第36話

 空き教室に私と磯辺いそべ君は、対面で座っている。


「ごめんね、貴重な放課後にさ」

「いえ、大丈夫です」


 ちゃんと話した事のない人と、しかも男の子と2人、警戒が混じる緊張でいっぱい。


「あのさ、タメで良いから」

「それは…その…」


 困ったなぁ、なんて言えば。

 そう思っていると、磯辺君は気付いたのか。


「あー、ごめん、徐々にタメで!」


 心の中で軽く溜め息。


「んじゃさ、本題なんだけど」


 何だろう?私、何かしたかな?


雅虎まさとらと何があった?」


 ズキッ…

 痛みのない痛みが胸に鋭く強烈に刺さった。

 私は俯いた。

 名前を聞いただけで、泣きたくなるから。


「直球過ぎたかもだけど、クラスメイトみんな、心配してんだよ?気付いてた?」


 みんなが…心配…?

 私は顔を上げて、首を横に振った。


「落ち込んでると、周りなんて見えないよなー」


 背もたれに体重をかけて、グラグラ揺れる磯辺君。


「仲直り、したくない?雅虎とさ」


 私は眉間に皺を寄せて、迷った。

 だって、だってー…。


「仲直り出来るなら、とっくに出来てるよ」


 スッと言葉が出た。

 あっ…敬語が消えてる。


「もう無理なんだよ…どうすることも…」


 諦めモードな私を見ている磯辺君は、ガタン!と椅子から立ち上がった。


「だったら、俺がなんとかする、諦めんな!」


 えっ…。


「磯辺、君…?」

「と言っても俺だけだと大失敗するかもだから、仲間と一緒にな」


 仲間って…。


琴坂ことさかさん」

「はい…」


「まだアイツに気持ちがあるなら、協力したい」


 ドクン…。

 力強い鼓動が、芯まで響き渡った。

 私…まだ、彼の事をー…。


「うぅっ…」

「えっ?!」


 涙が流れた。止まらない。


「えっと、うわっヤベッ!?」


 おろおろする磯辺君を無視して、自分の気持ちに意識がいった。


 こんなに好きなんだ…まだ、好きなんだ…

 諦めたくない…。


「いそ、べくん…」

「えわっ?!」


 変な声を出した磯辺君。


「助けて…くだ、さい…」


 泣きながら頭を下げた。

 すると磯辺君は「あったり前だ!」と大きな声で言うと、空き教室のドアが開いた。


「長いっての説得!」

「いや、だって!」

宮司みやじさん?」

「みぃちゃん、はいティッシュ~」

「のんちゃん?」


 何で!?

 驚いて涙が止まった。

 渡されたティッシュを使い、鼻をスッキリさせて、涙を拭く。


「廊下で様子見てたんだよみやび!」


 宮司さん、いきなり呼び捨て?!

 更に驚く。混乱しそう。


「話も聞いてた。黙っててごめんね~」

「のんちゃん…」


 本当に、心配してるんだ…。


「みぃちゃんの雅虎に対する灯火が消えてなくて良かった」


 ニコッと笑うのんちゃん。


「消えてたら、もう動く意味ないからね」

「宮司さん…」

さとって呼んで!」


 気さくな宮司さんに、少しだけ心が救われる。


「大逆転、するぜー!」

「「おー!」」


 拳を上げて盛り上がる3人を見て、私は笑ってしまった。


「ありがとう、よろしくお願いします!」


 私は久々にエネルギーが漲るような感覚になった。


 恐いこと、何もない。

 ちゃんと向き合おう…!

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