第22話

 何が起きたのか。

 何故会ってしまったのか。

 分からない。

 ガラガラ、と保健室の戸を開けて入った。


「あれ?宇城うき君じゃない、どうしたの?」


 保健室の先生が、今日も当たり前のようにいた。


「すみません、休ませて下さい」

「えっ」


 目を大きく開いて驚いている。


「横になるならベッド使って良いからね」

「ありがとうございます」


 俺はベッドの方に向い、カーテンを閉めて、靴を脱ぎ横になった。

 考える。さっきの出来事を。



 雅虎まさとら君が居なくなった後、彼を知る綺麗な女の子と対峙していた。


「名前は?」


 透き通る凛とした、ちょっと棘のある声。

 怖いなと思う。


琴坂ことさか…です」

「下は?」


 笑っているのに、笑っていない。

 何なのこの人。


みやび…」

「へぇー」


 関心のない返事。

 興味がないならさっさとどこかへ行って。

 私は保健室に行きたいのに。


「いつからまさちゃんとお友達?それともそれ以上の関係かしら?」


 やたらと私と雅虎君の関係が気になるようだ。

 ダメ、無理、怖い。


「ちょっと!」


 私と女の子の間に割って入ってくれた副会長さん。


「あんたいい加減にしな」

「先輩…」


 先輩もあの子を知っているようだ。


「大丈夫、みぃちゃん?」

「のんちゃん」


 挑夢のぞむ君もってことは…幼馴染み?


杏子きょうこ、随分と言葉遣いが酷くなっているわね」

「はぁ?あんたの方が丁寧でもたちが悪いな」

「何よ、失礼な!」

「さっさと帰れし!」


 なんか、ますます怖いんですが。


「挑夢ちゃん、雅ちゃんの所に案内して」

「ごめん、出来ない」


 のんちゃんが真剣に断ってる。

 いつもやんわり断るのに、断固拒否が伝わる。


「仕方がありません。今日はこれくらいにして帰ります」

「さっきから帰れって言ってんじゃん」

「杏子、挑夢ちゃん」


 その子は2人に向かって睨み付けてきた。

 でも、視線の中心が違う。私な気がして震えそうになる。


「必ずまた雅ちゃんに会うから。その時は絶対邪魔させない」


 この執着は何?


「それでは、ごきげんよう」


 不敵な笑みを浮かべて、お付きの人を従えて去って行った。


「はぁー」

「疲れたよ~」


 膝から崩れるように2人は床に座り込んだ。

 慌てて私はしゃがむ。


「先輩、のんちゃん、大丈夫?」

「琴坂さん、大丈夫だから」

「みぃちゃん、早く雅虎の所に行った方が良いよ~」


 緊張の糸が切れたのか、一気に疲れが現れている。


「あたしらのことはいいから早く」

「先輩…」

「早くゴーして~」


 2人に促された私は立ち上がり。


「つばめ、私のクラスの所にいるから、のんちゃんお願い」

「つばめちゃんが?OKー任せて~」

「では先輩失礼します」

「あいよー!」


 急いで保健室に向かった。



 少し気持ちが落ち着いた。

 保健室の先生はいるのに、誰もいない雰囲気だから、静かの極みである。


「宇城君、ちょっといい?」


 先生が俺を呼んだ。

 俺は起き上がり、靴を履いてカーテンを開けた。

 そこにいたのは、知っている女の子。


「琴坂…」

「心配で来ちゃった」


 気付かなかった。もしかして、俺、軽く寝てたかも。


「話せる?」

「あぁ…」


 真ん中にあるテーブルと椅子に向かい、廊下側にある椅子に座った。

 対面するように反対側に琴坂が椅子に座る。


「はい、ホットミルク。リラックスしてね」


 先生の気遣いに、ちょっとだけじんわりと心が温かくなった。

 ホットミルクを一口飲み、さらに落ち着く。


「美味しいです、先生」


 琴坂、美味しいって顔に書いてあるな。


「ただあっためただけよ?」


 パソコンに集中しながら会話をする先生。


「それが良いんです」

「ありがとう」


 微笑ましく感じた。


「雅虎君、あの子は誰?」


 いきなりの直球が投げられた。

 深呼吸をしてから言う。


「幼馴染みのつぐみ雅深まさみ


 俺の今まで出会った人の中で1番最悪な人。

 会いたくなかった。


「杏子と挑夢と俺と雅深、いつも一緒にいたんだ」


 幼稚園の時から一緒にいた幼馴染み。

 あるきっかけで壊れた関係である。


「そうなんだ…」


 真剣に聞く琴坂。


「教えて欲しい…詳しい、こと…」


 気になるよな。


「長く、なるけど」

「良いよ」


 いつかは話しても良いと思ってた。

 でも、言えずにいたあのこと。

 やっと誰かに、話す時が来たのだった。

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