地球だと思っていたら宇宙船のなかだった
黒白 黎
素人
高校生の光(ひかる)は帰宅部で学校が終えると同時に家に真っすぐ帰っていた。
ある日、親友の夕日(ゆうひ)から「わるい!! 一生の願いを聞いてくれ!!!」
ガチ頼みされ、ぼくは
「なんだい?」
と聞き返すと
「俺の部活動に入ってくれないか!?」
話しを聞いて見ると「地球部」という少人数の部活動に入っているという。来年先輩が抜けると3人以下になるため廃部に宣告されると生徒会長から脅されたという。
「俺の代で潰れるのは先輩たちの意思を踏みにじってしまう……だから、親友であるお前に頼みがある!! 俺と一緒に「地球部」に入ってくれ。お前にメリットはないかもしれないが……頼む!!!」
親友でなければ断っていただろう。ぼくは「いいよ」と返事した。
「地球部」は親友を含めて3人しか所属していないという弱小部活動だった。元々は先々輩が思い付きで始めたのがきっかけで当時は5人いたそうだが、先輩の代で3人にまで減り、来年には2人にまで減ってしまうという。
生徒会長から直々に「廃部宣告」をくらい先輩や夕日は廃部にならないよう片っ端から誘っているのだが、今のところぼく以外はだれも集まらなかったそうだ。
「そもそもどんな活動をしているんだい?」
そもそもの疑問だ。「地球部」なんて部活動紹介のときにポスターや活動記録などの部活歓迎会など聞いたこともない。それよりも夕日はどうやってこの部活のことを知ったのだろうか。いろいろと謎だ。
「わるい……今は答えられない」
「なんだよーぼくにでも教えれない事情があるのか?」
「いや……正直、ここじゃ話せないんだ」
何やら深刻そうだ。ぼくは場所を変えて話そうと提案するが、夕日は
「部室で話す」
としか断じて譲らなかった。
ぼくは夕日の指示通りに従うことにした。それだけ他者に漏らしたくない部活動なのだろう。はて? それじゃこの部活動は幽霊部なのだろうか。特に活動記録もなければ部活歓迎会もしていない。謎が多い部活だ。そんな部活を
「廃部にさせたくない」
といい仲間を集めている。これはおかしいんじゃないのか? だって、なんの記録も活動もしたこともない部活動をメンバーが足りないからといって大げさにメンバーを集めている。しかも、誘っても詳しいことは話さないなんておかしなことだ。
ぼくは夕日には悪いけどこの件は止めにしようかと揺さぶりをかける。
「なぁ、怪しい宗教みたいで、ぼく嫌なんだけど……本当に話せないなら、ぼくは降りるよ」
入らないことを述べると夕日の目つきが変わった。希望に満ち溢れていた目はみるみると暗くなっていき、終いには虚無になった。少し大げさだ。ぼくが入らないからといってそこまでなことになるのだろうか。
廊下の端っこについた。そこには「相談室」と書かれたプレートがぶら下がっていた。
「ここだ」
夕日は大きな声で
「失礼します」
と戸を開けた。
中にいたのは長い黒髪が特徴のとても美しい少女が本を読んでいた。窓から差し込む光がちょうどよいのだろか、凛々しい表情で読み続けていた。
「先輩はまだ戻ってきてはいないようだな」
先輩が腰かけているであろう椅子の上には学校カバンが残されていた。先輩は外出のようだ。
「闇さん、今から俺、先輩を呼びに戻ります。その間、俺の親友……光に教えておいてくれ!」
そう言って戸を閉めつつ
「説明(あと)は頼みました」
と走って行ってしまった。置いてけぼりをくらい、僕は女の子と一人きりでなるのは初めてのことであり、ひどく緊張しなにも話せず固まってしまった。
「本を読んでいるから静かにしてね。あんま、そこらへんに立っていると落ち着かないから適当な椅子に座っていて」
ぼくは椅子の上にカバンが置かれていない方の椅子に腰かけた。闇さんはまじまじと本を読んでいる。ときせつ髪を逸らしながら真剣に本を読んでいるのを邪魔をしてはいけないなぁと声を掛けずにいると、
「君の名前は?」
え? さっき夕日が簡単に自己紹介してくれたはずだが…まあ、いいか。
「あ、光(ひかる)です」
「光君は夕日くんと親友なの?」
「ええ、まぁ」
曖昧な返事だったが、闇さんは続けて質問をした。
「地球部に入って正直どう思う?」
「え? 説明もなしにつれてこられたので、なにをするのかさっぱりで……」
闇さんは本に栞を挟むとこっちへ振り返った。
「……私ね、正直言ってこの部活動は帰宅部と何も変わらないよ」
「え!?」
「まあ要するに、ネットや本とかで気になることがあったら現地へ行って調査する……まあ、オカルト部のようなものね。ただ違うのは、ネットや本でも手に入らないものを調べるのが私たちの部活の活動内容なのよ。もちろん、これは表ざたになってはいけないから、表向きに公表できないのよ。だから部活歓迎会(部活勧誘)やポスターなどで知らせるのはNG。ここは、口噂でようやく入れる秘密の部活なのよ。今は、先輩や夕日くんが廃部しないためにも活動しているけど、正直、生徒会長からの脅しが一番聞いたかも。今まではお菓子を食ったり寝たり本を読んだりとぐうたらなことをしていたからバチを受けたんだと思う。だから、いい薬ね」
まるで生徒会長を唆したかのように聞こえる。
「さて、自己紹介がまだだったね。私の名前は闇(やみ)。よろしくね光君」
闇さん……同じクラスメイトだ。影が薄く存在自体があやふやでクラスからも浮いていた。だけど、こうして話してみるとまるで別人みたいだ。
闇さんは立ち上がるなり、窓を閉めカーテンも閉める。本を自分のカバンの中にしまい込む。
「夕日くんが帰り次第、見てほしいものがあるのよ」
そういう闇さんは優しくとても明るい顔をしていた。魂が抜けたかのような暗い印象はどこにもいない。「地球部」以外で見かける彼女の印象とはまったくかけ離れていた。
場所を変え、ある場所へ向かっていた。
途中で夕日や先輩(日暮)たちと合流し、簡単な自己紹介をした。
そこは幼いころから警察や先生、両親から立ち入ってはいけないと念を押された場所だ。この扉を開けたら最後、戻ってこれないと脅されていたからだ。
小学生の頃、悪ふざけで何人かの子供が目の前で消えていったのを頭の片隅に隠していた記憶がいまとなって思い出す。
あの時は、いなくなった子供たちの両親が必死で探し回っていたのが子供ながらとても怖く怯えていたのを思い出す。
そんな扉を前にぼくは自然と足を止めていた。竦んでいた。あの時の恐怖が再び蘇ったのだ。
「足が震えているね」
「怖いのでしょうね。誰だってそう」
「みんなここでの恐怖を受け付けられている。そう、俺らも植え付けられている」
夕日はニコニコと微笑みながら、扉の取っ手に手をかけた。
ぼくは止めるよう口を震えながら伝えようとしたが、真っ先に扉が開くのが早かった。ぼくは見たくない光景を無理やり見せられているかのような気分に飲まれ、その場で吐いてしまう。
それを見ていた夕日たちはぼくの気持ちを顧みずに腕を引っ張って扉の外へ連れ出した。ぼくは必死で「行きたくない! 行きたくない!! 行きたくない!!!」と叫び続けながら扉の外へ引き込まれた。
目をグッと閉じていたが、夕日が「美しいと思わないか。この光景を大人たちはずっと隠していた。何十年、何百年、何千年と、このことがバレたくないためにぼくたちはトラウマと呼ばれる恐怖をずっと植え付けられていたのです」と語る声にぼくは瞼をゆっくりと開けた。
すると、想像を絶する光景が広がっていた。
宇宙だ。真っ暗い世界に包まれながら点々と白く光っているものが見える。それが無数にある。数える事さえできないほどだ。
「これが宇宙だよ。大人たちがずっと隠してきたものだよ」
指さしながらぼくに説明する夕日。その横で腕を組みながらゆっくりと右から左へと移動する日暮(ひぐらし)先輩。
「「地球部」は、真実を見つけるために先々輩が立ち上げた秘密の部活動なのさ。だから、表向きに活動はできなかったんだ」
誰かがコツコツと足音を立てながらこちらへ歩いてくる。
「新しいお客さんかな。銀河少年団の諸君」
ぼくは目を大きく開き、驚きの声を上げた。
「宙(ちゅう)さん!!?」
その人は小学生の頃、扉に吸い込まれ行方不明なった友達だった。
「大きくなったな。あんときは、おしまいだと思ったぜ」
ニッコリと口元が笑う。
「えー……どういう……ことなの??」
状況が全く読めず、闇さんや夕日さんに目を向けると
「俺達は銀河少年団なんだ」
「銀河……?」
「少年団。このだたっぴろい宇宙から俺達の故郷「地球」を探す冒険の旅さ。俺達は数少ないユニットの一員なんだ」
「つまり、私たちは飾り付けした「地球」ではなく本物の「地球」を探すのが目的なの」
「じゃあ、僕たちがいた「地球」は……?」
日暮先輩が言った。
「ここは、宇宙船の中。オレたちはずっと宇宙船の中を「地球」だと思い込んでいたのよ」
日暮先輩曰く、何千年ものの昔、人類は何らかの事情で「地球」を捨てて広い宇宙の果てをさ迷うことになった。長きにわたり宇宙船の中を「地球」と呼び慕うようになり、それに乗じて当時の人たちは「地球」を再現して、あたたかも本当の「地球」であるかのように偽装した。しかし、その真実を気づいた人たちもいたが、「地球」でありたい人たちに静かに消されていったのだ。かすかに生き残った人たちは「銀河少年団」と名前を変え、ユニットを組み、本当の地球を探す名目で小型宇宙船に乗せて旅立たせるようになった。
日暮先輩が言い終える前に夕日が話しに割って入った。
「つまり、今二つの組織が絡んでいるんだよ。【本当の地球でありたい】と【本当の地球を探したい】と別れちゃっているんだよね。それが面倒でね。【本当の地球でありたい】連中は真実に知られないためにも【外へ通じる扉】を作った。俺達は【外へ通じる扉】から人が消える恐怖を受け付けられ、外へ出ないように教育を施した。もし、外に出たら始末すればいい」
夕日が話しを終える前に今度は闇さんが割ってい入った。
「そう考えた人もいたが、宙さんのように助けたい人もいた。ただ消えていくだけでなく助け、銀河少年団という組織を作りそこに忍び込ませることで存在自体が消えてしまったかのように偽装をした」
「銀河少年団は、【本当の地球でありたい】に長く滞在することは少なく、主に【本当の地球】を探すために宇宙船の外へ出ている時間の方が長いことから、今まで捕まることはなかった」
宙さんは胸に手を置き、助けてくれた誰かに感謝の気持ちをこめながら会釈していた。
「真実をすべて知った今、光さんはどっちへ行きたいですか? 【本当の地球でありたい】と【本当の地球を探す】と」
闇さんの問いにぼくは正直に答えた。
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