してるつもりだったんだろうねー。それでも、自分のことを受け入れてくれたり、いろんなことを手伝ってくれたりと、優男なところもあるらしい。筋肉質な大きな背中も好きだとか言ってたな……。」

「なるほど……」

「あー、あとは、名前を呼んでくれないってな。お兄さんはそいつのことどう思う?」


 少し考えた。誘惑にのらず、ただ、お姉さんを受け入れ、優しくしてくれる。筋肉質で大きな背中ということは、女性にも人気はあるだろう……。名前を呼ばないというのは照れているのか?しばらく思考を巡らせ、俺は一つの答えを導いた。


「お姉さん、そいつはただのクズですよ!他にも女たちがいて、あなたはキープされてるだけなんです!」


 きょとんとして、二人はため息をついた。


「これは相当なにぶちんかもしれないねぇ」

「まだまだ道のりは長そうね」


 はて、どういうことなんだ……?

二人の発言に俺は疑問符を浮かべた。

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