第58話

「へぇ~、それは良いね~」

 挑夢のぞむはシュークリームを1つ頬張る。

「夏を満喫するには良いな!」

 磯辺いそべはコーラを一口。

「楽しみじゃん♪よし、新しいの買わなきゃだ♪」

 宮司みやじは張り切っている。

『私も行きたーい!』

 リモートで、久々のつばめさん。

 お元気そうでなにより。

 そんな中、たった1人だけ、お葬式のような雰囲気を醸し出す。

琴坂ことさか、おい」

「あっ…ごめんごめん!」

 どうした?

「嫌なら他の所にしても良いけど」

「ううん、大丈夫大丈夫!」

 慌てる琴坂。

「無理に合わせなくても」

「そ、そ、そんなこと!」

 おかしいな、なんかあるな。

「んじゃあ、絢子あやこに行くって伝えるけど良いんだな?」

 再度確認。

「あっ…」

 自信なさげに俯くが、切り替えたのか顔をガバッと上げた。

「うん!良いよ!」

 腹を括った、そんな感じがした。

 本当に大丈夫か?



 あー、どうしよう。

 みんな楽しみにしているし、良いって言ったけど…。

「はぁ…」

 溜め息しか出ない。

 お手洗いの鏡の前。酷い顔。

「みーやび!」

「わっ!さと!」

「さっき元気なかったけど、どうしたの?」

 言うべきか言わざるべきか…。

 でも、バレるし…。

「あのー…」

「ん?」

 里なら、大丈夫だよね。

「ここがー…さ…」

「えっ?」

 私は里の手を掴み、その手をある部位に触れさせた。

「普通じゃない?」

「よく確認して」

 里は意を決して触ると「あれ?」と言った。

「ごめん、カーディガンの上から良い?」

 私は頷き、ブレザーのボタンを外した。

 もう一度確認すると「うそ!」と驚かれた。

「えっ?どうして?」

「恥ずかしくて…」

「そっかぁ」

 里は私の制服を整えて、ブレザーのボタンをかけてくれた。

「進学率が高くて、学校がここだったから」

「そういうことね」

 ここだけしか、選択肢がなくて。

「なら、後でつばめも呼んで、3人で買い物しに行こう!」

「えっ?」

 すると里は私の耳元で囁いた。

「自分に似合う可愛いのを選んで、雅虎まさとら君を悩殺しちゃお!」

「ふぇぇ!?」

 ビリビリと電気が走るような感覚が身体中を駆け巡った。

「可愛いみやび♪」

 大丈夫かなー…不安。

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