第76話

「失礼しっ…」

 昼休みにもう一度保健室に行くと、まだ弓削ゆげさんはいた。

「お疲れ様です…」

「お疲れ」

 元気がない。目なんか腫れている。

 泣いたのか。

宇城うき君、今日はいいわ」

「良いんですか?」

「この子のケアが大事だから。明日、みっちり仕事して」

「そんなにないですよね」

「たんまりあるように準備しときます」

「はーい」

 そんなに弓削さん、精神的にヤバいのか。

 なら、俺はさっさと退散しないとな。

「それじゃ、戻ります」

「お疲れ様」

 保健室を出た。

 さて、ゆっくり教室に戻ろうか…ん?

 超特急で…うわぁ…。

絢子あやこ、走るな!」

 キキーッ、というブレーキの音が聞こえてきそうな感じで、絢子は止まり、今度は駆け足で来た。

「みおなん、保健室?」

「あぁ」

「ありがとう」

 絢子は急いで行こうとするのを俺は「待て」と止めた。

「行っても、先生に追い返されるぞ」

「えっ?」

「俺は委員会で来ただけだが、追い返されたからさ」

 すると、絢子は少し考えてから。

「それでも行く」

 力強く言って、ノックをしてから保健室へ入って行った。

「お節介だからなぁ…」

 誰かさんとおんなじだ。



「絢子ちゃん…」

「みおなん…」

 来てくれたんだ。

「ごめんね、黙ってここにいて」

「ううん、大丈夫だから」

 優しいな、絢子ちゃんは。

「何があったの?」

「…」

 私は黙る。

 巻き込む可能性だってあるから。

「言えない」

 正直に言った。

 すると、絢子ちゃんは「そっか」と力なく言って俯いた。

 ごめんね、本当にー…。

 暫くしてから突然。

「みおなん!」

「わっ!」

 びっくりした。


「ピンチの時はいつでも言って!助けに行くから!」

「ぁっ…ぅっ…」


 また涙がー…。

「うん、ありがとう…」

「泣かないでよー!私も一緒に泣いちゃうぞー!」

 とか言いながら、一緒に泣いてくれた。



「そうだったんだ…」

 雅虎まさとら君から話を聞いた。

 保健室にずっといたんだね…澪那みおなちゃん。

「何も出来ないから、悔しい…」

 私はシュンとなる。

琴坂ことさかが落ち込んでどうすんの」

「だって…」

 可愛い後輩のために、助けたいよ。

「何かあれば、SOSくるだろ?」

「あっ、そっか!」

「待とう、な?」

「うん」

 待つのも、優しさ、だよね。

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